香港では「逃亡犯条例」改正をめぐる問題が深刻化し、今月9日には103万人の反対デモ、そして16日には200万人規模のデモ(いずれも主催者側である香港民主派団体の公表した数字)にまで膨れ上がったようですね。一体、香港はどういうことになっているのでしょう?
9日のデモでは、警察隊が催涙ガスやゴム弾を使用し、香港政府はこのデモを「組織的な暴動」と決めつけました。さらに中国本土の習近平指導部も香港のデモを「外国勢力と結託した暴動」と断定し、強制排除を支持したのです。これが香港市民の怒りと危機感を益々大きくしました。香港政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は今回の事態を招いたことを謝罪し、「逃亡犯条例」改正案の審議を無期限延期する旨発表しました。しかし市民は、この条例改正案自体の完全撤回と、林鄭長官の辞任を求めて、20日のデモに至ったのです。
この先、どうなるのでしょうか?
なんとも言えません。習近平指導部も林鄭長官の指導力のなさに苛立っているといいます。しかし彼女を辞任させ、より強硬で、より親中国政府的な人物がトップに立てば、市民の反発はいよいよ抑えがたくなるでしょう。とりあえず「逃亡犯条例」問題は棚上げし、香港の現政府と市民側が歩み寄るほかなさそうです。香港政府も、2014年の民主化デモ(通称「雨傘運動」)の逮捕者を、今回釈放しました。デモを鎮静化するため、できるだけの譲歩をする用意を見せています。
そういえば、台湾でも16日、香港のデモを支援する集会が開かれたそうですね。
はい。台湾の人々も中国本土政府の締め付けを恐れているのです。香港の次は自分たちがターゲットになるのにちがいない、というわけです。事実、今年1月2日、習近平国家主席は台湾政策に関する演説を行い、祖国統一を訴え、台湾が中国に統一された暁には、香港と同じ「一国二制度」を採用する旨明言しました。さらに統一にあたっては「武力の行使も放棄しない。あらゆる措置をとる可能性を残している」という恫喝的な言辞まで述べているのです。
これは台湾の防衛を義務としているアメリカ政府への挑戦でもありますね。
たしかにトランプ政権への対決姿勢の表れともとれますが、中国政府にも、もっと根本的な危機感があるのです。すなわちグローバル化とネット化社会の時代において、共産党の威信を維持し、一党体制を存続させることの困難さをよく承知しているのです。ですから習近平政権は、中国本土はもとより、香港や、その他の地域の西側の自由思想にかぶれそうな中国人同胞に対し、様々な圧力を加えています。
具体的な事例はありますか?
そのへんを語ることには困難があります。何か目立った処断が下されているわけではないからです。例えば1989年の天安門事件について中国国内で語ることはタブーとされています。しかし一般市民は指導部に強制されて語らないのだとは言いません。まったく記憶が風化しているか、自主規制しているのでしょう。中国共産党に批判的な本を扱っていた香港の書店関係者たちが相次いで失跡し、中国当局に拘束されるという事件も起きましたが、書店関係たちは当局に何をされたかについて口を閉ざし、店を畳んでしまった人もいるようです。この記事をご覧ください。
この頃は、日本国籍(日本人)の研究者も中国当局に対しておびえています。「もし自分がいま中国に行ったら、スパイ容疑か何かで帰って来られなくなる」と、冗談半分、本気半分で言っている中国研究者に東京で会ったこともあります。
それが本当だとすると、果して言論の自由を抑圧するだけで中国政府は持ちこたえることができるのでしょうか?
短期的(それがどのくらいの期間かは一概に言えませんが)には、成功するのでしょう。現に天安門事件から30年が経ち、中国はこうやって経済大国になりつつあります。しかし、言論の抑圧がそういつまでも続かないことは歴史が教えています。ましてネット時代です。国家が壁をつくり、国民を国家の言いなりにしておくことは物理的に無理でしょう。自由や民主主義や人権思想になじんでいる香港や台湾の人々を中国共産党政府が縛ることは不可能だと思います。よもや中国政府も香港で第二の天安門事件を起こすことはなかろうと信じています。
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