先日は台風や雨続きで大変でしたが、皆さんのところはご無事でしたでしょうか。
暦のうえでは11月8日が立冬ですので、秋も残り少なくなってきましたが、詠みたい季語がたくさんある季節です。いままで使ったことのない秋の季語に挑戦してみるのもいいですね。
では早速、皆さんの作品を投句順に紹介していきます。
◎をさなごと影踏む遊び赤まんま マユミ
【評】調べもよく、情景も具体的で、上々の作と思います。季語もよく効いていて郷愁をおぼえました。
◎白萩や産着干さるる札所寺 マユミ
【評】お寺に後継ぎが生まれたのでしょうね。白萩の「白」が産着の色を連想させ、統一感があります。この句もたいへん結構です。
△苦瓜の熟していくや樋の先 万亀子
【評】「いくや」では自分から離れてゆく感じで、他人事になりがちです。一般論ですが、俳句では「行く」より「来る」を用いた方が臨場感が増します。この句の場合ですと「苦瓜の熟してきたり樋の先」のほうがよいでしょう。ただ、「樋の先」が今一つはっきりしません。
〇虫の音を聞き分け居るや床の中 万亀子
【評】なかなか眠れない夜なのでしょうね。このへんは好みの問題ですが「聞き分け居るや」が少しごつごつした感じですので、「聞き分けてをり」くらいでいいかもしれません。
〇隣家より金木犀の香り立つ 蓉
【評】「香り立つ」ですと、文字通りその場に香りが立ち昇るイメージですが、隣家「より」というのですから、「隣家より金木犀の香りくる」のほうが自然でしょう。
△秋雨や庭の真中に祖父の松 蓉
【評】季語は作者の思いを伝える重要な役割があります。とすると、作者はこの季語にどんな思いを託しているのでしょう。そこが読み取れませんでした。「真中」や「祖父の松」という語から堂々とした立派な松が連想されますので、それに見合う季語を見付けられるといいですね。一例として「秋天や庭の真中に祖父の松」。
△現代の不思議アートに秋の声 美春
【評】「現代の不思議アート」では抽象的で、具体的な物が思い浮かびません。「アートに秋の声」の「に」もよろしくありません。「秋の声」はもっと広がりのある季語ですから、アートに限定しない使い方のほうがいいように思います。
△獲りたての秋茄子焼きて朝餉かな 美春
【評】「かな」は直前の語に係るかなり強い感嘆詞ですから、この句は「朝餉」に感動していることになってしまいます。作者の思いとしては、「獲りたての秋茄子」に力点を置きたかったはず。ですから仕立て方を変えないといけませんね。一例ですが、「朝食のためにもぎたり秋茄子」。この場合「茄子」は「なすび」と読みます。
〇~◎組体操鰯雲へと立ち上がる 音羽
【評】「組体操」と「秋空(秋天)」を取り合せた句はたくさんありますが、「鰯雲」ならオリジナリティーがあります。「鰯雲へと」の「へと」が効果的で、この鰯雲がぐっと近づいてきたように思われます。
△~〇船室の窓の切り取る鰯雲 音羽
【評】船室からすこし離れて外を見たのですね。ポップアートのようなお洒落な句ですが、船室の窓といっても丸い形もあれば長方形もありますので、やや曖昧かもしれません。また「鰯雲」が効いているかどうかも迷うところです。
〇~◎みどりごの乳の匂ひや豊の秋 妙好
【評】生命感あふれる佳句だと思います。赤子と乳の匂いの組み合わせはやや類想的ではありますが、「豊の秋」とうまくマッチしていますね。
〇もみぢ葉の影やはらかき石畳 妙好
【評】きちんと出来ている句だと思います。ただ、影がやわらかいという表現はありがちですので、そのへんにオリジナリティーが加わるといいですね。
△木犀や首長くして鳩になる 永河
【評】ちょっとわたしには理解不能でした。首を長くして鳩になったのは作者自身でしょうか。それとも、首を縮めていた鳩が、その首を伸ばしたのでようやく鳩らしくなったということでしょうか。木犀との関連も把握できませんでした。わかる人にはわかるという句かもしれませんね。
△~〇秋うらら水琴窟を子等覗き 永河
【評】よく晴れた秋の日ののどかな風景ですね。ただし、水琴窟は竹などの細い管を通して音を聞くものなので、「覗き」がどうでしょうか。もし覗くとしても、複数の子が同時に覗くことはできませんので(もちろん句意は「代わる代わるに子が覗き」ということでしょうが)、「秋うらら水琴窟を子が覗き」なら納得です。
〇決闘の舞台に芒五六本 徒歩
【評】宮本武蔵が決闘をしたという京都の一乗寺下り松のあたりでしょうか。そういえば、あのへんに芒があったような気もします。あるいは舞台上のお芝居の風景かも知れませんね。「五六本」というところがいかにも演出めいているなあと感じられたのでしょう。俳諧味のある句です。
〇原稿の一行余る桂郎忌 徒歩
【評】徒歩さんには伊吹嶺誌への原稿依頼をしましたので、きっとご苦労なさっているのでしょう。お察しいたします。「桂郎忌」も用例をめったに見ない季語ですが、徒歩さんとは同業ですので、ご自身と重ねておられるのでしょう。作者を知ったうえで採れる句ということになります。
△~〇渡り蝶オーケストラを越えゆけり 林檎
【評】本州で渡り蝶といえばアサギマダラのことでしょうね。明るくて、メルヘンチックで魅力的な作品ですが、オーケストラというと室内での演奏風景を連想するため、それを越えてゆく情景が今一つイメージできませんでした。
△~〇うすら寒蛭泳ぎをり目高鉢 林檎
【評】この形ですと三段切れになりますので、中七を連体形にして「蛭泳ぎをる」としましょう。しかし「目高鉢」がやや窮屈。「うすら寒目高の鉢に蛭泳ぎ」または「蛭泳ぐ目高の鉢やうすら寒」でどうでしょう。
〇~◎かご振りていなご逃がせり日暮れ前 多喜
【評】わたしも子供の頃、つかまえた昆虫を適当なところで虫かごから逃がしてやった記憶があります。「振りて」と古風に言うより、もっと張りのある「振つて」のほうがよさそうです。文字数が多いので、漢字を増やすと引き締まります。「籠振つて蝗逃がせり日暮まへ」。(「前」でもいいのですが、平仮名にするのはわたしの個人的な趣味です。)
△しぐるるや足で拍とる三連符 多喜
【評】音楽のことにはうといのですが、三連符はたしか「タタタ・タタタ・タタタ」とけっこう慌ただしい調べですね。それと「しぐるる」がどう関係するのか、うまく鑑賞できませんでした。また、この景は戸外なのか、室内なのかも不分明で、情景を思い浮かべることができませんでした。
〇味噌蔵に濃きたまりの香秋深し 織美
【評】なるほど、味噌蔵とはこんな感じだろうなと思わせるどっしりとして渋い句です。季語もよく合っていると思います。
△背伸びして賽銭入れし草紅葉 織美
【評】きっと賽銭を入れたのは幼い子供なのでしょうね。その子供になった気持ちで詠みましょう。背伸びして賽銭を入れた子供の眼には、賽銭箱の中がちらと見えたはずで、草紅葉が眼中に入ることはありません。たとえば「背伸びして入れし賽銭秋澄めり」などとすれば、賽銭が落ちるときの澄んだ音が聞こえてきそうです。
次は11月19日に掲載の予定です。皆さんのご投句をお待ちしています。
河原地英武