高齢期の暮らしと住まい(8)

東京商工リサーチ公表資料より筆者作成

介護事業の倒産増加

民間調査会社「東京商工リサーチ」の調査によると、2017年の「医療・福祉事業」の倒産状況は、介護保険施行以来最多になったと公表されました。2000年に年間57件だった倒産数は、2017年には249件と約4.4倍となっています。さまざまな要因が複雑に絡み合うので、単に経営努力が足りないという一言では済まされないことです。介護保険スタート以来、介護事業者の激増もそのベースにあることは確かです。調査では、負債1億円未満の小規模倒産が17.8%増、業種別では「老人福祉・介護事業」が最多ということで、度重なる介護報酬(介護保険の費用)の改正が経営に大きな影響を与えていることがわかります。一方で、「これからは高齢者ビジネスが儲かる」といった安易な他業種からの事業参入があることも原因のひとつであると感じます。在宅介護はまだ利用先を変更するということが比較的しやすいですが、介護施設や高齢者住宅が倒産・閉鎖となった場合の入居者の負担は計り知れないものがあります

 

高齢者住宅の経営

特養ホームなどは「公的施設」と言われがちですが、介護保険施行以来、ほとんど「公営」はなくなっています。社会福祉法人も民間企業のひとつです。措置時代(介護保険前の行政直営)は公的と言えたのですが、介護保険が始まってからは「民間による介護事業」がほとんどになっています。あえて公的要素があるとしたら、特養ホームなどの「介護保険施設」は、県や市町村の補助金が投入されている部分です。介護は「介護保険」があるからこそ経営が成り立つ事業と言っても間違いではないといえます。そのような中で、高齢者住宅(この場合は介護施設から高齢者のための住宅と幅がありますが)の経営も決して安泰とは言えません。介護保険改正にも左右されますし、入居者が少ない場合は経営危機にも繋がります。ようするに、高齢者の住宅は「入居者=売上(収入)」です。人々から支持されないサービスはそれだけ倒産確率も高くなるということですね

 

介護保険収入に依存する事業者は多い

見極めは難しい

誰もが「できるだけ安く」を希望しますが、高齢期のサービスの「安い」は品質に直結するといっても過言ではないと思います。高齢期のサービスは「人」によるものが非常に大きい。ここに費用をかけるかどうかです。残念ながら、介護施設での事件や事故も報道が多くなりました。施設を見ていると、厳しい人員体制であることがわかります。この場合、職員の数と言う意味だけでなく、職員研修や資格取得補助など、運営者側が現場の品質を高めるために職員に投資しているかどうか、という部分です。むしろ人員数より職員の働きやすさ・意欲が非常に重要ではないかと思っています。自治体ですら破綻する世の中ですから、「絶対安心」な施設を見極めることはまず不可能です。入居率が良いかどうか、職員の定着率が良いかどうか、現場は温かい雰囲気か、そして経営状況(財務資料など)の確認も必ず行いたいところです。

筆者が過去訪れた施設で突然の倒産や閉鎖もあった

 

 

 

 

 

 

 

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。

 


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