刺激的なタイトルですが、どういうことですか?
実は「プレイボーイ」誌(2019年10月14日号)の特集記事「INF全廃条約失効で日本の周りが“核ミサイル銀座”になる!!」を踏まえたものです。ちなみにこの雑誌は男性娯楽誌のイメージが強いのですが、けっこう政治記事が充実していてあなどれません。
INF全廃条約は、1987年米ソによって結ばれ、冷戦終結の契機となった条約ですね。それが今年、米露によって破棄され、8月2日に失効しました。その結果、なぜ日本周辺が“核ミサイル銀座”になるのですか?
まずINFについて簡潔に説明します。これはIntermediate-range Nuclear Forcesの略で、「中距離核戦力」と邦訳されます。射程500km~5500kmとかなり幅のあるミサイルのことですが、その本質は射程距離そのものでなく、標的にあります。
といいますと?
INFは別名「Theater Nuclear Weapon」(戦域核兵器)と言われます。「Theater(シアター)」とは演劇の世界なら俳優が演じる舞台のことですが、軍事用語では戦争が演じられる領域、すなわち戦域のことです。戦争の当事者は自国を戦場にしたくありません。自国の外を戦場にして決着をつけようとします。核保有国とて同様です。かりに核戦争になっても、当事者たちはそれぞれの本国をターゲットとせず、互いの同盟国を攻撃し合って幕引きを図ろうとします(本国を攻撃し合うのは最終段階です)。こんなふうに互いの同盟国を標的とする核ミサイルがINFなのです。冷戦時代はヨーロッパが主戦場として想定されていました。すなわちアメリカは東欧を、ソ連はNATO加盟国を主たるターゲットとしてINFを配備したのです。
核保有国のエゴイズム丸出しの戦略ですね。INF全廃条約はその戦略を米ソが捨てたことを意味しますが、この条約が今年破棄されたということは、再び米露が自国本土の身代わりに同盟国を戦場にする戦略に復帰したことになりますね。そして今、核保有国の「戦域」は、欧州から日本を中心とする東アジアに移ったということでしょうか?
そのとおりです。INF全廃条約失効翌日の8月3日、アメリカのエスパー国防長官は早速記者団に対し、中国の軍事脅威に対抗するため中距離ミサイルをアジア方面に配備したいと述べましたが、そこには日本も含まれるとされます。
これに中国が反発し、アメリカのミサイル配備に対しては中国も対抗措置を講じると表明、さらに日本、韓国、オーストラリアにも警告を発しました。
ロシア外務省もまた、アメリカがアジアにミサイルを配備するなら対抗措置をとると表明しました。
アメリカがアジアに中距離ミサイルを配備した場合、それは距離的に中国・ロシアに届きますが、中国やロシアの中距離ミサイルはアメリカ本土には届きませんよね。それは不公平ではありませんか?
はい。中露が強く反発するゆえんです。しかし対抗措置として米本土を標的にするとは言えませんから(そんなことをすれば全面核戦争になりかねません)、中露もまた中距離ミサイルに力を入れ、在日米軍など海外の米軍施設を射程に収めようとしているのです。むろん軍事施設だけでは済みません。周囲の地域もみな巻き込まれます。
それでは日本はアメリカの弾除け、身代わりではありませんか?
そうなります。ところでつい最近、「琉球新報」(10月3日付ウェブ版)が非常に興味深い報道をしています。ロシア情報筋から入手したとのことですが、アメリカは今後2年以内に、沖縄や北海道に新型の中距離ミサイルを配備すべく、日本との協議を始めようとしているというのです。その新型ミサイルには核弾頭が装着可能とのことですから、いよいよ日本の非核三原則も危機に瀕することになります。
そういえば、北朝鮮が10月2日に打ち上げたSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)も中距離ミサイルでしたね。日本全土を射程に収められるものだったとか。アメリカ本土に届く種類のミサイルではないため、トランプ政権の対応はおだやかで、実験を糾弾するどころか、3日後の5日にはストックホルムで米朝実務協議が行われました。なにか日本が駆け引きの材料にされているようではありませんか?
そう思います。しかし、このような情勢下で日本政府の対応はどうでしょう。10月8日、東京・有明の公園で、河野防衛大臣と小池都知事が臨席し、迎撃ミサイル・システムPAC3の展開訓練を行ったのです。
かりに北朝鮮のミサイルが飛来しても国民の生命・財産を守れるとのデモンストレーションなのですが、政府の対応はあまりに鈍重との印象をぬぐえません。日本を取り巻く各国が中距離核戦力をちらつかせる危険なゲームを行い、その標的が日本だというのに、これを甘受していていいものなのか。この理不尽かつ不条理な状況を打破すべく、全力で外交を展開しなくては政府失格でしょう。
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