「カナリア俳壇」24

はや師走。皆さんもお忙しくしていらっしゃることでしょう。こんなときにこそ、俳句を作る心のゆとりを持ちたいものですね。
ではさっそく投句作品を見ていくことにしましょう。

△青蜜柑緑の葉から顔出せり     美春

【評】みかんは常緑樹ですので「緑の葉」は言わずもがな。また葉から顔は出しません。葉の間からですね。「葉陰より顔を出しをり青蜜柑」。

△畑に立つ焚火の煙白きかな     美春

【評】いきなり「畑に立つ」と言われると、人でも立っているのかと思ってしまいます。「畑より焚火の煙白々と」。

△~〇餌をとる鴨の尻毛の白さかな     万亀子

【評】水にもぐっているのですね。「もぐりたる鴨の尻毛の白さかな」。

△~〇水澄みて稚魚の群るるや禁漁区     万亀子

【評】「水澄みて」と始めると説明的になるので、すこし語順を変えましょう。「稚魚群るる底まで澄める禁漁区」。

△~〇白壁にしだれ紅葉の赤映ゆる     蓉子

【評】「紅葉」ですから「赤」は不要です。「白壁にしだれ紅葉の映えにけり」。

◎子の年のくるみ絵作る夜なべかな     蓉子

【評】干支のくるみ絵を作る職人さんなのですね。「夜なべ」がよく効いています。

〇蜜柑捥ぐ島内放送下に聞き     維和子

【評】島の高いところ(山)で蜜柑を捥いでいるのですね。「眼下より島内放送みかん捥ぐ」でどうでしょう。

△~〇豆力士母に褒美の茶封筒     維和子

【評】このままだと、お母さんの褒美みたいです。豆力士が勝ち、茶封筒入りの褒美(賞金?)をもらったのですね。それをお母さんに預けたのでしょうか。それならいっそ「豆力士褒美を母にプレゼント」でどうでしょう。

○ストーブの向き少し変へ稿継げり     徒歩
【評】原稿などを書いていると、結構神経がぴりぴりし、いろいろなことが気になりますよね。きっと傍から見ればこっけいなのでしょうが・・・・・・。俳諧味のある句です。

△~○半券を栞に閉づる時雨かな     徒歩

【評】何かの入場券の半券を栞代わりとして本にはさむことはよくやりますね。季語「時雨」がどうでしょう。さっと降ってさっと止む美しい雨ですから、時雨そのものを愛でる句にしたいもの。この句でしたら「雪の夜半」や「大晦日」など、もう少し漠とした季語のほうがよさそうです(室内の句と解してのことですが)。

△~○学芸会吾子は盗人の頬かむり     音羽
【評】とてもゆかいな句です。ただ季語の点で悩みました。「盗人の頬かむり」は顔を隠すためであって防寒具ではありませんので、季語にはならないと思います。学芸会も季語ではありません。とすると無季になってしまいますね。

○イマジンの流るる茶房開戦日     音羽

【評】イマジンは反戦歌ですね。しかも開戦日の12月8日はジョン・レノンの命日です。句材がやや揃いすぎですが、いい雰囲気の句です。

△~○照紅葉船の屋根開く瀞八丁     多喜

【評】瀞八丁は天然記念物にも指定されている美しい渓谷。秋には紅葉に染まるのですね。先に紅葉を出してしまうより、観光船の屋根が開くことによって紅葉が見えたと仕立てたほうが驚きが伝わると思います。「瀞八丁」は前書きに置けば十分でしょう。「船の屋根開く紅葉の只中に」「船の屋根開き紅葉に囲まるる」など。

△香ばしき駅なかパン屋冬ぬくし     多喜

【評】「駅なかパン屋」が窮屈です。「駅なかのパン屋かぐはし冬の朝」くらいでどうでしょう。

△香港や若き日の吾の白マスク     妙好

【評】デモにゆれる今の香港と、昔の自分を重ねて詠んだ句であることはわかります。しかしこの「白マスク」は風邪対策のマスクですね。顔を隠すためのマスクは季語になりませんので。そうすると、この句の作り方はちょっと強引すぎます。

△~○茶の花の咲けり富山の置き薬     妙好

【評】取り合わせの句としてはきちんとできているのですが、いまひとつ情景が見えてきません。自宅のことではなさそうですね。吟行句でしょうか。「咲けり」は省略できますので、上五を「茶の花や」として、もうすこし具体的な描写を入れてほしいと思います。

○冬霧のせまる湖上の大鳥居     マユミ

【評】とりあえず写生はできていますが、もう少し躍動感がほしいところです。たとえば「冬の霧湖上の鳥居呑み込めり」など。

◎含みたる麻酔のゼリーそぞろ寒     マユミ

【評】こんな麻酔薬もあるのですね。「そぞろ寒」に実感がこもっています。

△孫の手のじゃんけんグーは小蕪かな     美佐

【評】「孫」は省略しましょう。この句の「小蕪」はグーの比ゆですから季語にはなりません。そこでこんなふうにしてみました。「じやんけんのグーは小蕪よ日向ぼこ」。

△日向には爺婆数多大根焚     豊喜

【評】大根焚には年配の人たちが大勢集まるものです。それを「数多」といっても常識の範囲内。「爺婆」の様子をしっかり観察し、もっと突っ込んだ写生をしてほしいと思います。

△~○大鍋の湯気の香りや大根焚     豊喜

【評】形としてはきちんとできています。ただ、湯気から香りがたつのは当然で、実際に大根焚を見なくても、頭のなかで作ることができそうです。自分の目で見た人でなければ言えないようなことが詠めるとさらにいい句になります。

△城跡の見上ぐる巨岩冬日さす     織美

【評】上五中七の調べがあまりよくありません。それとどれほど巨大な岩なのか、読者にはぴんときませんし、冬日がさすだけでは感動も伝わりません。このような句の場合は、巨岩を見上げることによって、作者が何かしら決意を固めたというふうに作ると、読者の共感を得やすくなります。一例として「城跡の巨岩見上ぐる大旦(おおあした)」、「城跡の巨岩に差せる初日かな」など。こんなふうに作ると、新年の決意が込められた句なのだな、と受け止めてもらえます。

△~○山城に見晴らす木曽路冬日和     織美

【評】「山城に」の「に」が気になりました。山城「から」見晴らしたのでしょう。「木曽路冬日和」と漢字が6つ続くのもよくありません。漢字は4つまでにしたほうが見た目が美しくなります。「古城より望む木曽路や冬日和」など。

△~〇実柘榴や宙に兎の眼の潜み     永河

【評】伝統俳句にはない、何か新しい可能性を感じさせる句です。ただしもう一押しでしょうか。このままですと、柘榴の実を兎の目に喩えたのだろうと思えてしまいます。その作為ないしは意図が消せたら名句の仲間入りです。「宙に」と「潜み」を消して、もっとぶっきら棒に突き放したほうが面白いかもしれません。なお兎は冬の季語ですが、この季重なりは問題なしだと思います。

〇綿虫のふつと空気になりにけり            永河

【評】綿虫を見失うことはよくありますが、それを空気になったと捉えたところに新鮮さがあります。「ふつと」が消せたら文句なしです。独創的な発見は極力さりげなく、ポーカーフェイスで詠むのがコツです。「ふつと」を入れると、ためが出来、「これから肝心なことを言いますよ」と読者に注意を促す結果になります。そこが少しわずらわしさを感じさせるのです。

次は12月31日の掲載となります。30日までにご投句頂ければ幸いです。
河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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