10月1日~13日に頂いた句をコメントと一緒に掲載します。 河原地英武
◎露けしや風炉に名残の灰を掻く 次郎
【句評】露に濡れてしっとりと湿った感じは、何事かの名残をとどめているようで、「名残の灰」と通じ合いますね。わたしは茶事にはうといのですが、それでもお茶会の果てる頃にはきっとこの句のような心境になるのだろうなと思いました。
〇子守柿倒れしままの木の梯子 次郎
【句評】柿を取るために幹に立てかけた梯子が、そのまま片づけられずに置かれていたのでしょうね。そして、何かの拍子に倒れても、もはや見向きにされず取り残されている。その淋しい風情は子守柿と相似ています。淋しいもの同士を取り合せ、初冬の雰囲気がよく出ています。
〇秋の灯や子らお囃子の総浚ひ おたま
【句評】町内会の会館のなかでしょうか。秋祭に向けて、子供たちがお囃子の練習をしている場面と受け止めました。いよいよ練習も最終段階。みなの気持ちが一つにまとまる高揚感と、秋の灯のやさしい情緒がうまくマッチしていると思いました。
△~〇月下美人蕾立つ夜の湿りかな おたま
【句評】上五に月下美人を持ってきますと、第一に字余りですし、第二にすでに花開いている月下美人を連想してしまいます。しかしこれはまだ蕾が立っている段階ですから、この蕾のほうを先に持ってきてはいかがでしょう。こんなふうに添削してみました。
添削例……〈蕾立つ月下美人や夜の湿り〉
なお、下五を「湿りかな」としますと、湿りそのものに感動している句になりますが(「かな」は感動の所在を示す働きがありますので)、やはり季語である月下美人に感動の焦点を合わせたほうがいいように感じます。
〇朝湿り木犀の香に染まりをり える
【句評】表現に工夫のある、なかなか面白い句だと思いました。ふつう、「染まる」という動詞は色に対して用いられます。香りや匂いの場合は、「しみる」とか「しみ込む」とか、「包む」(あるいは匂いに「包まれる」)とかいった動詞が使われます。
しかし作者は、あえて「香に染まる」と表現しました。これは朝の空気が湿っているからなのでしょう。「木犀の香に包まるる」では、「朝湿り」の湿った感じがよく伝わりませんし、「木犀の香のしみ込めり」では、空気が湿りすぎ。とすると、「染まる」が絶妙の語なのかもしれませんね。
△満月や雲おしのけて昇りけり える
【句評】原則として、切れ字は一句のなかに一つだけというきまりがあります(もちろん例外の句は存在しますが)。それはなぜかというと、切れ字とは感動の所在を示す語ですから、俳句のような短詩の場合、感動する箇所が2か所もあるのはよろしくないと考えるためです。一句の山場となる感動は1か所にとどめましょう。
この句は、満月が雲をおしのけるように昇ってきた、その昇り方に感動している句だと解しました。ですから、「や」をなくし、「けり」を残しましょう。
一例として〈望の月雲おしのけて昇りけり〉としてみました。
〇逢坂の太き倒木穴まどひ 徒歩
【句評】あの山が迫った逢坂の関の様子を知っている者にとっては、「太き倒木」が実感としてよく理解できます。「穴まどひ」とは、寒くなってきたのでもう冬眠の準備をしなくてはならないのに、まだ地中に潜らずにいる蛇のこと。「太き倒木」が蛇そのものの形と呼応していますし、さらには、その倒木に邪魔されて穴に入れずにいるのだ、と言っているようにも読めます。深読みをさそう面白い句だと思いました。
△~〇パトカーが角に潜める秋の昼 徒歩
【句評】形はきちんとできていて申し分ないのですが、詩情がやや不足気味でしょうか。季語もこれがぴったりしているかどうか。たとえば「秋の朝」でも「菊日和」でも成り立ちそうな気がしますがどうでしょう。「角」も何の角か、もう少し肉付けできそうな気がします。
これは添削というより全く別の句になりますが、たとえば〈パトカーが御苑の角に菊日和〉などと作ると具体性が増すと思います。
今回は佳句が多く、あまり直すところがありませんでした。次回も皆さんの力作を楽しみにしています。だいたい3週間ごとに「カナリア俳壇」を掲載しますので、そのペースでご投句ください。