高齢期の暮らしと住まい(6)

厚労省「社会福祉施設等の耐震化状況調査」(H26.10.1時点)より

地震の備えは?

阪神淡路大震災から23年が経過しました。高齢者住宅への住み替えを検討している人々から「老人ホームの耐震はどうなっているか」という質問も増えました。日本では、阪神淡路大震災、東日本大震災と想像を絶する大災害を経験しました。阪神淡路の際、特に新耐震基準が導入された昭和56年以前に建築されたものに大きな被害が発生し、既存の建物にも「耐震化」が求められています。高齢者住宅の多くは、新耐震基準で建築されていますが、中には昭和56年以前の古い施設も存在します。少し前の調査ですが、厚労省が社会福祉施設等への耐震化を調査した際、耐震化率は全体で87.9%、高齢者関係施設に限っては93.3%と高いものの、100%ではありません。しかも、民間施設より公立施設のほうが耐震化が遅れていることがわかります。財政問題が影響しているのかもしれませんね。

 

免震はダンパー(緩衝器)を設置して揺れを減免する(建物のつなぎ目の部分)

耐震と免震

ほとんどの施設は「耐震」となっていますが、中には「免震」構造をもつ建物もあります。耐震と免震が併設されている有料老人ホームに行った時、入居者の方に印象的な話を伺いました。首都圏の施設ですが、東日本大震災の際、その方は耐震となっている棟のダイニングルームにおられ、相当な揺れを感じたそうです。居室のある棟は免震。「これは部屋が大変なことになっているのでは」と思って急いで部屋に戻ると部屋の状況は変わりなく、免震の棟にいた人はあとで報道を見てそれほど甚大な被害のある地震と思わなかったそうです。免震のメリットを感じたと仰っておられました。一般的なマンションも「免震」を売りにしているところがありますね。建築の専門ではないので詳細は不明ですが、構造が全く違うそうです。どちらが良いという問題ではなく、ちょっと知っておくといい情報かもしれません。

 

スプリンクラーは部屋だけでなく押入れにも設置

高齢者施設の防災訓練

地震だけでなく、高齢者施設は「防災」の点がとても重要です。国や自治体も厳しい内容で指導しています。消防の立入検査もありますし、最低でも年に1回以上防災訓練をしなくてはいけないところがほとんどです。職員だけでなく入居者も一緒に参加する施設もあります。以前、介護施設で施設長が仰っていたことが忘れられません。「夜間に火災が発生したら、寝たきりや車いすの入居者全員を夜勤2人で避難させることはまず不可能。だから『火災は絶対発生させない』ことが100%」とのこと。昨年、ロンドンの高層住宅の酷い火災がありましたが、建物自体に問題が多かったようです。日本の高齢者住宅は「被害を出さない・拡げない」ための設備がかなり厳しく整備されていると感じます。

 

震災のときの老人ホームはどうだったか

阪神淡路、東日本の大震災のとき、高齢者住宅はどうだったでしょうか。複数の有料老人ホームの運営者に聞いてみると、高齢者施設ならではのメリットがわかります。まず、行政指導で施設は入居者や職員の食糧を最低3日(できれば1週間)、毛布などとともに日常的に備蓄しておかねばなりません。自家発電装置もあります。職員が全員の無事を確認し、一カ所に集合していろいろな指導や手助けをしてくれます。阪神淡路の際は、頑丈な建物の有料老人ホームが、大浴場を近隣の避難住民に開放したという話も聞きました。東日本では、流通がマヒしてしまったので食材の確保に全国の高齢者施設などが協力したと聞きます。有事の際には一戸建てで高齢者だけが暮らしていると不安が募ります。大災害のときは、高齢者施設の存在意義を実感します。

有料老人ホーム(自立型)の大浴場を開放
緊急用に食料、医療、備品などが備わっている

 

 

 

 

 

 

 

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。

 


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