3月13日から4月1日までにいただいた作品です。
さっそく投句順にみてゆきましょう。
△桜貝さざなみ奏づ夜想曲 羽後子
【評】「桜貝」で切れ、「奏づ」(終止形)で切れますので、三段切れになっています。それを避けるためには「奏づる」と連体形にしなくてはいけません。すると中七が字余りになりますので、「さざなみ」を「こなみ」にして「桜貝こなみ奏づる夜想曲」でどうでしょう。ただし「夜想曲」という語のムードによりかかり、やや甘い句になっています。春ですと「早春賦」という語を使った作品に時々出会いますが、やはり固有名詞のムードにもたれかかった、やや甘い句になっています。個人的には避けたい言葉です。
△~〇 木曽川の朝靄分けて蜆舟 羽後子
【評】きちんと出来た句です。欲をいえば、やや平板な感じがします。最初に「木曽川」を持ってくるせいで、遠望した景になってしまうのです。「朝靄」と打ち出し、「朝靄を分け木曽川の蜆舟」とすれば、蜆舟が一段と迫って来ないでしょうか。
△~〇 春たつや鬼門に黒き招き猫 永河
【評】句の形はきちんと出来ているのですが、情景がよく見えませんでした。客の出入りする商店でしょうか。それとも神社?あるいはご自宅でしょうか。有名な場所なら前書きがほしいところです。「鬼門」は魔の侵入を封ずべき場所です。一方、春はよきものを積極的に招き入れたくなる季節です。春と鬼門が今一つマッチしないように思いました。
△~〇 七草の花のこぞつて畦にゐる 永河
【評】口語俳句ですね。「畦にゐる」は擬人法でしょう。新しい調べに挑戦した意欲的な句と受け止めました。さらに、ふつう七草といえば青々としたところを愛でるのに対し、この句は花に焦点を当てたところもユニークです。下五をあえて「畦にゐる」としたところに作者の独特な感覚が表現されているのだと思いますが、わたしはそこを十分に汲み取れませんでした。
〇 預りの犬の甘噛み春の宵 音羽
【評】「甘噛み」と「春の宵」がうまく溶け合った佳句です。「預りの犬」がちょっと生硬な気がしました。上五、「預りし」でどうでしょう。
◎惜春や蛇腹カメラの襞に傷 音羽
【評】まさに即物具象の句です。骨とう品と言っていい年代物のカメラが郷愁を誘います。それが「惜春」とぴったり合っていますね。
〇 通夜経や白木蓮の咲き乱る 妙好
【評】「通夜経」とは親族と僧侶だけで行う通夜の儀式の一つのようですね。それに切れ字「や」を付けると、通夜経そのものに感動した句になりますが、だれの通夜か分からないと読者には共感しづらいように思います。いっそ戸外の句にして「通夜の道白木蓮の咲き乱る」などいかがでしょう。
〇 春の闇投函の音しかと聞き 妙好
【評】闇だからこそ音が生きてきますね。きちんとできた句ですが、語順を変え、「投函の音しかと聞く春の闇」としたほうが余韻が増すように思いました。
〇 朧夜やうぐひす嬢を頼まるる マユミ
【評】おもしろい句です。夜鶯といえばナイチンゲールの別名ですが、この「うぐひす嬢」は選挙カーで候補者の名前を連呼する女性のことでしょうね。結局、うぐいす嬢を引き受けたのでしょうか。そのへんを明確にして、「朧夜やうぐひす嬢を任されて」などとするのも一法でしょうか。滑稽感が滲み出るように思います。
△ 観桜の雪洞淡し古墳山 マユミ
【評】どこが悪いというわけではないのですが、今一つ心に迫ってきません。「観桜」「雪洞」「古墳山」と句材が多くて、余情がなくなってしまったせいでしょうか。「観桜」と「雪洞」をカットし、「夜桜」と「古墳山」で何か作れないでしょうか。
〇 ハモニカを吹きて下校や鼓草 剛司
【評】春らしいのどかな景ですね。「下校や」というふうに切れ字「や」を「下校」に付けると、「下校」そのものに感動した句になってしまいます(「や」は感動の所在を示す感嘆詞)。「ハモニカを吹く下校の子鼓草」「ハモニカを吹き来し子供鼓草」「下校子の吹くハーモニカ鼓草」「蒲公英やハモニカ吹ける下校の子」等々、もう一工夫してみてください。
△~〇 蜆売る兼業漁家の軒先に 剛司
【評】俳句にはもってこいの情景ですね。ただ、「兼業漁家」という言葉が説明的といいますか、ちょっと硬い感じがします。「兼業」まで言う必要があるかどうか、再考してください。それから「軒先」ではなく「軒下」ですね。
〇 たこ焼きを蛸の顔して焼く日永 徒歩
【評】のどかな春の季語がよくマッチしたひょうきんな句です。「日永」で収める句形も新鮮です。「たこ焼きを」「焼く」というふうに、「焼」が重複するところがやや気になりました。たこ焼き屋の主のことでなく、作者自身の自画像にして、「たこ焼を蛸の顔して食ふ日永」とするのも面白いと思います。
〇 亀鳴くや町内会の丸秘メモ 徒歩
【評】これも面白い句。「町内会の丸秘メモ」がどこか物語めいているというか、非日常的ですので、これに虚実不確かな季語を持ってきますと、全体にリアリティーが弱まります。もっと現実感のある確かな季語を置くと秀句になりそうです。
〇~◎ 胴塚は大樹の陰やめかぶ干す ちこ
【評】「胴塚」があるということは、大昔に陰惨な戦でもあった場所でしょうか。それに平和な景を取り合せ、たしかな写生句となっています。季語から海が近いことも察せられます。
〇 初つばめ糶の終はりし魚市場 ちこ
【評】きちんと写生のできた句です。上五と下五がともに名詞ですと、句の形がちょっと窮屈になりますので、上五を「燕来る」と動詞にするか、「くばくらや」と切れ字を入れるとよいでしょう。「燕来る糶の果てたる魚市場」とすると調べに一段と張りが出てくるように思います。
次回は3週間後の4月23日にアップの予定です。皆さんの力作をお待ちしています。(河原地英武)