私はよく障害のある子どもの親御さん向けの講演会に呼んでいただきます。私のキャラクターのせいか、「講演」という堅苦しいものだけではなく、「ランチ会に来て」「おしゃべり会にきて」という楽しいお誘いもしていただきます。
そういう場で、必ずと言っていいほど出るお話に「こどもにお金をどれくらい残しておけばいいの?」というものがあります。これは、親御さんの切実な思いです。いつも「それは人によるし、一概には言えない」などと答えていたのですが、先日ついに、「じゃあ、最低、最低いくらあればいいの?」と聞かれたので、「最低、と言われたらゼロ円です。」と答えました。「ええええ~?」と親御さんたちは大変驚かれていました。
日本には憲法25条があり「健康で文化的な最低限度の生活」は憲法で保障されています。生存権保障です。実際、私たちは、預貯金がゼロ、という方の支援もしますし、障害基礎年金を申請したり、生活保護を申請したり、住まいを見つけたり、入居するグループホームを見つけたり、仕事を見つけたりして生活をされている人も知っているので、「ゼロ」でも大丈夫であることを知っています。でも、親御さんたちの「最低いくら?」の「最低」は、それとは違うのだと思います。「子どもが、衣食住には困らないことはもちろんのこと、友だちと外食したり、コンサートに行ったり、流行りのおしゃれな服を着たり、旅行をしたり…」いろんな人とつながりながら楽しく笑顔で毎日を過ごせることを願っての「最低いくら?」なのだと思います。
そうなるとやはり、それは、<人によって違う>ということになります。まず、なにより「どんな暮らしをしたいのか」によって、使うお金は全く違うわけです。例えば食事でも、すべてオーガニックの健康的な食品を使ったお料理を食べたいという方と、スーパーの特売でとにかく安いものでお料理というかたと、宅配業者のお弁当という方と、すべて外食かコンビニ、という方では全く違います。どんな服を着たいか、どんなところに住みたいか。余暇は何をして過ごしたいか…。それをひとつひとつ考えて必要なお金を考えていくことになります。先日、老後の貯金は2000万円必要というニュースを見たときも、そのモデル家庭の試算根拠を見て、「私、こんな生活するかなあ?」と違和感を持った人は結構いるのではないでしょうか?それぞれ「したい暮らし」は違うわけです。
さらに障害がある場合、「本人の障害の状況によって違う」「住む地域の障害福祉制度によって違う」などの要素も含まれてきますので、個別に考えることになります。そうはいっても、基本的な制度はありますので、そのあたりを紹介していきたいと思います。
まず、収入ですが、障害基礎年金を受給できる方の場合、受け取れる年金額がわかります。(2018年の年金額は1級で月額81,177円、2級で月額64,941円)そこに、各種手当の額が加わりますが、これは、住んでいる市町村によって額も制度も対象者も違いますので確認が必要です。そして、一般就労をしているのか、福祉施設に通っているのかによっても、賃金を得ているのか、福祉施設の工賃収入なのかによって大きな差があります。(続)
*今後は、支出のお話、金銭管理のお話、本人の権利を守るお話、住まいの場のお話、様々な制度のお話などを何回かに分けて書いていきたいと思います。
参考文献 障害のある子が「親なきあと」にお金で困らない本(渡部伸 主婦の友社)