「カナリア俳壇」21

10月に入り、ようやく涼しくなってきました。秋は多彩な季語の宝庫です。いろいろと面白い句が作れそうですね。さっそく皆さんの作品を見ていきたいと思います。

△蟷螂や斧ふりかざし向かひくる     蓉

【評】中七、下五も同じ螳螂のことですから、「や」で切ってはいけません。山口誓子の名句「蟋蟀(こおろぎ)が深き地中を覗き込む」を暗記しておきましょう。それにならえば、この句の上五も「螳螂が」となります。

△落鮎を食して苦し口むすぶ     蓉

【評】「苦し」ならば「食して」は言わずもがなですね。一体に鮎は苦いので、当たり前のことを述べただけという印象を受けました。「口むすぶ」もとってつけたようで、表現がこなれていません。

△~〇燕帰る土間の敷藁片す父     妙好

【評】情景がよく見えてきました。ただ、上五を字余りにする必要があるのかどうか。「燕去り」とするか、「秋燕(しゅうえん)や」とすれば、五音で収まります。

◎秋深し友の遺墨を床の間に     妙好

【評】しみじみとした情感が伝わってきました。季語「秋深し」がたいへん効果的ですね。思いをきちんと季語に託した佳句です。

〇電線を除けつつ芋茎神輿ゆく     徒歩

【評】芋茎(ずいき)祭は京都・北野天満宮のお祭りです。ご存じでない方も多いと思われるのでリンクを張っておきます。

芋茎神輿の飾りつけもなかなか豪華ですね。わたしも数年前に見に行きました。「電線を除(よ)けつつ」が日常感覚にとどまり、今一つ詩的な高揚感に欠けますので、どのように除けたのか、さらに具体的に描写できるとよいですね。

△昼時の早くも染まる酔芙蓉     徒歩

【評】酔芙蓉は午前中白く、昼頃にピンクになり、夕方には赤くなります。ですから、昼時に色づくのは格別なことではありません。このような句はもっと俳諧味を出したり、色っぽく詠んだりと、表現次第で面白くなりそうですね。

△~〇碇泊のマスト上空鳥渡る     音羽

【評】情景はよくわかりますが、なにか報告を聞いているようで、詩的なときめきがありません。「碇泊」「上空」という漢語が固すぎるのかもしれません。また、すべてを説明し切って、余白がないせいもあるでしょう。俳句は油絵的にすべてを塗り尽くすのでなく、墨絵のように何もない空間をどう取り込むかが勝負所です。まずは「上空」を省きましょう。これは言わなくてもわかることですので。

△~〇無住寺の蔦の絡まる外厠     音羽

【評】きちんと整った端正な俳句です。しかし、いかにも侘しい。このような「ワビサビ」俳句は読み手の心をときめかせてくれません。音羽さんは俳句の上級者ですから、「無住寺」や「外厠」の世界は卒業し、もっと生気ある句材に挑戦してほしいと思います。芭蕉も「ワビサビ」から「軽み」の境地へと転じたように。

△雨の中車窓に続く刈田かな     美春

【評】このままでは単なる事実の報告。意識が日常感覚にとどまっています。俳句はこの先に生まれるものです。まずは「車窓」という言葉を消しましょう。作者は電車のなかから外を眺めているのでしょうが、そのような事実をいちいち報告する必要はありません。心を電車のなかから、もっと広い世界に解放しましょう。心ときめかせてこその俳句です。

〇故郷や変らぬままの鱗雲     美春

【評】この句には郷愁があります。故郷の街並みは変わり、懐かしい人々もいなくなってしまったけれど、空は在りし日のまま。いわし雲が心を子供時分に戻してくれたのですね。

△窯垣や小径の萩に風まとふ     豊喜

【評】「や」は感動を表す助詞です。この句は窯垣に感動している句になってしまいますが、どうも作者の心が窯垣そのものに向いているようには思えません。要するに、「窯垣」「小径」「萩」「風」と句材が多すぎなのです。自分が何に感動しているのか、もっと突き詰め、言葉を整理しましょう。

◎欄干の染付けタイル萩の風      豊喜

【評】瀬戸の街なかの風景ですね。動詞を省き、すっきりとした句に仕上がっています。「萩の風」もお洒落です。

△秋耕の畝に小松菜いきいきと     織美

【評】「秋耕」ですから、今まさに田畑の土を掘り返しているわけですね。とすれば、まだ小松菜が育つ以前の段階ではないでしょうか。ちなみに「小松菜」は春の季語です。

◎古びたる魚籠に溢るる野菊かな      織美

【評】きちんと写生のきいた佳句です。「古びたる魚籠」そのものは侘しいけれど、そこに溢れるほど盛られた野菊によって一気に華やぎが生まれました。

〇秋爽やお練りに響く「松嶋屋」     楽子

【評】「松嶋屋」は言わずと知れた歌舞伎役者の屋号。大向こうから「松嶋屋!」と声が掛かったのですね。「響く」が不要です。掛け声は男性が行うようですが、楽子さんがしたってかまわないでしょう。〈秋爽やお練りへわれも「松島屋」〉でどうでしょう。

△襤褸市に男が買へり古陶片     楽子

【評】「男が買へり」が面白くありません。たいがい買うのは男か女でしょうから……。「襤褸市で箱ごと買へり古陶片」など、何かもっと具体的な描写がほしいところです。

△曼珠沙華空に告げたき夢あらむ     永河

【評】「あらむ」は推量ですから、曼殊沙華の気持ちを推し量っているのですね。つまり曼殊沙華を擬人化した作品だと思いますが、そこに詩を感じるかどうか。リアリストのわたしには、そこがちょっと甘いように感じられてしまうのです。「曼殊沙華」で切って、「空に告げたき夢ありぬ」とすれば、中七下五は作者自身のことになり、納得できます。ただ、その場合には「空に告げたき」が不自然になりますね。

△爽涼の畦に白鷺の首抜きん出て         永河

【評】「爽涼」は時候の季語ですから、「畦」に掛かるのでなく、もっと広やかに使いたいところです。「爽涼や」と切ったほうが季語が活きると思います。それから、中七が大幅な字余り(十音)になっていないでしょうか。

△秋深し秘湯巡りのプラン練る     多喜

【評】「プラン練る」と言われても、「ああ、そうですか。いいですね」と答えざるを得ません。つまり作者の意識が日常感覚にとどまっていますので、読者としては単なる報告を聞いている気分になってしまいます。この句を詩的な境地に高めるためには、プランを練るだけでなく、実際に秘湯巡りに出かける必要がありそうです(本当に出かけなくてもいいのですが、少なくとも句の世界では出かけてほしいのです)。読者の心をぜひ秘湯巡りに連れ出してください。

△枡酒に総代多弁の秋祭     多喜

【評】俳句では中七の字余りは厳禁です(この句は中八になっていますね)。それから、お酒が入って多弁になるというのはありがちで、月並な描写です。

次回は10月29日に掲載の予定です。皆さんの新鮮にして果敢なる挑戦の句をお待ちしております。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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