「カナリア俳壇」3

9月3日~25日にいただいた句をコメント付きでアップします。句作の参考になさってください。      河原地英武

△肱川の鵜舟一望朝の城    鈴愛

【句評】この句には難点が2つあります。まず、「一望」とは広い場所を見渡すときに使いますが、この句では「鵜舟」に対して使われています。鵜舟がたくさん散らばっている景ならOKですが、いかがでしょう。2点目は、下五にどっしりと「朝の城」を据えていますので、この句は「鵜舟」と「城」の2つに焦点が分裂しています。どちらか一方にピントを合せましょう。細見綾子先生の句「木曽川を見ろして城冴え返る」の作り方をご参考にしてください。これは明らかに「城」に焦点を当てています。この作り方にならうと、「肱川の鵜舟見下ろし朝の城」でしょうか。

〇精霊蜻蛉光のなかに湧くごとし    鈴愛

【句評】必ずしも情景を把握したわけではありませんが、詩的でとてもいい感じです。俳句は「断定の詩」ですから、「ごとし」とぼかさず、ずばり湧いたと断定したほうが詩性がさらに強まるように思います。また、上五の字余りはそれほど気になりませんが、575の定型に収めるならば、「光より湧きし精霊蜻蛉かな」とするのも一法かもしれません。

△「七つの子」けさカラス鳴く久の涼    マスオ

【句評】「七つの子」は野口雨情作詞の有名な童謡ですね。久しぶりに涼しさを感じる朝、カラスの鳴き声を聞いてこの童謡を思い出したのですね。ただ、俳句は3秒で勝負がつく文芸です。一読、胸がきゅんとなるのがいい句です。この句は情報が多いため、作者の気持ちを汲み取るまでに時間がかかり過ぎます。まず「七つの子」から、あの童謡の一節を心のなかに思い浮かべなければなりません。また、「けさ」から朝のイメージに切り替え(わたしの偏見かもしれませんが、「七つの子」からは何となく夕方が連想されます)、「久の涼」からは、よほど暑い日が続いたのだろう、などと考えます。もっとストレートに気持ちよさが伝わるといいですね。一例として「鳴き交す鴉の親子今朝の秋」(童謡を踏まえて「親子」としましたが、「鴉の子」は春の季語ですので、この添削例もその点がやや問題。)

〇秋湿る駅に見送る子の背中    おたま

【句評】遠出をするお子さんの背中を心配そうに見送っているお母さんの姿が想像されます。しかし、この季語でいいでしょうか。なんだか「子の背中」が湿っているようで、見送るにしては景気の悪い句です。もうちょっと情緒豊かに見送りたいものです。「秋深き駅に見送る子の背中」「秋声や駅に見送る子の背中」などなど。

◎雨匂ふ二百十日の台所    おたま 

【句評】これは感覚的で、しかも生活感がよく出ている佳句です。

◎手鏡の息に曇れる子規忌かな    徒歩

【句評】手鏡が息に曇るところに作者の鬱屈した気持ちが読み取れ、それに子規の命日を重ね合わせたことで一段と深みのある作品になりました。

〇トーストの耳から食ぶる獺祭忌    徒歩

【句評】類例のない面白い句ですが、わたしはいつもパンを耳から食べますので、トーストを耳から食べることに意外性を感じませんでした。「トーストの耳ばかり食ふ獺祭忌」だと偏屈ぶりが出て面白いかも。(「柿食へば・・・」の作者に敬意を表し、「食ぶ」でなく「食ふ」を使いたい。)ついでに調子にのって私の思いつきの一句「トーストの耳切り落とすゴッホの忌」だめでしょうか。

◎端居してかそけき風をとらへけり    える

【句評】「端居」という季語にはのんびりとした情感がありますが、この句はそれにとどまらない、作者の繊細さ、あるいは精神的なものを感じさせます。「かそけき風」は秋の近さを予感させます。「物思う秋」と言いますが、作者はいち早く何か物思いにふけっているのかもしれませんね。

△天空に火星木星盆の月   万亀子

【句評】俳人にとって季語は恋人のようなもの。別の相手に気を散らさず、一心にその季語を見つめなくてはいけません。この句で作者は「火星」「木星」「盆の月」と3つの相手に気持ちを向けています。これでは「盆の月」がかわいそう。もっと「盆の月」に心を傾け、それがどんなふうに見えるのか詠むといい句になります。

△花火より明るく丸く盆の月  万亀子

【句評】花火は夏の代表的な季語。「盆の月」は秋の季語。どちらも横綱級のメジャーな季語ですから、このような季重なりはお勧めしません。「花火」か「盆の月」、どちらか一方で作句してみてください。全く別の句になってしまいますが、「花火より明るく丸く孫の顔」など。

△結界のごとく鴨居の秋簾    次郎

【句評】簾とはもともと部屋などを分かつものなので、うんと広い意味での一種の結界です。とすれば、この「ごとく」があまり有効ではないように感じました。「結界」と言いますと、陰陽師のおどろおどろしい世界を連想させますので、古い日本家屋の、薄暗くてちょっと怖い座敷を思わせますね。「結界のごとく」の代わりにもう一つ何か具体的なものがあると、さらによく情景が見えてくるように思います。

〇またの世は風になりたや草の絮    次郎

【句評】次郎さんの心境がすなおに表れた作です。ふと、漱石の「菫程(ほど)な小さき人に生まれたし」を想起しました。風にも春風、北風などいろいろありますが、「草の絮」から察するに、やさしく吹く穏やかな風なのでしょうね。好みの問題ですが、「なりたや」より「なりたし」のほうがすっと読める気がします。

〇テオ宛のゴッホの手紙読む夜長    妙好

【句評】わたしはゴッホの絵の中でも「星月夜」という作品がいちばん好きなせいか、ゴッホというと秋を思います。この句を読みながら、無性にゴッホの手紙が読みたくなりました。(岩波文庫にありますね。)わたしをそんな気持ちにさせてくれたのですから、この句は上々の出来栄えといっていいでしょう。

△黒電話宝物のごと文化の日    妙好

【句評】中七を字余りにしないためには、「宝物」を「ほうもつ」と読まないといけませんが、それでは正倉院にある古代の遺物みたいですね。それに「宝物のようだ」というのは観念的です。もっと具体的に、大切に保管されている様子を句にしてください。ややふざけた句で申し訳ありませんが、一例として「床の間の黒電話鳴る文化の日」

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