今回もたくさんのご投句をありがとうございました。新しい方のご投句、大歓迎です。さっそく作品をみてゆきたいと思います。
〇花水木の白の清やかに令和くる える
【評】令和を寿ぐ句ですね。令和を季語にするのは難しいので、花水木をもってきたのは大変結構と思います。上五の字余りを解消するために、語順を入れ替えて「令和くる白際やかな花水木」などとしてみるのも一法です。
△~〇藤棚の下も香に染む雨に濡れ える
【評】藤棚の下で雨宿りをしたら、甘い香りがしたのですね。「香に染む」と「雨に濡れ」という2つのことを同時に言っているので句の解釈が難しくなります。あっさりと「藤棚の香りのなかに雨宿り」くらいでいいのでは。
〇~◎花吹雪ひとひら椀に入りたり 空
【評】初投句ありがとうございます。お花見の場面でしょうか。よく省略の効いた美しい句です。難しいことを言おうとせず、素直に詠まれたところがよいと思いました。
△~〇端布で三寸ほどの鯉のぼり 空
【評】ご自分で鯉のぼりを作ったのですね。上五が字足らずなのが惜しい。とりあえず「端布縫ひ三寸ほどの鯉のぼり」でどうでしょう。
◎亀鳴くや母はぼんやり庭眺め 永河
【評】失礼ながらお母さまは認知症を患っておられるのではないかと感じました。その虚ろな目は我々には見えない何かを捉えているのかもしれません。その様子をまた放心して見ている作者・・・。このへんの事情を「亀鳴く」という虚実の間の季語でうまくとらえた句だと思います。
〇鳳凰舞ふとはなんぢやもんぢやの花 永河
【評】ナンジャモンジャの花とは面白い名前ですが、由来も諸説あって、なんだか謎々みたいですね。そこで作者も「鳳凰舞ふ」とかけて「なんじゃもんじゃの花」と解く。その心は?と禅問答のような問いかけをしたのでしょうか。ウイットに富んだ句ですが、わたしにはこの謎かけがうまく解けません。
〇尻尾垂れ空を見上ぐる五月鯉 万亀子
【評】鯉のぼりを擬人化した作ですね。風がなくて垂れ下がっている鯉のぼりは、たしかに頭を空に向けています。うらめしそうに見上げるその目が哀愁たっぷりですね。詩心を感じさせる佳句です。
△翅震はせ命の讃歌揚羽蝶 万亀子
【評】この句はいけません。俳句に限らず、そもそも詩とは命の讃歌であり、命を詠むものです。ただし、「命の讃歌」などと観念的なことを言ってしまったら、それはもう詩の観念に対する敗北です。「命の讃歌」をいかに物に託して、具体的、抒情的に述べることができるか。そのがんばりに俳句の成否はかかっています。わたしは「命」や「心」といった観念語を使った句は、原則として採りません。
〇石切の鑿の跡より蚰蜒走る 音羽
【評】「蚰蜒」は「ゲジ」と読み、夏の季語。この句、硬質の石とゲジの取り合わせがユニークです。「~より…走る」が多少気になりました。「~より走り出す」なら問題ありませんが。「石切の鑿の跡より蚰蜒出づる」でいかがでしょう。
〇橋影を打ちて赤鱏潜りけり 音羽
【評】「赤鱏」は「あかえい」で夏の季語。水面に映る橋の影をエイがあの大きなひれで打って潜ったのですね。とてもリアルな描写です。「橋影」がやや窮屈な気がしますので、「橋の影打ちて赤鱏潜りけり」でもいいかなと思います。
◎宙およぐ赤子の手足聖五月 マユミ
【評】赤ん坊に「たかいたかい」をしてあげているのですね。愛らしくて、まさに生命感あふれる句です。季語もぴったり!
〇窯垣は幾何模様なり風光る マユミ
【評】わたしは何度か瀬戸の窯道を歩いたことがあるので、実際の窯垣が目に浮かびますが、そうでない人にはうまく伝わらないかもしれませんね。そのリスクはありますが、心楽しくなる句です。「幾何模様なり」の「なり」が余計ですので、「窯垣は幾何学模様風光る」で十分です。漢字ばかりが気になるなら「窯垣は幾何学模様ミモザ咲く」など季語を工夫するのも手でしょう。
〇和蠟燭父母に灯せり夏の宵 豊喜
【評】和蝋燭についてあまり知識がありませんのでうまく鑑賞できませんが、きっと供養にふさわしい蝋燭なのでしょう。上五と下五が名詞で、句がややぽきぽきした感じになりますので、語順を入れ替え、さらに切れ字を使って、「夏の夜や父母に灯せる和蝋燭」でいかがでしょう。和蝋燭のイメージからすると、上五は「春宵や」でもよさそうです。
〇涅槃会や三途の川を説く法主 豊喜
【評】法主という語を初めて見ましたが、おそらく由緒ある寺院のご住職なのでしょうね。季語と中七・下五が付き過ぎではありますが、なかなか面白い句です。あるいはいっそ思い切り離れた季語をもってくると、さらにユニークな句になるかもしれません。
△~〇手足出すための泳ぎや蝌蚪の国 カンナ
【評】オタマジャクシは手足を出すために一生懸命体を振って泳いでいるのだ、と考えたのですね。童心に返って作ったような、とても愉快な発想の作品です。少々分かりづらいけれど発見のある句ですので、これはこれでよしとしましょう。
△~〇ぶつかつて水はじき合ふ千の蝌蚪 カンナ
【評】「水はじき合ふ」が言葉としてちょっとへんです。また「千の蝌蚪」の「千」もどうでしょう。「ぶつかつて水とばし合ふ蝌蚪の群」なら素直に読めますが、原句ほどのインパクトはないかもしれませんね。
?麦秋や活字小さき考の書架 妙好
【評】「麦秋」と「書架」の取り合わせは大変結構です。しかし「考の書架」の「考」がわかりませんでした。だれか有名な人の名前でしょうか?
〇読書会友の結ひ来し粽解き 妙好
【評】あまり堅苦しくなくて楽しそうな読書会ですね。「友の結ひ来し」まで言うと理屈っぽくなりますので、「友手作りの」くらいでいいのでは?
〇夏めくや信号待ちのストレッチ 徒歩
【評】たしかに夏めいてくると、こんなことをしたくなりそうです。カジュアルな句で、気楽に読めますが、あまり感銘は受けませんでした。徒歩さんならこの種の句はお手の物でしょう。もう少し詩心が高まった作品を読みたいと思います。
△湖のしぶき顔打つ青嵐 徒歩
【評】季語が今ひとつ効いていないように思います。この句は、湖の白い波しぶきをクローズアップさせた作だと思います。それが顔を打ったのですね。他方、「青嵐」という季語は、木々の葉をゆさぶりながら吹いてくる強風で、その青々とした様子を連想させます。すなわち上五・中七の景と、下五の景がばらばらで、情景が分裂してしまいます。
次は6月4日(火)に掲載の予定です。皆さんの力作をお待ちしています。
河原地英武