「カナリア俳壇」40

昨日は温かくて、まさに小春日和でしたね。コロナ禍は心配ですが、吟行は人混みをさけて一人でもできます。ささやかな時間を大事にしたいと思うことしきりです。さっそくご投句順にみていきたいと思います。

○朝の庭菊の蕾のふくらめり     蓉子

【評】すなおな作りで結構です。上五をもう少し強め「今朝の庭」とするとさらによくなります。

△夫病み晩秋淋し夕間暮れ     蓉子

【評】「病む」と「淋し」では即き過ぎですね。気持ちをぐっと抑えて「淋し」と言わないことが俳句では大切です。「晩秋の小さき夕日や夫病む」など、できるだけ客観描写を心がけましょう。

△大口開く通草似てゐる半裂に     芋子

【評】まず上五が字余りです。それから「半裂」はオオサンショウウオの別名で夏の季語ですね。季語を季語で喩えるのはよくありません。俳句は季語が主役の文芸。主役の女優さんを別の女優さんに似ていると言っても褒め言葉になりませんよね。

△~○朝日射す阿蘇湧水に潜る鳰     芋子

【評】上五で切れてしまう感じがするので、そのへんを一工夫したいところです。たとえば「日を散らし阿蘇湧水に鳰もぐる」くらいでいかがでしょう。

△冬紅葉覗くスマホに妻の頬       美春

【評】句材が多くて、意味がすんなりと通りません。作者は冬紅葉よりも奥さんの頬に見とれているのですね。「スマホ」は省略しましょう。とりあえず「冬紅葉妻のかんばせ染めにけり」としてみました。

△信楽焼の二合徳利燗熱し    美春

【評】上五が字余りで調べがよくありません。俳句は575という基本を大事にしましょう。初心忘るべからずです。「徳利は信楽焼や燗熱し」。

○どこまでも蒼空つづく欣一忌     ひろ

【評】すなおに詠まれた句で結構だと思います。「どこまでも」とあれば「つづく」は省けるかもしれませんね。一案として「どこまでも空あをあをと欣一忌」と考えてみました。

◎釈迦仏のひろき掌冬うらら     ひろ

【評】あたたかみがあって大変結構です。冬の日差がどこか後光のようでもあります。

△~○おなもみのブローチ飾る秋の原     多喜

【評】おなもみは別名「ひっつき虫」で、これ自体で秋の季語になります(夏の季語としている歳時記もあるようですが)。ですから下五をもう一工夫しましょう。「おなもみのブローチ胸に子ら帰る」など。

◎露店組む明日は目黒の酉の市     多喜

【評】皆が和気藹々と露店を組んでいる様子が見えてきました。「明日は」という措辞が気持ちの高まりをうまく伝えています。

△~○着ぶくれてシニアグラスのずれ易し    音羽

【評】「着ぶくれて」と連用形にすると、着ぶくれた〈せいで〉シニアグラス(老眼鏡)がズレ易いのかなと一瞬因果関係を想像してしまいます。上五で切れがほしいところです。また、「着ぶくれ」も「シニアグラス」も身につける物ですから、発想に飛躍がありません。季語はもっと離したほうが面白くなりそうです。一例ですが「日向ぼこシニアグラスのずれ易く」など。

△~○月齢を絵解きの吾子よ冬うらら     音羽

【評】「絵解き」は仏教的なイメージが強いので、別の言葉が見つかるといいですね。「吾子よ」の「よ」が強すぎです。また「冬うらら」は主として戸外で使う季語です。「月齢の記録書く子や栗おこは」など、生活感がうまく出ると面白い句になりそうです。

◎清姫の絵解き佳境へ冬ぬくし     徒歩

【評】道成寺の縁起堂で絵解き説法を聞かれたのですね。「佳境へ」が愉快です。絵解きしている人も一段と力がこもったのでしょう。季語もぴったり。

○安珍の鐘見当たらず石蕗の花     徒歩

【評】あるべきはずの場所に鐘がなかったのですね。季語にまだ選択の余地はありそうですが、とりあえず「石蕗の花」で落ち着いた句になりました。清姫を思って「女郎花」を置く手もありそうです。ここは季語でうまく成仏させてあげたいところです。

◎秋晴や布目をすべる裁ち鋏     妙好

【評】一読、気持ちのすっとする句です。「布目をすべる」の「すべる」が効いていますね。

◎親指でぺん胼胝撫づる夜長かな     妙好

【評】この句もいいですね。わたしも今、親指でペンだこのあった辺りをなでてみました。ただ、パソコン生活になってから、ペンだこはすっかり退化してしまいましたが。

◎倒木を跨ぎ山越ゆ小六月     マユミ

【評】「倒木を跨ぎ」に臨場感があります。明るい季語から察するに、本格的な登山ではなく、ハイキングを楽しまれたのでしょうね。

○罅入りし胞衣皿の蓋そぞろ寒     マユミ

【評】もともと「胞衣(えな)」とは胎盤のこと。素焼きの皿を合せ口にした胞衣皿は、呪術的な目的で埋葬された土器らしいですね。「罅入りし」と「そぞろ寒」がよく合っていますが、季語をもう少し飛躍させる(離す)余地もありそうです。

○あかときの空よ声立て小鳥来る     万亀子

【評】作者も鳥も早起きですね。だいたいけっこうですが、「空よ」の「よ」が強すぎます。「小鳥来る」に重心を持ってくるとすれば、「あかときの空に」でいかがでしょう。

△~○冬ぬくし気ままに増ゆる寺の猫     万亀子

【評】「気ままに増ゆる」が日本語表現としてしっくりきません。「冬ぬくし家族増えたる寺の猫」などもう一工夫してください。

◎縁側は一枚板や冬日さす     織美

【評】「重森三玲旧宅」の前書があります。「一枚板」がいかにも素朴な感じで、冬の日のぬくみとよく合っています。心安らぐ句です。

△白菜や早く育てと声をかく     織美

【評】「や」で切ると、取り合わせの句になりますから、そのあとは上五と離れた展開にしないといけません。この場合は、最初から終わりまで一続きの内容ですので、「や」では切れません。「白菜に」とするのがすなおです。

△拾ひては洩るる団栗稚児の手々     ゆき

【評】現代では「稚児行列」のように「稚児」は独特な意味合いで使われることが多いので、「幼子(おさなご)」など、もっとすなおな日常語を使いましょう。それから「手々」も今一つです。「児の手より団栗一つ滑り落つ」など。

△園児の陶無事窯出せり棉の吹く      ゆき

【評】上五は「えんじのすえ」と読むと6音で字余り。字余りは不可です。「窯出す」という言葉はありません。「窯出しする」あるいは「窯より(から)出す」ですね。「棉の吹く」という季語も何だか唐突です。とりあえず「冬うらら窯より出せる子の絵皿」としてみました。

△~○霜降のお萩温める夕間暮れ       永河

【評】霜降とは初めて霜が降りる意で、新暦10月23日頃ですね。ところで一日のなかで霜が降りやすいのは早朝で、霜降という季語も明け方から午前中のイメージがあるような気がします。「夕間暮れ」は略したほうがよくはないでしょうか。「霜降のすこし冷めたるお萩かな」などご一考ください。

△立冬や母の日捲り明日示し       永河

【評】立冬という季語もふつう午前中に用いるものだと思います(「今日から冬だ」という思いは一日のスタート時に抱くので)。まだ今日が始まったばかりなのに「明日示し」では、立冬が生きていない気がします。とりあえず「立冬や母の日めくり剥がれかけ」としてみました。

△甘党の夫に渋柿求む市     白き花

【評】句意がとりづらいのですが、要するに甘党のご主人のために、干柿を作ろうと思い立ったのですね。それならば、朝市で渋柿を買ったことは省略し、それを吊した場面を句にしたほうがすなおだと思います。「甘党の夫にとあまた柿干せり」など。

△授かりぬ無患子一つ妙興寺     白き花

【評】このままですと上五で切れ、中七でも切れ、いわゆる三段切れになってしまいます。「切れは一箇所に」ということを忘れないでください。「授かれる無患子一つ妙興寺」とすれば、上五が連体修飾となって中七につながります。しかし「妙興寺」は前書にして、誰から授かったのか明示したほうが具体性が増します。「学僧に無患子一つ授かりぬ」など、推敲してみてください。

次回は12月8日に掲載します。前日7日(月)の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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