現在の日本では、未成年の子どもの両親が婚姻関係にある場合は共同で親権を持ち(共同親権)、離婚や未婚の場合は父母のどちらか一方が親権を持つ(単独親権)ようになっています。この制度を変更して、離婚後または未婚の両親が共同で親権を持つようにするという法案が、今国会に提出される見込みです。法案の作成までには様々な議論があり、「共同親権が原則」という案から、「共同親権も可能」という案まであったと理解しています。結局、今国会に提出される見込みの案は、「父母が合意できない場合には裁判所が強制的に共同親権と決める」という内容になりました。つまり、非同意・強制型共同親権です。また法制審議会は全会一致が原則なのですが、今回は反対する委員もいる中で、強引に「まとめた」法案となりました。
要綱に賛成した委員の一人が「共同親権が望ましい場合と単独親権の方がよい場合の基準や運用について十分な議論ができなかった」と言っている。そんな大事な議論をせずに、なぜ賛成できたのか?
「共同親権」導入 法務省は民法などの改正案を今国会提出方針 | NHK https://t.co/R0hlIDC0Av
— 木村草太 (@SotaKimura) January 30, 2024
「夫婦は離婚しても、親子はずっと親子だ」という言葉をよく聞きます。それは間違いではないと思います。しかし、「だから共同親権だ」というのは、論理に飛躍があります。親権を持たなくなった親でも、子どもと交流することはできますし(面会交流)、養育費を支払う義務もあります。親権がないから親子関係が断絶するわけではありません。
あと、よくある誤解として、「共同親権は、どちらか一方でも決定できる制度」=「どちらか合理的な方が、子どもの思いをかなえられる制度」だと誤解している人が多いです。
法的には「父母双方の署名がないと、何も決められない制度」=「どちらかが不合理だと、子どもが困る制度」です。 https://t.co/ypcL9iV9j1— 木村草太 (@SotaKimura) February 7, 2024
婚姻関係がなくなった場合の、未成年の子どもの親権・共同親権の問題に関する議論で私が気になるのは、「権利主体としての子ども」という意識が薄い気がすることです。
授業で学生にアンケートを取ったこともあるのですが、日本の社会では子どもの権利のうち、「子どもを大事に保護する」という側面についての理解と比べると、「子どもが自分の意見を表明する」、「子どもが自分で選択する」といった、「自立した個人としての子どもの意見等を尊重する」という事柄に関する理解は低い傾向があります。さらに難しいのは、子どもは自分の意見を表現する能力が不十分なため、仮にその子が「~したい」と言ったとしても、それが本心かどうかがわかりづらい場合もあります。子どもの意見を聞きとって関係者に伝える(アドボケイトといいます)専門家もいますが、日本ではその人数も十分ではありません(アドボケーターに限らず、教育や保育の場で子どもたちのために働く大人・専門職の人数が少なすぎることは周知のことかと思います)。
このような中で、両親が同意しない場合に裁判所が強制的に共同親権を命令することになった場合に何が起きるのか、非常に心配です。
憲法学者の木村草太さんのコメントがわかりやすかったので、紹介しておきます。
2024年1月30日 離婚後の非合意・強制型の共同親権を導入する要綱への私のコメントです。https://t.co/OtS6YscugI
— 木村草太 (@SotaKimura) January 31, 2024
共同親権に慎重な、自民党も含めた超党派の議員の会合もありました。
離婚後共同親権に慎重な立場の超党派議員による、初めての会合。#STOP共同親権#共同親権を廃案に
「共同親権」慎重論相次ぐ 超党派議員が初会合(時事通信) – Yahoo!ニュース https://t.co/lWGoDQii6r— haru (@haruandofuton) February 9, 2024
次回記事でも引き続き、子どもの権利からこの問題を考えたいと思います。
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