菅内閣の顔ぶれにまたしても女性が少ないということが話題になっていますが(それ以前に総裁選に結局女性議員は立候補できなかったということもありましたが)、少し前にアメリカのアカデミー賞の作品賞に「多様性条件」が設置されるというニュースがありました。
この件、あんまり映画に興味なさそうな人ほど「多様性の押し付けによって逆に多様性が失われる!」的な謎の反発をしてて、アカデミー賞を毎年追ってるような人は「大々的に発表した割には控えめなルール設定だな…(まぁこういう明文化自体はいいと思う)」って反応な印象だ。https://t.co/fM0Ahbcgz3
— ぬまがさワタリ@『ふしぎな昆虫大研究』 (@numagasa) September 9, 2020
女性、人種・民族的マイノリティー、性的マイノリティー、障害者などを、次の4項目のうち少なくとも2項目で、少数派を起用したり反映させたりすることを作品賞のノミネート要件としました。
①スクリーン上の表現とストーリー展開。特に、主演、あるいは主要な助演の俳優に人種・民族的マイノリティーを起用すること
②製作陣のリーダー、部門ごとのリーダースタッフの構成
③有給の見習い、インターンシップ、研修生
④広報からマーケティング、流通に至る、顧客と関わる部門
ネット上ではこのニュースに対して、「アジア人しか出てこない日本の映画はどうなるんだ!」という反発なども見られますが、それは違います。
多様性を推し進めるアカデミー賞の新基準。「映画が変わってしまう」という批判の愚 https://t.co/OgtupaxzO2
— ハーバー・ビジネス・オンライン (@hboljp) September 10, 2020
上述の4項目を見るとわかるように、規準はかなり緩やかなものです。また、アカデミー賞はアメリカのものですから、多数派とは主に白人の男性を指します。アジア系は少数派ですので、「日本映画はほとんど却下される」というのは間違いです。
映画にせよ文学にせよ、作っている人はあまり意識していないのかもしれませんが、多数派の世界観を押し付けたり、少数派の存在を無視したりするものになりがちです。そしてそういう作品が普及することで、少数派の人たちが嫌な思いをすることも少なくありません。
トランスジェンダーの方々を映画がどのように描いてきたのかに関する動画がこちらにありました。
畑野とまとさんと北丸雄二さん、トランスジェンダー映画を語る https://t.co/rcb2Ruefop @YouTubeより
— 池田香代子 「100人村 お金篇」 (@ikeda_kayoko) September 11, 2020
文学についても、黒人や女性などマイノリティが排除されていることを問題として指摘する声があります。
"『Queenie』は良い作品だが、黒人女性が書いた受賞に値する素晴らしい本は過去にも存在した。そのことが悲しかった。自分を誇りに思うとコメントする代わりに、どんな人でも自分の物語を語ることができるような、誇りに思える出版業界を望むと発言していた"✊🏾#VogueHope https://t.co/GYAZbpm71q
— VOGUE CHANGE (@VogueChange) September 4, 2020
さて、日本ではどうでしょうか。
日本は多様性への取組は非常に遅れていて、ジェンダーギャップ指数による男女平等の達成率の順位は、2020年度で153か国中121位です。
こんな国ですからね。https://t.co/utpyurzHKh
— 形だけの民主主義はいらない (@GUN_SP) June 5, 2020
確かに、「コロナ後の世界」を考える特集の執筆陣が男性ばかりだったり…。
描かれる場に女がいない「コロナ後の世界」。気色悪いけれど、珍しい風景ではない。政治も学問も企業も「未来を描く」場に女は呼ばれない。延々櫛比する男の名前。多様性を論じる気?
若い書き手にお願い。依頼が来たら「他の顔ぶれは?」聞いてから引き受けて下さい#mansplainingthepostcovidworld https://t.co/HAcgyApgMs— ロバート キャンベル (@rcampbelltokyo) August 22, 2020
2年前の記事ですが、経団連もすごいですね。大学も含めて教育への要望(介入)もさかんにしてくる団体であることを考えると、正直嫌になります。
全員男性、日本人。30代、40代はおろか50代もいない、起業家もなし、転職経験なし、東京以外の大学を出たのは1人だけ→経団連、この恐るべき同質集団:日本経済新聞 https://t.co/kwikZjaTbi
— Hiroshi Yamaguchi (@HYamaguchi) June 20, 2018
メディアも。
話題になった日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」に対して、新聞社やテレビ局はどうなんだと検証。/大手メディア、この恐るべき同質集団 取締役で合計80人中、女性2人 転職経験者は1人 https://t.co/0c7udhh0yP
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) June 30, 2018
ちょっと違いますが、こんなものもありました。
神奈川県のポスター
「女性がどんどん主役になる」写ってるの全員男性ではないですか?#変な広告 #男女平等 pic.twitter.com/Vp3vbEf4nG
— 発達障害とIT活用(dd10dx) (@dd10dx) December 13, 2019
米国などでは、「男女平等」が言われた後に、「白人女性だけの男女平等ではだめだ」とアフリカ系女性も含めた運動に広がったり、性的マイノリティなども含めるようになったりという展開があるのですが、日本はまだ入り口に立ててすらいないような状態かもしれません。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。