この記事は7月末にupしようと思っていたのですが、8月に入って大阪市長の学力テストへの反応のニュースがあったので持ち越しになりました。下書きを読み返して、やはり大事な問題なので今回、若干追記した上で紹介をさせていただきます。
7月26日木曜日に文部科学省とスポーツ庁から出された通知で、大学界に激震(というより呆れか?)が走っている様子です。
【五輪中は授業避けて ボラ促す】スポーツ庁と文科省は東京五輪・パラリンピックの期間中にボランティアに参加しやすいように大学などに授業を繰り上げるなど柔軟な対応を求めた。ボランティアは約8万人が必要とされる。 https://t.co/Y0fCotmtdH
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) July 26, 2018
オリンピックに必要なボランティアの数は8万人とも言われます。その数を確保するべく、全国の大学と高等専門学校にオリンピック期間に授業や試験を行わないようにしてほしいという通知が出ました。東京五輪が開催される時期は通常、前期試験の直前の授業や試験期間に相当します。
なぜこの通知が「激震」になるかと言うと、現在の大学は原則として、1学期あたり15週間の授業と(授業期間とは別に)試験期間を置くように非常に強い指導を受けているからです。また休講があった場合は補講をしないといけませんので、「15週の授業期間+補講期間+試験期間」が必要で、前期であればお盆頃まで補講や試験があったりします。祝日が重なった曜日はどんどん後ろに伸びることもあり、多くの大学は祝日も講義を行っています。祝日にも平日と同様に通学する大学生の姿を見かけるのはこのためです。
「大学の授業なんてお気楽なもの」「4月と7月は休講だったよね~」なんて言う方もいらっしゃいますが、そんな時代は20年ほど前に終わっています。
授業時間をしっかりと確保すること自体は、学生にしっかりと学んでもらうために必要なことで、文科省これまでの指導が間違いとは言い切れないかと思います。他方で、あまりにも杓子定規すぎるのではないかという見解は、大学教育の現場にはあります。それなのに、オリンピック期間は授業や試験をしないでほしいとは!
文科は、大学に授業回数15回守らせシラバス出させて縛り付けておいて、同じ口で「五輪のために授業避けろ」だと?お前らのいう大学の授業ってその程度か?ボランティアは自発的に行くんだ。大学休みっておかしいだろ(怒
>東京五輪 「授業避けて」国通知、ボランティア促すhttps://t.co/C3iHMhI8FV— 日比嘉高 (@yshibi) July 27, 2018
ちなみにオリンピック期間を休校にする場合は、休日にも授業をするなどすることになります。授業時間数を減らしてよいわけではありません。
そもそもオリンピックをボランティアで運営しようという姿勢を問題視する声も多くあります。
そもそも現代の五輪は営利目的の巨大ビジネスなのに、どうしてボランティアを募るのかがわからない。グーグルやアマゾンがボランティア募集するようなものではないか。しかもそのために国が通知を出すっておかしすぎる。 https://t.co/p6FGmaY1ne
— 想田和弘 (@KazuhiroSoda) July 27, 2018
「学徒動員」ではないかという声もいくつもありますが、かわいらしいマンガのついているものを貼り付けます。
東京五輪・パラ「授業避けて」国通知、ボランティア促すhttps://t.co/NCO5kBsLw2
学徒動員・勤労奉仕…なんて言葉が浮かんだよ。
流石に学生に授業や試験よりボランティアが大事だなんておかしくね? pic.twitter.com/OlJeRI3mrs— キノシタ (@kinoshita160620) July 27, 2018
さらにはこんな懸念も。
オリンピックボランティアの学生動員についてつらつらと考えてるんだけど、一番闇が深そうなのは学部四年生に対して企業、特に協賛企業が内定とセットで研修と称して動員かけるパターンかな。
— nasastar (@nasastar) July 28, 2018
そして「学生がもっとも社会貢献できる活動は勉強なんだ」という声も。
◆東京五輪で国が求めること
①お国のためのボランティア
②朝早い通勤の自粛
③暑さに打ち勝つ打ち水
④学徒動員
⑤そのための教育放棄(←new!…慈善活動団体の代表としてハッキリ言うけど、学生が最も社会貢献できる活動は勉強なんだよ。
若者が学ばんと国は滅びるんだ。https://t.co/WJxgoQ0Z0m— どーも僕です。(どもぼく) (@domoboku) July 26, 2018
通知から1か月が経ちました。反応についてNHKがニュースにしています。大学の対応は様々である一方、学生には戸惑いもあるそうです。
NHKのニュースでも紹介されている、松本海月さんによる風刺サイトはこちらです。
また、東京五輪にボランティア参加したことを単位認定することを検討している大学も少なくないようですが、大学教育の本質をゆがめるという懸念も示されています。
個人的に東京五輪の開催、しかも7月末からの開催には賛同いたしかねる思いを持っていますが、「ボランティアに行きたい!」という学生が私の授業の受講生にいれば、個別になんらかの対応するのは吝かではありません(レポートで試験をするので融通を利かせやすいとうい事情もある)。他方で、大学の授業をやめてしまうというのは、とっても変だと思っているところです。
なお、都内の大学では通知に従うことを決めたところもあるようです。そういう大学のサイトを見ると、「交通機関が通常通りに機能しないおそれ」という文言も入っていることがあるので、そういう事情もあるのか…とは思っています。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。