かわらじ先生の国際講座~露朝首脳会談を振り返って

去る4月25日、プーチン大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による初の首脳会談がウラジオストクで行われました。朝鮮半島情勢に大きな変化は起こるのでしょうか?

会談後、共同文書も出されず、北朝鮮側もまだ詳細な報道をしていないようですから、プーチン氏が記者会見で語った内容や、マスコミによる取材記事で判断するほかありませんが、具体的な成果は乏しかったとの印象を受けます。

それはなぜでしょうか?

まずプーチン氏の対応が冷淡と言いますか、冷静でした。金正恩氏一行は会談前日の24日にウラジオストク入りしましたが、プーチン大統領は公用のため予定されていた夕食会をキャンセル。ウラジオストク駅での出迎えも、ロシア側は主要大臣が不在でした。翌25日の会談にもプーチン氏は少し遅刻したそうです。そういえば、会談後の興味深いエピソードも紹介されています。このサイトをご覧ください。

金氏がプーチン大統領に朝鮮の刀を贈呈したところ、大統領は、ロシアの民間信仰では武器を贈ることは縁起がよくないとされていると言って、金氏にロシアのコインを渡し、これで買い取ったという象徴的な意味合いの振舞いをしたとか。金氏にすればケチをつけられたようで、不愉快だったはずです。

つまりロシア側は今回の首脳会談にあまり乗り気でなかったということですか?

少なくともそのような素振りを示しました。金氏は今までトランプ大統領とは2回、習近平国家主席とは4回、文在寅大統領とは3回会っています。プーチン大統領は過去に何度か金正恩氏と会談を持とうとしましたが、うまくいきませんでした。金氏は自分を軽視しているとプーチン大統領は感じていたことでしょう。ところが2月の米朝首脳会談が不調に終わると、金正恩氏はロシアにすり寄ってきたわけで、プーチン大統領としてもプライドがありますから、そう簡単に金氏を喜ばせることはしなかったのでしょう。

とすると、北朝鮮のほうがかなり困っているということなのでしょうか?

はい。経済制裁のために国内経済はかなりひっ迫し、国民の食糧事情も深刻だと伝えられています。外貨も不足し、国家機関によるサイバー攻撃で不正に外国の仮想通貨を奪取したことが発覚しています。生活苦から国民の不満が高まれば、政権維持も厳しくなるでしょう。金氏としてもなりふりを構っていられない状況になりつつあるように思われます。ですからプーチン大統領を引っ張り出して、なんとか事態の打開を図りたかったのです。

ロシアは期待に応えてくれそうですか?

プーチン大統領は北朝鮮の立場に理解を示し、非核化実現のためには北朝鮮に対する体制保証が必要であるとか、北朝鮮への人道支援の必要性だとか、多国間協議の提案だとか、いくつかの策を提示していますが、実のところ、いずれも以前から述べていることであって新味がありませんし、具体的な措置については何も出てきていません。

露朝関係の進展が、世界情勢を動かすようなことはないとみていいでしょうか?

そう思います。そもそも今のロシアにそのような力はありません。ロシア自体が経済制裁を受け、内政的に苦しく、プーチン大統領の人気も低下しています。ロシアとしても、アメリカや中国を出し抜いて北朝鮮を助けることにメリットはありません。それは一層ロシアを孤立させ、自らの首を絞めることになりかねません。今の中国も、貿易問題でアメリカと深刻な問題を抱えていますから、そのうえ北朝鮮問題でさらにアメリカとの関係をこじらせたいとは思っていません。結局のところ北朝鮮は、早晩トランプ大統領との首脳会談に立ち戻るしかなさそうに思います。その暁には強気の金正恩氏も大幅な譲歩をせざるを得ないでしょう。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。