「カナリア俳壇」13

今回は8名の皆さんからのご投句をいただきました。
順にコメントを付けながらご紹介します。

△~〇 霾やスマホ画面に指の跡     万亀子

【評】「霾」は「つちふる」で「土降る」から来た言葉。「黄砂降る」と同義ですね。動詞ですから上五は「霾るや」と送り仮名を付けた方が読みやすいでしょう。スマホの画面には大概指の跡がつくものですが、この句の場合は、スマホにも薄っすらと黄砂が降ったのだと思わせるところに面白みがあります。詩情は今一つでしょうか。

△ 反り返るかたくりの花群らがりて     万亀子

【評】俳句においては作り手も読み手も季語をよく知っていることが前提となります。かたくりの花が反り返っていること、そして一般に群生することは俳人なら常識の範囲(歳時記にも記されていること)です。この句に述べられていることは俳人にとって既知ですから、もっと新しい発見がほしいところです。

◎ 龍となる流木磨く日永かな     永河

【評】いかにも春らしい大らかで長閑な光景です。流木から龍を作ろうとしている人物像もしっかりと造形されていますね。

△~〇 懇ろな朝が来ている初燕     永河

【評】独特なリズム感をもった口語俳句ですね。「懇ろな朝」は擬人法でしょうか。上手いといえば上手いのですが、やや知がまさった表現だとの印象を受けました。初燕を迎えるべく、朝の空もまた親愛の情を示しているのでしょう。

△~〇 花筏崩し浮上の鯉の口     音羽

【評】「浮上」という漢語を用いたところにほのかなユーモアを感じ取りました。ただし花筏と、それを崩す鯉との取り合わせは割とよく見かける気がします。つまり発想自体は月並かなという感想ももちました。

△~〇 土手道の己が影より蕨採     音羽

【評】この句の形ですと、「蕨採(わらびとり)」と名詞にするよりも、「蕨採る」と動詞で収めた方がすっきりします。大胆な表現を試みた点は評価したいと思いますが、作為が目立つ分、やや素直さが欠けているように感じました。

〇 遥拝の岬霞める淡海かな     徒歩

【評】季語は「霞む」で春、「遥拝の岬」は竹生島遥拝所跡ですね。下五を「淡海かな」としていますので、広々として伸びやかな景色が見えてきます。霞んでみえる遥拝の岬も遠景なのでしょうね。とすると、作者自身はどこからこの景を眺めているのだろうという点が気になりました。「遥拝」とありますので、当然、伊勢神宮の方角も意識された句だと思います。作者の立ち位置が明瞭になればさらによい句になりそうです。

△~〇 蝶の昼サドルに鍋をかぶせ干し     徒歩

【評】サドルといえば十中八九は自転車ですので、状況は理解できました。ただ、そこにかぶせ干す鍋とは、どういう使途のものだろうとの疑問を抱きました。家庭で煮炊きに使う鍋なら、戸外で干す必要もないわけですから。季語から麗かな春の陽気が伝わってきますが、この「鍋」が具体的に想像できませんでした。

△~〇 お下がりのベッドの軋み巣立鳥     妙好

【評】中七で大きく切れる句として解釈しました。たぶん兄が進学か就職で家を離れることになったのでしょう。そして弟が兄のベッドを譲り受けることになった。そのベッドが軋んだのですね。他方、戸外では鳥も巣立とうとしている。そのように句意を読み取りました。「巣立鳥」が句の説明になっていると言いますか、ちょっと付き過ぎのように感じられました。

△ 「新入生起立」の声に息揃ふ     妙好

【評】入学式の風景ですね。「息揃ふ」がうまく解釈できませんでした。司会者が「新入生、起立!」と号令をかければ、いっせいに立ち上がるのではないでしょうか。立ち上がる前に、新入生たちが息を揃えたのだとすると、作者はどんなところからそれを感じ取ったのでしょう。そんな疑問を抱きました。ところで、学校風景なら神野紗希さんの「起立礼着席青葉風過ぎた」というとても素敵な口語俳句があります。この景は一目瞭然ですね。

△ 雲雀鳴く白手袋で選挙カー     マユミ

【評】情景もよくわかりますし、季語も悪くありません。ただ、「白手袋で選挙カー」ではいくら何でも表現が雑です。もっと丁寧な日本語を心掛けてほしいと思います。たとえば「目借時選挙カーより手を振れり」など。「白手袋」を入れるなら、「選挙カー」は前書きとして、「車窓より白手袋や雲雀鳴く」とする手もあります。

△~〇 消防士に甘ゆる山羊や島のどか     マユミ

【評】「のどか」が春の季語ですね。句意はよくわかります。しかし「甘ゆる」が観念語です。山羊が消防士に対してある行動をとったから、作者は「甘えているんだな」と理解したわけですね。ですから、甘えていると受け止めたその行動自体を客観的に写生してください。たとえば山羊が消防士に背中をこすりつけた、といった具合に。

◎ 天竜川の光の淵を花流れ     紅子

【評】天竜川は「てんりゅう」とルビを振ればいいでしょう。とても雄大で、しかも華麗な句です。俳句はふつう終止形で一句を締めますが、この句の場合は「花流れ」という連用形が効果的ですね。実際に流れている感じがよく出ています。

△ 蝌蚪ひそむ山水涸れし水たまり     紅子

【評】句といっしょに記された説明で状況がよくわかりました。しかし、この句だけを読んだ人には意味が通じないと思います。「山水涸れし」が分かりづらいのです。また「水涸る」は冬の季語になりますので、その点も誤解を招きそうですね。再考してみてください。

〇~◎ 染付けのタイルの青やシャガの花     豊喜

【評】印象鮮明で美しい句です。このように動詞を使わず名詞だけで作った句は引き締まりますね。なお、「シャガの花」は漢字を使ってください。動植物の名前は漢字が基本です。歳時記でご確認を。

△~〇 窯小屋の小さき祠や花楓     豊喜

【評】句の仕立て方(形)は申し分ないのですが、「祠」がどこにあるのかよく分かりませんでした。この句ですと、窯小屋の中にあるみたいですが、神棚ならいざしらず、祠は戸外にありますよね。祠があるのは窯小屋ではなく、窯小屋の近く、あるいは窯場ではないでしょうか。そのへんをもう一度吟味してください。

次回は3週間後の5月14日(火)に掲載の予定です。皆さんの力作をお待ちしています。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。