かわらじ先生の国際講座~米次期政権と世界

一言でいって大変な米大統領選挙でした。バイデン氏、トランプ氏ともに7000万票を超える得票でまれにみる接戦でしたし、まさにアメリカ全体が立ち上がった感のある選挙でした。トランプ氏はまだ敗北を認めていませんし、決着がついたと断言していいのかどうかも曖昧な状態ですが、バイデン氏の勝利で間違いないでしょうか?

集計はまだ完了していませんが、11月9日午前の段階で、バイデン氏は当確に必要な選挙人数270を優に超える290を獲得していますから、もうひっくり返ることはありません。トランプ氏自身は負けを認めていませんが、代わりに共和党出身のブッシュ元大統領がバイデン氏に「心からの祝意」を送っています。

新大統領の就任式は来年1月20日とのことですから、いずれにせよトランプ現大統領はあと2ヶ月以上任期を残しているわけです。この間に何か劇的なことが起こる可能性はないのですか?

言うまでもなくアメリカは民主政の国ですから、いかなる政策にせよ、大統領の一存で一気呵成に事が成るというわけには行きません。大統領の側近、閣僚、議会、官僚機構、それにトランプ氏の支持母体である共和党など様々な組織が「安全装置」の役割を果たしますから、万一トランプ氏が世界をあっと言わせる政策を今から打ち出したくても、それは通りません。いま彼に求められるのは次期政権に権力を明け渡すまでの間、現状を維持し国を管理することです。

では、次期大統領バイデン氏には何を期待しますか?

今回の選挙でアメリカ国内の分断と対立が改めて浮き彫りにされました。今年になってアメリカでは銃の売り上げが記録的な伸びを示したそうです。何だかリンカーン大統領の南北戦争の時代を思い出させます。このような国内の亀裂をどう修復させるか。この点はバイデン氏もよく自覚しており、7日に行った勝利演説で繰り返し結束の必要性を説いています。↓

 NHKニュース 
【詳報】バイデン氏が演説で語ったことは? | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201108/k10012700821000.html
【NHK】アメリカ大統領選挙で当選確実が伝えられた民主党のバイデン前副大統領は、7日、地元デラウェア州で演説し、勝利を宣言しました…

自分は分断ではなく結束を目指す大統領になる。アメリカは1つの合衆国なのだ。相手を敵視するのはやめよう、みなアメリカ人なのだ。わたしは自分に投票しなかった人たちのためにも力を尽くす。アメリカは誰一人置き去りにしない。――こうバイデン氏は強調しました。この結束の必要性はアメリカ国内のみならず、国際社会にも適用されることになるでしょう。

具体的にはどのようなことですか?

トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げ、国際協調路線から離れましたが、それを修復することが次期政権の公約です。具体的には、現政権が離脱した地球温暖化防止の枠組みである「パリ協定」に来年1月早々、復帰することが見込まれています。またバイデン氏は、WHO(国際保健機関)に戻ることも明言しています。さらに、トランプ大統領はイラン核合意から一方的に離脱してしまいましたが、バイデン氏は、イランが誠実に核合意を守るならば、この合意に再び加わる用意があることも言明しています。ただしTPPに関しては何も述べていません。この点は日本にとって大いに気になるところですが、当初からTPPは中国とロシアが経済のブロック化だと非難していましたから、これに復帰することが世界の分断克服を意味しない点を考えると、新政権がTPPに戻るかどうか疑問ですね。

2国間関係についてはどうでしょうか?まず日米関係はどうなると見ますか?

少なくともトランプ大統領と安倍前首相のような個人間の絆をアピールする関係にはならないでしょう。在日米軍駐留経費(思いやり予算)を5倍に増やせなどといった突飛な要求は出さないでしょうが、アメリカは日本を同盟国の1つとして実務的に遇するのではないでしょうか。バイデン政権になって韓国は窮地に陥るといった見方もあるようですが、どうでしょう。韓国もアメリカにとって大事な同盟国ですし、核・ミサイル開発に関して北朝鮮の譲歩が引き出せなければ、韓国の安全保障上の重要性は増しますから、アメリカは一段と韓国を重要視するかもしれません。日本だけがアメリカに大切にされているかのような幻想は持つべきでないと思います。

アメリカと中国やロシアとの関係はどうなるでしょうか?

選挙キャンペーン中バイデン氏は、中国に対し毅然とした態度をとる旨表明していました。今後も中国とは経済、軍事面で競争と対抗の関係が続くものと考えられます。特に民主党は人権問題を重視しますから、香港、台湾、さらに中国国内の少数民族への対応をめぐって習近平政権とは厳しいやり取りが行われることが予想されます。他方、オバマ政権は中国をアジアで最重視していました。そしてバイデン政権もそれを継承することになりそうですから、中国を排除した国際秩序形成ではなく、いかに中国と共存するかに注力するものと思われます。
ロシアのプーチン政権とは緊張した関係になりそうです。バイデン政権はEU諸国との同盟関係を大事にすることでしょう。とすれば、クリミア問題等でもロシアに譲歩はできません。一方、核軍縮路線はオバマ政権の重要な「遺産」であり、バイデン政権はそれを引継ぐことになるはずです。トランプ大統領はロシアとのINF全廃条約を破棄しましたが、新大統領は何らかの形で核軍縮を進めるものと期待されます。この分野に手をつけなければ、オバマ政権時に副大統領を務めた者の名折れでしょう。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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