「カナリア俳壇」23

紅葉の美しい季節になりました。よい天気も続いていますし、時間が許せばあちこち吟行に出かけたいものですね。今回は皆さんの作品も戸外で詠まれたものが多かったように思います。ではさっそく見てゆきましょう。

△薄紅葉鐘楼登り鐘を撞く     豊喜

【評】「鐘楼登り」「鐘を撞く」と動作を示す語が二つ重なると説明的になります。前者は省略しましょう。「薄紅葉鐘楼の鐘ひとつ撞く」。

△秋寒に真鯉緋鯉のモネの池     豊喜

【評】「秋寒に」の「に」、「真鯉緋鯉の」の「の」の使い方がやや安易に思われます。「モネの池真鯉緋鯉が寒々と」。

△軒先に通草はぜたる散歩道     蓉子

【評】「散歩道」は不要です。どこの「軒先」にアケビの実があったのかわかるといいですね。「窯元の軒に爆ぜたる通草かな」など。

△西空に刻々変はる鰯雲     蓉子

【評】「西空」から察するに、「刻刻変はる」のは色のことなのでしょうね。「刻々と朱いろ増したり鰯雲」でしょうか。

〇夕暮の梵字めきたる蓮の骨     音羽

【評】面白い見立ての句です。蓮は仏教と縁の深い植物ですので、梵字とも関連がありますね。

△~〇城山の見ゆる暮しや芋雑炊     音羽

【評】「城山」をどう解釈してよいか迷いました。公園の名前でしょうか。それとも本当にお城が建っているのでしょうか。城そのものが見えるほうが趣があるように思いますので「山城の見ゆる暮しや芋雑炊」としてみました。

〇起き抜けの腋に冷たき検温器     徒歩

【評】面白いところを俳句にしましたね。たぶん類句はないでしょう。切れを入れて「起き抜けの腋に冷たし検温器」でいかがでしょうか。

△銀杏ちる借りし書籍の手に余り     徒歩

【評】戸外の景ですね。図書館から借りた本かと思いますが、「手に余り」は持ちきれないということでしょうか。もう少し描写が具体的になるといいですね。「銀杏散る図書館の本両脇に」など。

△警官の来る山畑枇杷の花     マユミ

【評】なにか事件が起こったのでしょうか。読者としてはちょっと不安をおぼえ、心楽しく読めませんでした。それと、「山畑」と「枇杷の花」というふうに異なる植物を並べるのはやや拙い仕立て方だと感じました。

〇納屋口に母そつくりの案山子凭る     マユミ

【評】これは理屈抜きに愉快な句ですね。どうせなら元気なお母さんを髣髴とさせるべく、畑のど真ん中にこの案山子を立たせたい気もします。

〇古民家の厠は外や冬銀河     織美

【評】昔の日本の家はたいがい外厠だったのではないでしょうか。わたしが子供時代を過ごした信州の家もそうでした。ですから「や」という驚きの切れ字は強すぎるように思います。「厠は外に」くらいでどうでしょう。

◎ごつき手で縄綯う父や冬の土間     織美

【評】重厚な作風で、生活感もよく伝わり上々の句です。「綯ふ」とすれば完璧です。

〇初時雨ドクターヘリの飛び立てり     妙好

【評】きちんと作られた句で結構です。ただ、この頃は「ドクターヘリ」の句をよく見かけるようになり、句材としての新鮮さはなくなりました。これからは「飛び立てり」以上の具体性ある表現が求められそうです。

〇紅葉茶屋餺飥鍋の湯気立ちて     妙好

【評】「餺飥」は「ほうとう」と読むのですね。紅葉を背景にとても美味しそうです。漢字を続けるなら、4つくらいまでのほうが読みやすくなります。また、下五を名詞で止めるとさらに引き締まった句になります。「湯気昇る餺飥鍋や紅葉茶屋」くらいでどうでしょう。湯気の向うに紅葉が見えてきそうです。

△金柑に産湯のやうな朝日かな     永河

【評】なかなかの冒険句ですね。個人的には朝日を産湯に見立てるのは飛躍のし過ぎのように感じました。朝日を別の表現で表すことにして、「金柑に生まれたてなる日の光」などとするのも一法でしょうか。

◎烏瓜引けばすとんと山昏れる       永河

【評】山里の風景が思い浮かび、気持ちがなごみました。「すとんと」暮れるのを釣瓶落しと言いますが、あえてその季語を用いず秋らしさを表し、技術的にも巧みな作品です。

〇東雲や湧くやうにくる寒鴉     維和子

【評】かなりたくさんの鴉が舞い出したのでしょうね。「東雲や」が古語であるのに対し、「湧くやうにくる」は口語的で、ちぐはぐですから、後者も古風な表現に統一しましょう。「東雲や湧くが如くに寒鴉」。

◎豆力士毛布を肩に出番待つ     維和子

【評】これは子供相撲ですね。季語は毛布で冬。「毛布を肩に」が具体的な描写でたいへん結構です。出番を待つ子の緊張感まで伝わってきました。

△~〇木漏れ日の苔の古道や冬日和     多喜

【評】「木漏れ日」は木の葉の間から差す日のことで、青々とした木の葉が連想されますので、夏から秋にかけてのイメージがあります。冬は木の葉が落ちてしまうので、木漏れ日ではなくなります。「日の差せる苔の古道や冬日和」くらいでいかがでしょう(もっとも最近は暖冬ですから、冬でも木漏れ日はありますが…)。

△始末よく父が捌けりずわい蟹     多喜

【評】この「始末よく」を具体的に表現すると詩が生まれます。「始末よく」では観念的で、頭で理解はできますが、心には響いてきません。具体的な動作を生き生きとスケッチすることが俳句の要諦です。

次回は12月10日(火)に掲載の予定です。皆さんのご投句をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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