桜も満開だというのに、こう雨ばかりでは残念ですね。何とか一句でも納得のゆく桜の句を詠みたいものと思っております。
△啓蟄や家を飛び出すジョグランナー 作好
【評】ジョグランナーという以上、毎日ジョギングをしている人ですね。とすると、啓蟄とは関係がないように思います。「家を飛び出す」も今一つ実景が見えてきませんでした。たとえば一戸建ての家なら、門を出てから走り出すのでは?
△山のカフェ琴の響きや「春の海」 作好
【評】切れ字「や」は文章でいえば「マル(。)」に相当します。その前後で文は切れます。しかし「春の海」はカッコ付ですから琴の曲名ですね。つまり「琴の響き」と「春の海」はつながっているので、切れ字「や」で切ってはいけません。「山のカフェ琴の奏でる『春の海』」くらいでいかがでしょう。
○寒明やモツカの香る朝の卓 美春
【評】「モツカ」ではなく「モッカ」ですね。モッカ・コーヒーの省略でしょうか。寒が明けていよいよ春の到来。モッカ・コーヒーがその気分を高めてくれるのでしょう。
△くうくうと声で追合ふ日永かな 美春
【評】鳩のことかと想像しますが、「声で追合ふ」という表現に難を感じました。「くうくうと鳩追ひ合へる日永かな」としておきます。
○庭の隅名残り侘助散り果てぬ 白き花
【評】最後の一輪も散ってしまったのですね。「庭の隅」を取って、「侘助の最後の一花落ちにけり」と花をクローズアップする方法もありそうです。
○ティーシャツと帽子を連れて春は来む 白き花
【評】童話のような心楽しくなる句です。「来む」は「来るだろう」という推量表現ですが、「来た」と断定してはいかがでしょう。「テーシャツと帽子を連れて春来たり」。
○さくら時足踏ん張つて足助織 瞳
【評】少しネットで調べてみましたが、足助織を体験させてくれる施設があるようですね。「足踏ん張つて」に力がみなぎっています。上五に切れ字を使い、「花どきや」とする手もあります。
△背丈伸ぶ十三詣りかな 瞳
【評】字足らずですが、「背丈伸ぶ」のあとに言葉を入れ忘れたのかもしれませんね。とりあえず「背の伸びし子らと十三詣かな」としておきます。
○ほろ酔ひて肩組み合へり春北斗 妙好
【評】職場の同僚でしょうか。美しい夜空も見えてきます。俳句では「ほろ酔ふ」と動詞形でよく使われていますが、正確には「ほろ酔ひ」という名詞しか存在しません。「ほろ酔ひの男肩組み春北斗」とするのも一法でしょう。
○~◎出郷の荷物小さし花明り 妙好
【評】「出郷」は春を連想させますね。「荷物小さし」にドラマ性を感じます。もしかするともっとよい季語が見つかりそうな気もしました。
◎校門に守衛佇む夕桜 徒歩
【評】たしかに校門あたりに守衛さんがいますね。もう生徒たちを帰したあとでしょうか。「佇む」が季語とよく合っているように感じました。
◎白河の関はもうそこ木の芽風 徒歩
【評】白川の関といえば奥の細道を旅した芭蕉がただちに連想されます。芭蕉の足跡を辿ろうと旅に出たのですね。快活な心が季語からうかがわれます。
○遠足の声を満たして列車発つ 実花
【評】列車での遠足旅行。浮き浮きとした気持ちがよく伝わってきます。このままでも結構ですが、別案として「歓声をこぼし遠足列車発つ」も挙げておきます。
○菜の花の岸に自転車来て止まる 実花
【評】このままでも写生句としてきちんと出来ていますが、作者自身が自転車を止めたのであれば「菜の花の岸に自転車止めにけり」となるでしょうか。
○葱畑の青く遥かに妙義山 万亀子
【評】この句は「青く遙かに」と続けて読んではいけないのでしょうね。「青く」は葱畑の形容、「遙かに」は妙義山のことと受け止めました。とすれば、切れをはっきりさせ、「葱畑の青さ遙かに妙義山」としてもいいかもしれませんね。
△~○堰越へて白波たてて春の川 万亀子
【評】動詞「越ゆ」の連用形は「越へ」ではなく「越え」です。「堰越えて白波たつる春の川」としておきます。
△~○曲水に無音の調べ牡丹雪 智代
【評】「上賀茂神社」と前書がありますので、賀茂曲水宴のことですね。「曲水」は春の季語、「牡丹雪」も春の季語で季重なりです。とりあえず「曲水の宴へしづかに雪舞へり」としておきます。
△青き踏むふいに水音鷺立ちぬ 智代
【評】上五で切れ、中七でも切れているので三段切れの句になっています。語順を入れ替え「水音のして鷺立つや青き踏む」としてみました。
△春落葉近くで鳴れり笛の音 欅坂
【評】「鳴れり」が春落葉のことなのか笛のことなのか、曖昧です。「笛の音が近くでしたり春落葉」としておきます。
△~○花曇り「植うる剣の」二胡を聴く 欅坂
【評】カッコの中に「の」まで入れていいのでしょうか。語法上は「の」をカッコから出したほうがよいので、「花曇り『植うる剣』の二胡聴けり」としておきます。
△~○菜の花に風と柴犬水流れ 永河
【評】「菜の花」「風」「柴犬」「水」と句材が多すぎで、やや煩瑣な句になっている気がします。「菜の花を風と柴犬駆け抜くる」「柴犬と風駆けゆける花菜かな」など、ご再考ください。
○川音へ傾れゆくなり花万朶 永河
【評】おおむね結構と思いますが、「川音の方へなだれて花万朶」としてみたくなりました。
○春法要みがく仏具の金ぴかに 織美
【評】これでも結構ですが、明確な切れを入れて「金ぴかに磨く仏具や春法要」とすればさらに張りのある句になりそうです。
○児等帰り何と静かや飛花落花 織美
【評】「春休みの児等帰る」と前書があります。実感がこもった句ですね。このままで十分結構ですが、もう少し抑えた表現を用いるなら「児等去りてよりの静けさ飛花落花」となるでしょうか。
○膝ついて貝母覗けり古寺の庭 春子
【評】きちんと客観写生した句です。このままでもできてはいるのですが、さらにハードルを上げて申しますと、「膝ついて」「覗けり」と自分自身のことを写生する必要はありません。膝をついて覗いた結果、貝母の中に何が見えたのか、そこを描写してこそ本物の俳句になると思います。
○閏日や先生の傘裏返る 春子
【評】今年の2月29日は暴風雨だったのですね。どれだけ季語が効いているのかわかりませんが、ユニークな句です。
○雛の顔優しく撫でて箱の中 千代
【評】優しく撫でて箱の中へ納めたということですね。であれば「雛の顔優しく撫でて納めけり」としたほうが句意がはっきりするように思います。
△子ら笑顔色とりどりのランドセル 千代
【評】笑顔は正面から、ランドセルは背後から見た景。作者の視点はどこにあるのでしょう。それから「ランドセル」は季語ではありません(子は年中背負っていますし)。ネットには季語だと主張している人もいますが、最新の『角川俳句大歳時記』には掲載されていませんので、俳壇的には季語として認められていないと考えたほうがいいでしょう。季語が難しいところですが、とりあえず「山笑ふ色とりどりのランドセル」としておきます。
△~○浄蓮の滝の轟音響きけり 翠
【評】句形としてはしっかりできています。ただ浄蓮の滝が轟音を響かせていることは、見たことのある人は誰でも知っており、新味はありません。作者ならではの新しい発見がほしいところです。俳句は発見の詩です。
△~○わさび田の水透き通る伊豆の奥 翠
【評】吟行句としてはまずまずでしょう。ただし山葵田の水が透き通っているのは自明です。透き通った水を凝視して、その先に見えてくるものを句にしてほしいと思います。
次回は4月30日(火)の掲載となります。前日29日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
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