「カナリア俳壇」39

朝晩、だいぶ寒くなってきました。ただ、紅葉のピークはこれからですね。もうしばらくは秋を満喫したいものです。今回もたくさんのご投句をありがとうございました。早速、投句順にみていきたいと思います。

○古稀なるや末枯れくぐり一息す    美春
【評】末枯の景色のなかでしみじみと古稀を実感されたのですね。順序を入れ替えて、「末枯をくぐり一服古稀となる」でどうでしょう。

△みみず鳴く仕舞いし畑や荒るるなり    美春
【評】この句は上五で切れ、中七でも切れています。こんなふうに2カ所で切れて、一句が3つに分断されてしまうことを「三段切れ」と呼んで、俳句ではタブーとされます。切れは1カ所にとどめるのがルールです。また、「みみず鳴く」も「畑仕舞ひ」も季語ですから季重なり。「捨て畑は荒るるばかりや蚯蚓鳴く」。

△秋澄みし空の彼方に虹かかり    蓉子
【評】「秋澄む」も「虹」も季語ですね。虹は澄んだ空に出るものですから「秋澄みし」は省略し、「秋の虹」を用いて作り直してみてください。たとえば「秋の虹空の彼方のまだ濡れて」など。

△秋日和大きく吸つて深呼吸    蓉子
【評】「大きく吸つて」と「深呼吸」が意味的に重複気味です。「秋日和大きく息を吸ひにけり」または「秋日和大きく息を吐き出せり」など。

◎小春凪カーブミラーに海光る    音羽
【評】スタイリッシュな句ですね。ユーミンの曲が流れてきそうです。

○咳き込めばあまたの視線矢の如し    音羽 
【評】新型コロナのことが背景にあるわけですので、前書に何か付けておくといいですね。おもしろい句ですが、「矢の如し」が言いすぎかなという気もします。「咳き込んであまたの視線一身に」くらいでどうでしょう。

◎鷹渡るまじまひ歌の歌碑の上    マユミ
【評】「まじまひ歌」のことを知らなくても、あるいは知らないから余計に魅力的に感じる作品です。けっこうです。

◎山車蔵へ詫び法螺吹けり浦祭    マユミ
【評】コロナのせいで今年は山車を曳くこともできませんでした。神様には申し訳ないことをしたというわけですね。「詫び法螺」に納得です。将来、句集に収めるときのために、何か前書を付けておくといいですね。

△甲羅干す亀の目に映ゆ照紅葉    妙好
【評】「われの目に映ゆ」なら納得ですが、亀のことがなぜ分かるのかという疑問があります。「甲羅干す亀の目うるむ照紅葉」など、客観描写を心がけましょう。

△~○柳散る水辺の亀の目の動く    妙好
【評】「水辺」は不要でしょう。句意はわかりますが、「の」のつながりがちょっともたつく感じです。「亀の目のかすかな動き柳散る」など、もう少し推敲したいところです。

○冬瓜の蔓攀ぢ登る柵ネット    多喜
【評】「攀ぢ登る」という言葉を使ったところがこの句のポイントですね。冬瓜の生命力が伝わってきました。

○錠剤に日付記せり朝寒し    多喜
【評】概ねけっこうです。ただ「記せり」と「朝寒し」を並べおくとやや平板な調べになってしまいます。「朝寒や錠剤ごとに日付書き」などとすれば、もうすこし彫りの深い、目鼻立ちのくっきりとした句になるように思います。

○眩しさに種透け見ゆる葡萄かな    徒歩
【評】鋭敏な感覚の句です。難点は「眩しさに」の「に」が曖昧なこと、そして「見ゆる」は言わずもがなであることでしょうか。「種透けて葡萄一粒づつ眩し」など、もう少し推敲してみてください。

◎もてなしのみちのく訛り菊膾    徒歩
【評】これは思いのこもった良い句ですね。特に「みちのく訛り」からいろいろと想像がふくらみます。「菊膾」もきまっています。

△佃煮でやっと見つける蝗かな    白き花
【評】農薬を使うせいか、田んぼでも生きたイナゴを見かけなくなったとの思いがあるのでしょうね。句意はよくわかります。しかし「やっと見つける」は観念。これは絵になりません。白き花さんが同じことを絵画にするとしたらどう表現しますか。「やっと見つける」という思いを絵で表わすつもりで俳句にしてください。その句をみた読者に「久しぶりにイナゴをみたのですね。わたしも子供時代のことが懐かしくなりました」と言わせるように作ってほしいと思います。俳句は説明や観念ではなく感覚の詩です。

△メール待つ人の恋しき秋の暮    白き花
【評】メールを待っているのは作者自身ですよね。ちょっと誤解を与える表現です。それから俳句では「恋しき」のような感情表現をナマで使わないほうがよいとされます。それは読み手に悟らせるものだからです。「メール待ち焦がれて秋の暮るるなり」など、「恋しさ」を言わずに恋慕の情を出す工夫をしてみてください。ついでながら、わたしも以前「一心に待つ便りあり秋簾」という句を作りました。

△~○美濃路より爺に土産の熟柿かな    織美
【評】美濃の柿ということは富有柿でしょうか。「爺に」が言葉としてときめきません。せめて「祖父に」とするか、「父に」と置き換えるといいでしょう。もちろん「夫に」(この場合は「つまに」と読みます)でもけっこうです。「家苞に選ぶ大柿美濃の旅」として、誰にという部分を省略するのも手でしょう。

◎軒下の薪の高さや秋深し    織美
【評】これはしっかりと写生された句です。季語も効いています。

◎奥入瀬の泡立つ淵や紅葉散る    万亀子
【評】「や」の切れ字も効果的ですし、季語も申し分ありません。ぴたりときまった美しい句です。特に「泡立つ淵」と具体的に描写したところが大変けっこうです。

△~○ぶなの木に深き爪痕熊の森    万亀子
【評】臨場感のある句です。下五「熊の森」がどうでしょう。「ぶなの木」とありますから、「森」はなくてもいいかもしれません。とりあえず「深々と橅に爪痕熊来しか」としてみました。

◎入れ歯とる母の手細き夜寒かな   永河
【評】「入れ歯」を使った句はあまり例がないように思います。しかしこのような物からも詩情が引き出せるのが俳句の強みですね。母を気遣う気持もよく伝わってきました。

△~○藁はだきカラス刈田に虫を食む    永河
【評】「藁はだき」はあえて漢字を使えば「藁叩き」でしょうか。正直なところ今一つ「はだき」がわかりませんでした。烏がくちばしで藁を地面にたたきつけて虫を食べている場面を想像しました。俳句では、「カラス」は片仮名にせず、「烏」または「鴉」を使いたいところです。

次回は11月17日(火)に掲載の予定です。前日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。皆さんの力作をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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