新聞奨学生の実態

横山真「新聞奨学生 奪われる学生生活」(大月書店)を読みました。著者の横山さんは、この3月に福岡大学を卒業しました。新聞奨学生というのは、新聞配達に従事することを条件に、新聞社が大学の学費を払ってくれて、若干の給料も払うという制度です。しかし、制度の具体的な事柄や、奨学生たちの労働と生活の現状はほとんど知られていません。そのこと自体が問題だということで、彼はこの本を書きました。

大学に進みたくとも、高い学費を払えないことに悩む高校生は増え続けています。「奨学金」という名前の借金の返済に苦しむ人たちも多くいます。
横山さんは母子家庭で育ち、生活保護を受けていました。教師をめざして大学に進むことにしましたが、貯蓄がありません。大学には入学前にお金を払わないといけないのに、各種の奨学金は入学後にしか支給されないのです。
この状況を打開する唯一の方法が新聞奨学生でした。「借入」という形で、入学手続きに必要なお金があらかじめ支給されるのです。こうして新聞奨学生を選択したのですが、多くの理不尽が待ち構えていました。
まずは、仕事そのものの厳しさ。重い新聞を速いスピードで配らなければなりません。配達時間を指定している配達先があり、少しでも遅れると苦情が来るのです。交通事故の危険も伴います。睡眠時間も十分ではない中での、危険な重労働です。
奨学生が働く配達所の「当たりはずれ」もあり、理不尽な上司がいる場合もあります。どれほど厳しくとも、やめるのであれば、採用時に借り入れた学費を「一括返済」しなければならないので、現実にはやめることができません。なおかつ、配達中に事故に遭って怪我をして、やめざるを得ない場合もあります。
何よりも大きな問題は、夕刊の配達があるために、午後遅めの授業がとれないことです。必修の授業すらとれずに、卒業ができないこともあります。その他、他の学生が普通に参加する課外活動に参加できないなど、「学生生活が奪われて」しまいます。大学での友達作りが難しくなり、孤立することもあります。
なお、横山さんの本には出てきませんが、新聞奨学生の募集時の説明と実際の労働条件が大きく異なることが少なくないようです。法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子先生の記事がこちらにあります。

 

また、2010年の記事ですが、フリーライターの西川敦子さんの記事もあります。

なお、横山さんの本では、「新聞奨学生は大変だが、それを通じて成長できる」という大人たちの発言の欺瞞を指摘しています。横山さん自身および彼がインタビューをした奨学生たちによれば「もともと強かったから最後まで仕事ができた」のであって、「最後までやり遂げたから成長したわけではない」ということでした。

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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。

 


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