かわらじ先生の国際講座~リアリズムとリベラリズム

リアリズムとリベラリズムは政治における2つの代表的な立場ですね。前者をタカ派、後者をハト派と言ったりもするようですが・・・?
はい。まずリアリズムですが、漢字にすると現実主義。この立場の根本には、人間性悪説があるように思います。つまり人間は自分中心の、利己的な存在だとみるわけです。これを国際政治に適用すれば、どの国も自分の利益の極大化を目指すので、うかうかしていると他国の餌食にされてしまう。この世界は弱肉強食のジャングルの掟が支配しているのだから、軍事力を始めとする国力を絶えず増大せねばならないと考えます。

としますと、リベラリズムは性善説ですか?
そうですね。リベラリズムはもともと自由主義と訳される語ですが、政治の世界では理想主義という訳語が用いられたりします。人間は本来、協力しながら平和に暮らす生き物だとする立場で、これを国際政治に当てはめると、国家関係は持ちつ持たれつの相互依存関係にある。従って国家間の利害を調整しつつ、国際共同体の創設を目指さなくてはならないと考えます。

どちらの立場に立つかによって、政策はがらりと変わりそうですね。
リアリズムはゼロ・サム的な思考をします。たとえば、自分が5ポイント得をすれば、この5ポイント分、相手は損をするという発想です。自分の得と相手の損を足せば、差し引きゼロになりますね。領土問題がその典型です。懸案の領土をどちらが所有するか。相手に譲ったほうが損失を被り、負けとなるわけです。

リベラリズムはどうなのでしょうか?
こちらはポジティブ・サム的な思考をします。自分の利益は相手の利益にもなるという考えです。昔、ある寮歌に「友の憂いに我は泣き、我が喜びに友は舞う」というフレーズがあったような気がしますが、それを国際政治に当てはめてみましょう。日本にとってプラスになることは、.中国にとってもプラスなのであり、中国にとって不利益なことは日本にとっても不利益なのだ、という関係が成り立てば、ポジティブ・サムです。

そのような関係は可能ですか?
たとば領土問題でも、どちらか一方が排他的に所有権を主張し、相手国を排除するというのではなく、主権を共有するとか、共同開発をするとかしたほうが、双方によってより生産的であり、経済的メリットもあるように感じます。以前、大学の授業でそのようなことを述べたら、学生から「先生の考えはめめしいと思います」と言われて、少々へこみました。

たしかに自国の国益を譲らない立場は毅然として勇ましく見えますね。
現代の国際政治は、自国の利益を第一とするリアリズム主導の時代に入りました。トランプ大統領が唱える「アメリカ・ファースト」、アメリカによるパリ協定やTPPからの離脱、イギリスのEU脱退などはその分かりやすい例です。アメリカの貿易赤字をめぐる中国との角逐もしかりです。INF全廃条約の破棄も同様です。アメリカが条約を順守していたために、ロシアや中国に出し抜かれてしまったというわけです。つまり相手の善意を信じてはならない。相手の強大化を許さないために、自国はもっと強大にならなければならない、とする考え方です。アメリカのみならず、他の国々もそのように考えれば、再び軍拡競争が過熱せざるを得ません。

世界は冷戦時代に逆戻りしたようですね。リアリズム全盛の時代になるのでしょうか?
ただ、それが真の意味でのリアリズムなのか大いに疑問です。リアリズムとは本来、現実を見据えること。相手を打ち負かし、地球の破滅に向かって進むことが果して「現実的」なのか。そのような「リアリズム」は最も非現実的な妄想の産物なのではないか。人類の文明は、このように一見勇ましく、野蛮な行動を抑制すべく築かれてきたことを想起したいと思います。

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河原地英武<京都産業大学外国語学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。