「カナリア俳壇」98

あちこちで春の草木が花を開き、いよいよ春本番を感じさせる今日この頃です。桜の開花も待ち遠しいですね。作句意欲も一段と高まります。

○五平餅ここで売れ切れ春の暮れ     作好
【評】「ここで」売り切れとは、ぎりぎりで買えたのか、買えなかったのか、少々曖昧です。おそらく後者でしょう。「春の暮はや売り切れの五平餅」でどうでしょう。

◎春の日や鍬をかつぐも久しぶり     作好
【評】句形もよく、大らかな詠みぶりでたいへん結構です。

△~○畔地蔵見ゆるかぎりに春兆す     美春
【評】「春兆す」は視覚だけでなく、肌寒さなどの皮膚感覚、その他の感覚を通じて受ける印象です。この句は「見ゆる」とありますから、目に見える季語にしたほうがいいでしょう。「畦地蔵」も表現としてやや窮屈でしょうか。別の句になってしまいますが「春光のあまねき畦の地蔵尊」など。

○猫柳小川の端に膨らめり     美春
【評】情景も浮かびますし、すなおな作り方でけっこうです。もう少し猫柳に近づき、具体描写をするならば「猫柳小川の端にふつくらと」とする手もありそうです。

○ひとひらの花を句帳にそつと入れ     瞳
【評】趣のある句ですが、下五を川柳風に連用形にした点が気になります。とりあえず「ひとひらの花そつと入れ句帳閉づ」としておきます。

○料峭や着付け教室去る仲間     瞳
【評】けっこうです。別案として「友去りし着付け教室春寒し」という形も考えてみました。ご参考にしてください。

○ライブ果てドームにかかる春の月     翠
【評】うるわしい「春の月」にライブコンサートの充実感がうかがわれます。俳句ではカタカナ語は一つにとどめたほうがよいという考え方があり、わたしも従っていますが、この句の場合は「ライブ」も「ドーム」も和語や漢語への置き換え不能ですので、このままでけっこうでしょう。

○~◎リズムよくステップ踏む子うららけし     翠
【評】気持ちを和ませてくれるすてきな句です。この句も2つのカタカナ語が気になりません。このまま残してくださってけっこうと思います。

○~◎ふらここに声も毛先もふわと揺れ     みさを
【評】感覚的な句でたいへんけっこうです。切れを入れ、「ふらここや声も毛先もふはと揺れ」でどうでしょう。

△霾やサドルにハートの駐輪場     みさを
【評】中七と下五が字余りですし、「ハートの駐輪場」も表現として不自然です。とりあえず「霾やサドルにハート描きたる」としておきます。

○灯の薄き雨の裏店大石忌     徒歩
【評】風情のある景で、季語もおもしろい句です。「灯の薄き」だけやや違和感をもちました。一案として「昼灯す雨の裏店大石忌」と考えてみました。

◎霾や日記に太き殴り書     徒歩
【評】思い切り季語を離した大胆な取り合せの句。これくらいの冒険をしてみたいですね。「太き殴り書」に想像がふくらみます。

○モネ展へ列ながながと蝶の昼     実花
【評】おおむねけっこうですが、「ながながと」にうんざりした気持ちが感じ取れます。俳句はプラス思考でゆきたいので、その部分のみ一工夫してほしい気がします。いろいろなやり方がありますが、一例として「モネ展へ列まつすぐに蝶の昼」など。

○春の傘無音のままに濡れてをり     実花
【評】「春の日傘」という季語はありますが、「春の傘」という季語はありません。「春の雨無音のままに傘濡らす」など工夫してみてください。

○日脚伸ぶ光の中へ赤子這ふ     妙好
【評】これは瞬間を切り取った句ですので、この季語は合わないように感じます。「春光のなかへ赤ん坊這ひ出せり」など、もう一工夫できそうです。

△~○佐保姫のおでまし祝ふ二頭馬車     妙好
【評】「おでまし祝ふ」では砕け過ぎで、滑稽句になってしまいます。やはり詩情がほしいところです。あくまで一例ですが「佐保姫を乗せ発たむとす二頭馬車」など。

○木蓮の蕾に座す(います)二寸仏(にすんぶつ)    白き花
【評】おそらく花が開く直前の木蓮の蕾に仏性を感じられたのでしょう。もうすこしシンプルにしたほうが読者には伝わりやすいように思います。たとえば「木蓮の蕾に仏ゐるやうな」くらいに単純化してはいかがでしょう。

◎花と本かかえて帰る春の宵     白き花
【評】ロマンチックですてきな句です。「かかへて」と表記しましょう。

◎北国の宿の吹き抜けつるし雛     万亀子
【評】吹き抜け梁がある古民家風の宿なのでしょう。いかにも北国らしい情景です。つるし雛の素朴な味わいもいいですね。

○春灯平和の祈り載せ空へ     万亀子
【評】自解によれば、新潟・津南のスカイランタンを見に行かれたとのこと。わたしもネット検索しましたが、この壮観を17音で伝えるのは不可能と思います。前書を付けたほうがいいでしょう。そのうえで「春の灯に平和の祈り載せ空へ」とされてはいかがでしょう。

○春リ一グ孫の活躍頂きに     千代
【評】「優勝」と前書があります。少年野球で優勝したのですね。おめでとうございます。「シンプル・イズ・ベスト」ということで、「春リーグ孫頂点に立ちにけり」くらいでどうでしょう。これで優勝したことは十分に伝わると思います。

△~○伊勢参り春の良き日のバスの旅     千代
【評】「伊勢参」は春の季語ですので、「春の」は不要です。「伊勢参青空のもとバスの旅」など、もうすこし推敲してみてください。

○菜の花のゆらぎに人も共鳴す 永河
【評】類例のない、独特な感性の句ですね。「共鳴す」の硬質さが面白いとも言えますし、やや観念的とも思われます。このへんは読者によって評価が分かれるところですね。ご参考までに「菜の花も人も挙りてゆらぎ出す」と考えてみました。

○頬寄する花芽冷たき固さかな 永河
【評】「頬寄する」が実際に頬を寄せてみたのか、それとも花芽同士の様子を擬人化して述べたのか、読み切れませんでした。前者なら「頬に触れ」とするのも一法でしょうか。「まだ固き花芽冷たし頬に触れ」など。

○~◎傷痕にそつと掌花の冷     智代
【評】作者の細やかな感性が伝わってくる句です。「傷痕に掌そつと花の冷」とどちらがいいでしょう。

◎やはらかき入日に浮かぶ花の影     智代
【評】一幅の絵を見るようなやさしい情感の句です。

○菜の花の風に煽られ波となす     チヅ
【評】なかなかスケールの大きな句ですが、「風に煽られ」が説明調です。「菜の花の大波小波風のなか」など、いろいろ工夫できそうな気がします。

○児が走り椿の裏にかくれんぼ     チヅ
【評】「児が走り」と言う必要があるかどうか。可愛らしく作るなら、たとえば「女の子椿の裏にかくれんぼ」とする方法もあります。

△花の雨開花を待ちて数えけり     欅坂
【評】「花の雨」だとすでに花は咲いています。そのへんの事情を踏まえて作り直すとすれば「花の雨残りの蕾数へけり」でしょうか。

△~○行く春や孫の手を引き往復す     欅坂
【評】どこを往復したのでしょう。また、「手を引き」だと嫌がる児を無理に引っ張っている感じもします。「行く春や児と手をつなぎ菜園へ」など、具体描写を心がけてください。

△昼近くひよどり声や春を呼ぶ     久美
【評】まず「ひよどり(鵯)」は秋の季語です。これに異を唱えても、俳句の約束事ですのでしかたありません。季語として使っていないと意思表示するためには、先に春の季語を置きましょう。それなら読者も秋の句だと早合点しないですみます。「春寒し薄ら日のなか鵯鳴けり」と考えてみました。この場合「鵯」は「ひよ」と読みます。

△雪舞ひて芽吹く新芽のあじさいや     久美
【評】「雪」も「芽吹く」も「あぢさゐの新芽」も季語です。「あぢさゐの芽吹き確かに雪のなか」としておきます。これなら「芽吹き」が主季語で春の句だとわかります。

△~○芽柳や足湯に開く志賀直哉     春子
【評】自注によれば、志賀直哉の『城崎にて』を読んだとのこと。「足湯に開く志賀直哉」では一読したときぴんと来ないかもしれません。「足湯して読む志賀直哉柳の芽」のほうがわかりやすいかと思います。

◎炙りたる手の平ほどの干鰈     春子
【評】素朴な味わいの句でけっこうです。炙った干鰈もうまそうです。

◎児とつくる団子はねんど春炬燵     織美
【評】和やかな春先の情景です。漢字が重ならないように「ねんど」と平仮名にした工夫もけっこうです。

△~○春嵐帽子押へて歩道橋     織美
【評】とりあえず出来ていますが、強風が吹いたので帽子を押さえたというだけでは日常感覚どまり。詩としての意外性(ときめき)がほしいところですね。「春嵐」と「帽子」の取り合せで佳句を得るのは至難のわざかもしれません。

次回は4月9日(火)の掲載となります。前日8日の午後6時までにご投句いただければ幸いです。河原地英武


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30