大学や高校に進学する際、親の所得が低いなどの事情がある場合に「奨学金」を利用する人は少なくありません。日本学生支援機構(JASSO)が平成30年3月に出した資料によると、大学生の2.7人に1人が「奨学金」を利用しています。「奨学金」とわざわざ鍵かっこをつけて書いているのは、返済義務がある「貸与型奨学金」を奨学金(scholarship)と呼ぶのは日本くらいのもので、これが他国であれば学生ローン(student loan)と呼ばれるものであるためです。
現在の日本では、「奨学金」を必要とする学生が利用するのは日本学生支援機構(JASSO)による貸与型奨学金です。日本学生支援機構(JASSO)はかつて「日本育英会」と呼ばれていました。カナリア倶楽部の読者の方には、こちらのほうがなじみがあるかもしれません。
さてその日本学生支援機構(JASSO)が、貸与型奨学金の仕組みを大きく変更することにしました。
日本学生支援機構の貸与型奨学金の仕組みが2020年春にも見直されることになりました。長期の延滞が増えて制度を圧迫しているため、奨学金を借りるすべての学生から、借入額に応じて一定額を保証料として徴収する方向です。https://t.co/f6yAaJJ6Vo
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) January 8, 2019
現在、学生が「奨学金」を借りる場合には、主に親が連帯保証人になり、親以外の親族が保証人になるという仕組みです。機関保証を選ぶこともできます。「奨学金」の返済に苦しむ元学生を支援している団体などでは、機関保証を選ぶように勧めていることもあります。ただ機関保証ですと保証料を支払わないといけません(「奨学金」支給時に天引きされる)ので、学生の負担が高まることは確かです。財務省と文部科学省は2020年にも、保証人制度をなくして機関保証に一本化する予定とのことです。
このことについて、ネット上では批判が起こっています。
返せないから返さない人がほとんどでしょう。AI時代の高等教育はハイリスクハイリターンです。国家維持のために高度情報化社会で価値を生む人を育成しなければならないなら、リスクは「国が」とりなさい。
奨学金、全員から保証料 延滞増加で財務・文科省方針:日本経済新聞 https://t.co/Muyypu9IFC
— 新井紀子/ Noriko Arai (@noricoco) January 10, 2019
https://t.co/yVk4ao497e
私も奨学金を借りていますが、返済金が増えるのが嫌で人的保証を選びました。私の借りている形態では保証料は毎月5629円にもなり、毎月のスマホ代よりも高くなります。全員に機関保証への加入を義務付けるならその分は国の負担でなければおかしいと思います(事務局K)。— 全国大学院生協議会 (@zeninkyo) January 11, 2019
日本学生支援機構の短期的な経営にしか目が向いていない。そもそも日本は教育への公的支出が低すぎる。安定的に奨学金を返済し続けられるような就労のあり方ではなくなってきているのだから、高等教育にできるだけお金がかからないようにしたり、給付型奨学金をもっと充実したりすればいいのに。 https://t.co/iXTG86RcBR
— 諏訪原 健 (@swa_swa_swatch) January 10, 2019
もはや公営教育ローンと改称すべきである。ホントに大学無償化か給付型奨学金制度を充実させるか、どちらかをやらないと若者にとっては地獄だよ…:奨学金、全員から保証料 延滞増加で財務・文科省方針: 日本経済新聞 https://t.co/Uyf76GQNAf
— 米谷 仁志 (@cometkobe) January 9, 2019
奨学金、全員から保証料 延滞増加で財務・文科省方針: 日本経済新聞https://t.co/K3DC4NUOQA#教育の公的負担対GDP 2017年度版
日本は114位です。 https://t.co/kjNt21nHqX— MASAKO (@megusurinokiko) January 12, 2019
実は私自身も「奨学金」を借りて高校から大学院まで行きました。また弟の「奨学金」の保証人にもなっています。その経験から言うと、人による保証は危険が高いのも事実かと思います。そもそも親に経済力がないから「奨学金」を借りるのです。子どもの卒業後の人生がうまくいかなかったからといって、親が返せるわけがないのです。また人による保証の場合、親子関係がもつれていたりする場合には、保証人を立てることができずに進学を断念するということも考えられます。そういう意味では、機関保証に全面的に反対とも言いにくいと思っています。
他方で冒頭でも書きましたが、「奨学金」が借金であり、下手をすると住宅ローンよりも高い利子がついてしまうこともあるという現状は、相当程度に日本独自のものです。そもそも日本は学費が高く、経済的に困難な学生への支援も乏しいです。また今回の決定は、「滞納が増えてJASSOが困っているからなんとかしよう」という視点しかなく、滞納せざるを得ない状況に陥らされてる若い人たちのことが考えられていません。大学教育を受けるための家計負担を減らしていく取り組みを全く進めないで、機関保証に一本化するということには、はやり違和感を持つところです。
返済困難が生じるのは、有利子の方が多い印象です。現在の制度では有利子の方が多くの額を借りられることも原因にあると思います。
いずれにせよ、有利子の増加で「学生ローン化」が、より強まったのが明確です。 https://t.co/lrXDvyJxQY— みやぎ奨学金問題ネットワーク (@shougakukin_net) January 12, 2019
何度も言うが,奨学金も結婚の妨げになっていると推測。https://t.co/pExnxqAf28
— 舞田敏彦 (@tmaita77) January 12, 2019
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。