かわらじ先生の国際講座~「一帯一路」と中国の課題

昨今「一帯一路」をよく耳にします。これは中国の国際的な経済戦略ですね。

はい。「一帯」は中国から中央アジアを経由し、ヨーロッパまで陸路で結び、現代版のシルクロードにしようというもの。「一路」は中国沿岸、東南アジア、インド、中東、アフリカ、そして欧州を海路でつなごうという構想です。このまことに壮大なヴィジョンが中国政府によって発表されたのは2013年ですが、その後、紆余曲折を経て、今年4月25日~27日には北京で「一帯一路」に関する第2回国際フォーラムが開催されました。新聞報道によれば、これには150ヵ国以上が参加し(内37ヵ国は首脳クラスが参加)、126ヵ国と協力文書が交わされ、640億ドルを越えるプロジェクトが合意されたそうです。

世界が「一帯一路」を受け入れたと見てよいですか?

中国の経済規模を考えれば、拒否するよりも協力して恩恵を受ける方が得策だと、多くの国が考えているのでしょう。しかし中国への警戒心がないわけではありません。

具体的には?

まずは中国の軍拡路線です。ここ毎年、中国の国防予算は大幅に伸びていますが、今年の予算は1兆1898億元。日本円にして20兆円近くで、日本の防衛予算の4倍弱となります。これはアメリカに次ぐ世界第二位の規模です。さらに東シナ海や南シナ海における海軍力の進出も懸念されています。特に南シナ海では埋立地が次々と軍事拠点化しています。中国はアメリカと覇権争いをし、「一帯一路」もその一環ではないかと疑われています。もう一つは「債務の罠(わな)」と呼ばれる問題です。

それはどのようなものですか?

途上国にインフラ投資を行う中国が、相手国が返済できないほどの融資を行い、結果としてその国は自由を奪われ、中国に従属させられてしまうという問題です。スリランカのケースが有名です。同国は中国の経済支援の下、ハンバントタ港を建設しましたが、債務の返済不履行に陥りました。そこで中国は救済の名目で、その港を99年間借り受ける契約を結んだのです。実質的にその港が中国のものになってしまったわけです。

かつてイギリスが中国から香港を租借した帝国主義時代の政策を思い出させますね。

さすがに中国も国際的な批判を重くみて、これからは対外融資も国際ルールに従い、節度をもって行うと約束しています。

「一帯一路」に対して日本はどのような立場をとっていますか?

協力と対抗の両面作戦です。4月下旬の国際フォーラムには自民党の二階俊博幹事長が出席し、開放性と透明性を条件として日本も「一帯一路」に協力していく旨の演説をしました。他方で日本は、アメリカ等とともに「自由で開かれたインド太平洋」戦略を展開しています。この外務省の動画をご覧ください。

実質的には中国の「一帯一路」への対抗戦略、もっと言えば対中国封じ込め策です。ただ、以前の中国はこのような日本の対抗策を厳しく批判していましたが、この頃はそのトーンが弱まり、むしろ日本へ懐柔策がとられ、「一帯一路」の成否は日本の協力にかかっているとまで言い出しています。米中貿易摩擦が激化するなかで、日本を味方につけたいとの思惑もありそうです。

中国外交が国際協調の方向に進むなら「一帯一路」に期待できますね。

しかし中国は国内に重大な課題を抱えていることを忘れてはいけません。かつてのシルクロードが文物だけでなく新たな文化や仏教思想などを伝えたように、「一帯一路」も中国とは異なる価値観をもたらすでしょう。たとえば欧州との交易路が拡大すれば、西欧型の民主主義や人権思想の流入は免れません。30年前の1989年、ソ連や東欧の民主化運動が中国に波及し、学生や民衆の蜂起を促し、それを武力で鎮圧した天安門事件が起こりました。自由や民主化を求める声は今もマグマのように中国社会に存在しています。最近では、中国政府の「逃亡犯条例」改正案に反対し、香港で百万人を越えるデモも起こっています。「一帯一路」を進める中国が、このような民衆の行動を力で抑え込む大義名分などありません。そんなことをすれば、中国は一気に孤立するでしょう。「一帯一路」によって中国は、早晩、一党支配という政治体制そのものを問われることになるでしょう。

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原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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