東京五輪・パラリンピック組織委員会(森喜朗会長)は、競技場への旭日旗持ち込み禁止措置を求める韓国に対し、差別意識や軍国主義的意図は一切ないとし、これを持ち込み禁止品とはしない意向を示しました。9月18日、日本外務省の報道官も記者会見で、その判断を追認しました(2019年9月23日付「京都新聞」)。これについてどうお考えですか?
日本側の対応は予想通りです。旭日旗をめぐっては、たびたび問題になってきました。2013年、ソウルで開かれたサッカー東アジアカップ日韓戦で、日本人サポーターが旭日旗を掲げて問題になりましたし、2017年にやはり韓国(水原)で行われたサッカー日韓戦で、J1川崎サポーターが旭日旗を掲げたため、川崎フロンターレがアジアサッカー連盟から処分を受けました。昨年10月には韓国の済州島で国際観艦式が執り行われましたが、韓国側が旭日旗(自衛艦旗)の掲揚自粛を求めたため、わが国は自衛艦の派遣を中止しました。旭日旗問題も、日韓対立の一つです。ところでこの問題に対する日本政府の立場ははっきりしています。
それはどんなものですか?
日本外務省のホームページに掲載されています。次の文書をご覧ください。
旭日旗が何らやましいものでない理由として第一に、これが日本文化に根差していること、第二に、国際社会も認めている自衛隊の公式の旗であること、第三に、似たデザインの旗は外国にもいくらでもあることが挙げられています。
さらに菅義偉官房長官の説明も動画でアップされています。5分45秒あたりからご覧下さい。
なるほど。菅長官は大意次のように述べていますね。「旭日旗のデザインは、大漁旗や出産、節句の祝い旗、あるいは海上自衛隊の艦船の旗として広く使用されております。これが政治的主張だとか軍国主義の象徴だとかいった指摘は全く当たらない。大きな誤解があるのではないかというふうに思っております。」菅長官の言うとおりなのですか?
詭弁と言わざるを得ません。だれでもわかることを2点に絞って指摘しておきます。まず第一番目に、菅官房長官の説明には、旭日旗が大日本帝国時代の軍旗であったとの言及が全くありません。しかし一般の人々が真っ先に思い浮かべるのはこの軍旗でしょう。この旗を目にするのは右派の人々のデモにおいてですから、明らかに政治的な意図があります。海上自衛隊の旭日旗は旧海軍時代と同じものです。3年前、海上自衛隊の舞鶴基地に行く機会がありましたが、基地内の売店に、「海軍魂」と書かれたソファークッションを売っていました。海上自衛隊が戦前の海軍を引き継いでいることは確かでしょう。
第二に、いくら日本が軍国主義の意図はないと言っても、先方(韓国)がその意図を感じるなら、使用はやめるべきです。わかりやすい例を出します。わたしの知人の話ですが、小学生の娘さんが「ブー子」というあだ名をつけられ、本人がとても気にしているので、父親が学校の先生に相談に行ったそうです。すると先生は、「〇〇ちゃんは人気者で皆に好かれているから大丈夫です」と言ったとか。百歩譲って、クラスの友人が彼女の太った体型をからかう意図はなかったにしても、本人がそのあだ名を気にするなら、口にすべきではありません。相手がいやがることはしない。これが常識です。日韓の場合は日本が加害者の立場なのですから、なおのこと、やめるべきです。
昨日(9月30日)、韓国の国会は旭日旗の競技場への持ち込み禁止措置を要求する決議案を採択しましたね。
本来は、韓国側にこんな決議をさせるような事態を招いてはいけないのです。韓国がいろいろ言い出す前に、日本自らが持ち込みの自制を自国民に促すのが筋です。菅官房長官の記者会見での発言は、日本国民として恥ずかしい限り。ところが昨今、この菅氏を賢人のごとく持ち上げる風潮が高まっていることにわたしは注目しています。
例えばどういう点でしょう?
ビジネス誌「プレジデント」(2019年10月4日号)の表紙をご覧ください。
まるで学者のようでしょう。これが安倍首相や麻生副首相では戯画になってしまいます。最近の菅氏は「令和おじさん」として若い世代にも人気があるようですが、「文藝春秋」9月特別号では、小泉進次郎氏と対談もしています。最新号の「プレイボーイ」誌(2019年10月14日号)は「安倍改造内閣の怪」という特集を組んでいますが、その中で「強大化する菅義偉の野望!」という見出しを付けています。昨今、菅氏の株は大いに上がっていると言えます。あるインターネットのサイトで、若い人が旭日旗問題を取り上げ、韓国をなじっていましたが、「菅官房長官も問題はないとおっしゃっています」と締めくくり、あたかもその言葉が歴史の審判であるかのごとく扱っていてびっくりしました。旭日旗問題に限らず、この頃菅官房長官の発言が不思議なほど威信と重みを増して、世論を誘導していることにわたしは警戒の念を強めています。
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