毎年冬に多い高齢者集合住宅の火災
冬シーズンには毎年のように、高齢者施設の火災事故(事件)が報道されています。この1週間程度の間にも、神戸や札幌の高齢者が多く住む集合住宅で火災が報道されました。神戸ではケガ人が出なかったものの、札幌では11人もの方が亡くなる大惨事に。いずれも報道では「未届け施設」の可能性が疑われています。老人福祉法では『高齢者を入居させ、食事や介護、洗濯掃除等の家事や健康管理などを行っている場合は有料老人ホーム』とされ、行政への届出を指導されています。かつては「10人以上の」高齢者を入居させた場合でしたが、改正で「1人でも」ということになりました。高齢者の集合住宅は、認知症の人も入居する場合が多く、火災をいかに出さないかは最大の注意点です。
未届け施設なのか、単なるアパートなのか
今回の神戸の火災では、経営者は「建物は福祉施設ではなくアパート」と主張しているようです。住んでいた人が高齢化したため、食事を提供しているとのこと。札幌のケースは生活困窮者向けの自立支援住宅(下宿)であり、大半が生活保護受給高齢者が入居していたようです。確かに法律や制度に厳しく照らし合わせると、高齢者施設の類になるのかもしれませんが、非常に難しい線引きと言えるのではないでしょうか。40歳代の人ばかりが住むアパートも30年そのまま住み続けると高齢者ばかりになります。心身に不自由が出てきたため、経営者が見かねて支援すればそれはイコール施設となるのか。施設と判断した場合、さまざまな規制があり改修など莫大な費用がかさむケースも多くあります。困窮している人々に低家賃で提供できなくなります。
閉鎖された空間にしない、街の目が大切では
上記は良心的な視点で見た場合で、実際には低所得者向けのいわゆる「貧困ビジネス」も横行しています。一概に判断できませんが、制度に合わないが半ばボランティアで困窮者を支援している大家さんもいないとは限りません。「悪徳」か「良徳」かは非常に難しいのですが、困窮者や社会的弱者の居住空間を密室にしないことが大切ではないかと感じます。行政だけにその役を任せるのはまず不可能。家族、知人・友人、近隣の人、街の人々が、そこに住む人にも街の人にも安心・安全な空間なのかどうか、異常な経営であれば街が排除していく、ぐらいの気持ちで目を向けることが必要ではないかと思います。
———————————————————————
山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。