かわらじ先生の国際講座~ウクライナ和平は実現するか!?

12月9日にパリで、ウクライナ和平に関する国際会議が開かれるとか。これはどのような会議なのですか?

紛争当事国であるウクライナとロシア、それに仲介役のフランスとドイツを加えた4ヵ国会談です。
ご承知のように2014年3月、ロシアは軍隊を投入し、ウクライナ領のクリミア半島を力ずくでロシアに併合してしまいました。これを国際社会が非難し、ロシアはG8から追放され、欧米諸国や日本から経済制裁を受け、今日に至っています。
しかしロシアによるクリミア併合は、ウクライナに暮らす親ロシア派住民を活気づけ、特にロシアと国境を接するウクライナ東部では親ロシア派の武装勢力が独立を求めてウクライナ政府軍と戦争を始めてしまいました。ロシア軍は親ロシア派武装勢力に加勢し、一方アメリカなどはウクライナ政府に軍事支援を行っています。

ということは、もう5年半も戦争が続いているのですか?

もちろん和平の試みはありました。2015年2月には停戦合意が成立しました。しかしこの合意は破られ、戦争が再開してしまいました。2016年10月には再び停戦合意の実現に向け、ウクライナ、ロシア、フランス、ドイツによる4ヵ国会談が開かれましたが、これも不首尾に終わりました。ですから12月9日に開催予定の会議は、3度目の正直ということになります。

今度こそ、本当に停戦は実現するのでしょうか?

確かなことは言えません。ロシアがかなり強気の要求をしているためです。すなわちロシアは、ウクライナ東部に自治権を与えることを求めているのですが、それが実行されるとウクライナは事実上、西部と東部の連邦制になり、東部はますますロシアの影響を受けることになりかねません。ウクライナ政府がこの要求を呑めば、ウクライナ国民が黙っていないでしょう。現に現在もウクライナでは、12月9日の会議に反対する住民デモが起こっています。

ロシアが強硬な要求をすることがわかっているにもかかわらず、なぜ12月9日に和平のための国際会議が開かれることに決まったのですか。

一つは欧米諸国のあいだで「ウクライナ疲れ」が出てきたことです。本音としてはもうウクライナ問題から手を引きたいのです。この問題があるかぎり、欧米諸国はロシアへの経済制裁を解除できませんが、多くの企業がそのためにロシアへの投資チャンスを失い、だいぶ不満を募らせています。また欧州では親ロシア的な右派ポピュリズム政党が躍進しており、彼らの影響力も見逃せません。
それにアメリカのトランプ大統領も本気でウクライナを支援するつもりはありません。もともと彼は、プーチン大統領とよい関係を築くことが大事だというのが持論ですし、来年アメリカで開かれるG7首脳会談にプーチン氏を招待したいと言っているくらいです。そして今、アメリカで大きなスキャンダルとなっている「ウクライナ疑惑」からも、トランプ大統領の本音がうかがわれます。

この「ウクライナ疑惑」とは何か、少し説明してもらえますか?

オバマ大統領時代に副大統領を務めたバイデン氏が、来年の大統領選挙への出馬を表明しています。そこでトランプ氏は、彼が手ごわいライバルとならないよう信用を失墜させようと画策したらしいのです。バイデン氏の息子はウクライナのガス採掘会社の役員なのですが、その不正をあばくことができれば、父親であるバイデン氏の信用問題に発展します。でトランプ大統領は、ウクライナ政府に対し、「バイデンの息子の不正調査に協力せよ。さもなければ軍事支援を行わないぞ」と圧力をかけた、ということのようです。それを裏付けるアメリカ政府関係者の証言も出てきていますが、もちろんトランプ大統領は否定していますし、ウクライナ大統領のゼレンスキー氏も「トランプ大統領からの圧力はなかった」と言っています。この疑惑が事実だとすれば、トランプ大統領にとってウクライナ問題は、所詮自分が選挙に勝つための道具に過ぎないということになるでしょう。

なるほど。ところでウクライナ大統領のゼレンスキー氏とは何者ですか?

1978年生まれの41歳という若さですが、今春行われた大統領選挙に立候補し、7割を超える得票率で当選を果たしました。実は彼は政治家ではありません。ウクライナの有名なコメディアン兼俳優なのです。テレビドラマで彼が大統領役をやり、政治腐敗と闘うストーリーが大変な人気を博し、実際に腐敗続きの政界にうんざりしていた国民が彼を大統領候補に押し上げたわけです。何だか「ひょうたんから駒」みたいな話ですが、ゼレンスキー氏も国民の期待に応え、こうして若き大統領が誕生しました。彼の公約は「戦争をやめる」ことでしたから、12月9日に予定されている和平会談は、ゼレンスキー氏自身も欲していることなのです。

しかし外交経験が皆無に等しいゼレンスキー大統領が、ロシアを相手にうまく交渉できるでしょうか?

そこが一番の問題ですね。ウクライナ国民も5年半に及ぶ紛争には疲弊していますから、停戦を切実に望んでいます。とはいえ、ロシアに妥協はしたくありません。しかし百戦錬磨のプーチン氏の術策にはとてもかなわないでしょうし、「ウクライナ疲れ」のフランスやドイツがどの程度ウクライナ政府を支えてくれるか不安があります。アメリカのトランプ政権もあまりあてになりません。果してゼレンスキー大統領が国民を納得させ得る形での和平合意に持ち込めるかどうか、見守りたいところです。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰


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