「カナリア俳壇」29

毎日新型コロナウイルスのニュースをみていると、すっかり気が滅入ってしまいます。俳句が気持ちを奮い立たせ、生活に張りをもたせるための一助になることを願っています。
今回もたくさんのご投句をありがとうございました。さっそく順にみていきましょう。

△指の間を砂の零るる啄木忌    えみ
【評】これは啄木の名歌〈いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指のあひだより落つ〉をただなぞっただけ。手品でいえば、はじめから種明かしをしているようなもので、これでは読者に驚きや感銘は生まれません。もっと季語から離した事物を取り合わせてほしいと思います。

○春昼に借りる本屋の空気入れ    えみ
【評】なじみの本屋に立ち寄ったついでに、自転車の空気入れを借りたのですね。これは意外性があって面白い句です。

○逃水を抜け出でハーレー疾走す    音羽
【評】ハーレーの力強さとスピード感がうまく捉えられています。中七が字余りですから、「逃げ水を抜けて」でどうでしょう。

○鳥の巣と杭に貼り紙駐車場    音羽
【評】鳥の巣があるから、静かに車を出し入れするようにとの注意書きなのですね。面白いところに気づきました。

△丈草忌夜もうすうすと湖が見え    徒歩
【評】丈草に対する理解が深くないとうまく解釈できない句で、その点、わたしにはとやかく言う資格がありませんが、「夜もうすうすと」が理屈としてどうでしょうか。夜の湖はまさに漆黒の闇のように見えるのではないでしょうか。「うすうすと」ですと、ほの明るさが感じられます。

△春雨やコーヒー熱き紙コップ    徒歩
【評】徒歩さんにしてはひねりがないと言いますか、当たり前の描写にとどまっています。何かもっと非日常的な感覚が伝わるとよいのですが・・・。

△~○師の句碑を案内するかに紋黄蝶    妙好
【評】ここまで作者が言ってしまうと、読み手に鑑賞の余地がなくなります。「まるで紋黄蝶が句碑へ案内してくれているようですね!」と読者に言わせるように作るのが俳句の骨法です。〈師の句碑の方へ方へと紋黄蝶〉くらいでいかがでしょう。

△~○紅薄くさして近場の花見かな    妙好
【評】なかなか趣のある句ですが、上五からのつながりとして、「花見かな」という収め方がしっくりしません。〈紅薄くさして近場の花見へと〉とすれば余情が出てきます。

○学舎に児等の声なく春長ける    織美
【評】子供たちが一斉休校のため来ないまま、春も本番になってしまったという感慨ですね。「春長ける」を視覚的な季語にするのも一法かと思います。「子等の声なき学び舎に花の雲」など。

△ふつふつと小豆煮る夜や彼岸入り    織美
【評】「夜」は時を示す言葉。「彼岸入り」も時期を示す言葉。それを連ねるのはよろしくありません。「ふつふつと小豆煮てをり入彼岸」。「ふつふつ」がやや平凡でしょうか。

○引き籠る日曜の朝巣鳥鳴く    マユミ
【評】家に引きこもっている自分と、巣から元気な声を上げている鳥との対比が面白い句です。

△~○地球儀の日本指す児やチューリップ    マユミ
【評】読者は地球儀上の日本を指している子供の姿を思い浮かべます。その姿を打ち消して、改めてチューリップの映像に切り替えるのはどうでしょう。子供の姿を残したまま、何かの季語を持ってきてほしいと思います。たとえば「地球儀の日本指す児若葉風」なら教室に吹き込んできた風と解せそうです。なお添削例では「日本」は「にっぽん」。

△ブランコを漕ぎて桜に埋もれたり    こみち
【評】俳句では和語にカタカナは使いません。「埋もれたり」も少し大げさでしょうか。とりあえず「ぶらんこを二人漕ぎして花の中」。ただし「ぶらんこ」も「桜(花)」も春の季語ですから、この句は季重なりであることは承知しておきましょう。

△甦る幼きあの日スミレの香    こみち
【評】和語の植物名にカタカナは使いません。「あの日」がどんな日か、もう少し具体的に言えるといいでね。別の句になってしまいますが「遠き日の母の思ひ出すみれの香」

△~○隣家から剪定の音心地よし    蓉子
【評】俳句とは心地よいものを詠む文芸ですから「心地よし」は不要です。「剪定の音高々と隣家より」など。

◎休校やスケボーの子に風光る    蓉子
【評】これは気持ちのよい句ですね。季語「風光る」もスケボーとぴったりです。

○春蘭を覗けば森の匂ひかな    利佳子
【評】どこかメルヘンを感じさせるユニークな句です。下五を「匂ひせり」と収めたほうが句が落ち着くと思います。

○初花や少女ら掛くる恋の絵馬    利佳子
【評】季語が少女とよくマッチしています。情景もしっかりと見えてきました。

△~○花曇り手紙託する誕生日    多喜
【評】「入院の母、感染防止で面会できず」と前書があります。入院のお母さんが誕生日を迎えたのに、面会できず、手紙を残してきたのですね。これだけのことを一句に詰め込むのは至難の業です。何かを切り捨てるしかありません。「花冷や臥したる母の誕生日」「花曇病臥の母へ置き手紙」など、もう一工夫してみてください。

○~◎土煙上げて田打ちのトラクター    多喜
【評】「土煙上げて」と具体的に描写された上々の写生句です。春先の田園地帯ではこんな風景がよく見られるのでしょうね。

△~○レシピ見る勝手の妻に春の雨    美春
【評】「勝手」はもちろん台所のことですね。「妻に春の雨」の「に」が曖昧です。いっそ季語は切ってしまったほうがよいと思います。「春の雨レシピを開く厨妻」など。

△亀鳴くや唐草もようで盃かはす    美春
【評】唐草模様の盃でお酒を飲んだということですね。それなら「盃は唐草もやう亀鳴けり」でどうでしょう(「模様」は平仮名で「もやう」)。ただしこの季語がふさわしいかどうか一考の余地がありそうです。

△初燕腹から声を出さずゐる    永河
【評】難しい句です。「腹から声を出さずゐる」のは初燕のことでしょうか。それとも上五で切れて、中七・下五は作者自身の描写でしょうか。いずれにせよ、初燕という季語は初々しさを本情としていますので、「出さず」のような否定形で屈折させず、もっと素直な肯定表現のほうが似つかわしいように感じます。

△ムスカリのぱくぱく粒の息を吐き   永河
【評】とても特異な感覚の句です。それでも「粒の息」はユニークな表現で、ふっとそんな息もあるかなと思わせます。しかし「ぱくぱく」まで言ってしまうと、やや押しつけがましさがまさってしまい、せっかくの詩情が帳消しになります。もう少し抑えた描写で挑戦してみてください。

△韓非子の「まちぼうけ」聞く春館    豊喜
【評】童謡「待ちぼうけ」の由来が、中国の古典『韓非子』の中の「守株」にあるのだという話を誰かから聞いたということなのでしょうね。しかし一読しただけでは句意が通じませんし、詩情も感じられません。また「夏館」「冬館」という季語はありますが、「春館」「秋館」という季語はありません。「韓非子の守株談義や目借時」などご一考ください。

○手綱取りポニーに乗る子春の牧    豊喜
【評】素直な作りの句でけっこうです。ただ、牧場であることは想像がつきますので、「牧」は言わなくてもいいでしょう。たとえば「春の風」など、別の季語にしてみるとさらによくなりそうです。

次回は4月21日(火)に掲載予定です。前日の午後6時ころまでにご投句ください。皆さんの意欲作を楽しみにしております。河原地英武


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