21日に閣議決定された来年度の国家予算案によると、防衛費は5兆2574億円で、過去最高額。これで5年連続、最大を更新することになります。なぜ増額される必要があるのでしょうか?
予算案が閣議決定される3日前の18日、政府は「防衛計画の大綱」(通称「防衛大綱」)と、それの具体計画である2019~23年度「中期防衛力整備計画」(通称「中期防」)を閣議決定しました。この防衛大綱と中期防に基づいて、来年度の防衛予算が算出されたわけです。
すると、そこに増額の理由と具体的な使い道が記されているのですね。
はい。防衛大綱を見ますと、まず強調されているのが現代の急速な技術革新です。従来の陸・海・空に加え、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域が防衛対象となってくるため、高額の最先端技術を導入しなくてはなりません。さらにこれら新分野を含めた広範な領域における中国の軍事脅威、そして本質的に変わっていない北朝鮮の核・ミサイルの脅威が存在し、日米同盟を強化する必要が唱えられています。ロシアの名前は挙がっていませんが、領土交渉に配慮したためでしょう。しかし、米露は仮想敵国として核を含めた軍拡競争を展開していますので、日米同盟を強調する以上、日本は否応なくロシアも仮想敵とせざるを得ません。そのへんはロシアも承知で、近年プーチン大統領は日米軍事協力への警戒感をあらわにしています。
具体的にはどのような装備に予算を使うのですか?
中期防によりますと、護衛艦「いずも」の改修(事実上の空母化)、イージス・アショア2基、護衛艦10隻、潜水艦5隻、F35A戦闘機27機、F35B戦闘機18機等々です。無人潜水機や無人偵察機、「JASSM」や「LRASM」等の長距離ミサイル、マッハ5以上で飛行する「極超音速巡航ミサイル」、高出力レーザーを使った電子戦装備等の研究・開発・導入も進めるようです。この内、イージス・アショアやF35(A・B)はアメリカから購入することになります。今回の中期防ではF35は45機の購入が盛り込まれましたが、ゆくゆくは147機体制にする予定で、その総額は優に1兆円を超えると言われています。F35戦闘機1機で100億円を越します。
これではまるで貿易赤字解消のため、アメリカから買わされているようですね。
おっしゃるとおりです。この莫大な購入費用に関しては、安倍政権の幹部も「トランプ氏には常識が通用しない。これしかなかった」と語っているそうです。また防衛省幹部も「防衛予算はカード払いと同じだ。後になるほど苦しくなる」と漏らしたとか(『京都新聞』12月19日付朝刊、第3面「官邸主導、米配慮色濃く」より)。つまり政府自体も、この防衛予算の伸びには危機感を持っているのです。
トランプ氏のご機嫌をとるために、国民の血税を使うことを許していいのですか。こんな無駄をやめさせる方法はないのでしょうか?
そこが安全保障(軍事)問題の難しさです。まず、政府与党はこの防衛支出を「無駄」とは考えません。アメリカも、中国も、ロシアも、宇宙やサイバー空間の防衛のために莫大な予算を投入している以上、世界の趨勢に日本は乗り遅れるわけにいかない、との説に論駁するのが難しい。では野党はどうか。国会で野党が追及するにしろ、純軍事的論議は密教の教義のように込み入っていて、アメリカの戦闘機などいらないとする根拠を示すのが難しく、では、さらに莫大な予算をかけて国産化を進めるのかという議論に発展しかねません。また、膨大な支出があるところには必ず受益者がいます。昔から軍産複合体と言われるように、防衛支出が回りまわって経済利潤を生むメカニズムを否定することはできません。軍事は容易にビジネスに転化します。それが資本主義の宿命です。
先生、そんな他人事みたいな言い方はやめてください。
はい。防衛予算一つをとっても世の中がよくない方向に進んでいると感じています。しかし、過去5年、防衛予算が毎年最大額を更新し続けてきたのに、今までだれもとめられなかった。米中露を始めとする大国も軍事技術の刷新に力を傾注している。結局、人間は行くところまで行かないと済まない生き物なのかと諦観しそうになりますけれど、年も改まることですし、もっと希望を強く持たないといけませんね。持つだけでなく、それと実践をどう結び付けるか。私の課題であり、カナリア倶楽部に集う皆の課題でしょう。
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