米国によるウクライナ支援が行き詰まる中で、日本政府はウクライナに総額45億ドル(約6500億円)の追加支援をすると表明しましたが(昨年12月19日のG7財務相・中央銀行総裁会議)、今度は迎撃ミサイル「パトリオット」を米国に輸出することを決め、間接的にウクライナを軍事支援することになったと聞きました。それに対し、ロシア外務省が厳しく批判しています。一体どういうことなのでしょう?
日本は米国企業ロッキード・マーチンやRTXが開発し特許を持っているパトリオット・ミサイル(PAC2とPAC3)を、ライセンス契約により自国で生産していますが(生産を請け負っているのは三菱重工)、このミサイルを米国へいわば逆輸出することに決めました。
米国は今までウクライナにパトリオット・ミサイルを提供してきましたが、その在庫が大幅に減ってきたため、日本に対し、提供を求めてきたのです。その求めに応じ、日本政府は自衛隊が保有するパトリオットを米国に販売することにしたというわけです。
ただし日本は国是として、紛争当事国に武器を提供しないことになっていますから、この日本製パトリオットがウクライナ戦争に用いられることはありません。ウクライナ戦争で使われるのはあくまで米国製のミサイルであって、日本が提供する分は、米国の在庫を補充するために用いられることになっています。
とはいえ、それがウクライナへの間接的な支援であることは間違いありませんし、日本のパトリオットが決してウクライナに回されないという確たる保証があるかといえば、グレーな部分があることは否めません。ロシア政府はその点を突いているのです。
武器に関しては、日本のウクライナ支援はいろいろ複雑な手順を踏まなくてはならないのですね。これにはどのような背景事情があるのですか?
日本は国際紛争を助長してはならないとの立場から、武器輸出3原則を設け、長らく外国への武器輸出を自らに禁じてきました。安倍政権時の2014年、この武器輸出3原則に代わり「防衛装備移転3原則」を定め、救難、輸送、警戒、監視、掃海の5分野に限って輸出を解禁することになりました。ただし、殺傷能力のある武器に関しては事実上輸出できませんでしたし、「ライセンス生産品」のライセンス元への輸出も米国に限られていました(しかも完成品ではなくあくまで部品という形に限って)。しかし、一つには米国による要請に応えるため、もう一つには日本の防衛産業を立て直すために、昨年4月以来、自民公明両党による防衛装備移転3原則見直しのための協議が行われてきました。その結果、12月22日に政府は、制定以来約10年ぶりに、防衛装備移転3原則とその運用指針を改定したのです。この改定の経緯については、官房長官記者会見(2023年12月23日)で説明されています。
新聞報道によりますと、これからは米国に限らず、ライセンス契約がある国すべてに殺傷能力がある武器の完成品が輸出できるようになるようですね。その第一弾が米国へのパトリオット・ミサイル輸出なのだとか。日本はパトリオットを始め、約80の武器のライセンス生産を行っており、ライセンス提供国は英国やドイツ等7ヵ国とのこと。また、ライセンス品以外の武器についても、殺傷能力がなければ、ウクライナ以外の国に提供できるようになるそうです。他方、他国と共同で開発した防衛装備に関しては、日本からそれらの国以外の第三国へ輸出することができるかどうかの議論は先送りされた由です(『日経新聞』『朝日新聞』2023年12月23日)。この改定のメリットは何なのでしょう?
日米同盟が軍事面でさらに強化されたといえるでしょう。さらに英国やドイツなどへの武器輸出が可能になることで、NATOと日本が軍事的連携を強めることになります。日本は中国、ロシア、北朝鮮と軍事的に対峙していますが、日本が欧米に武器を提供することになれば、いざというとき(すなわち日本有事の際)には、これら諸国から武器支援を得られるはずです。しかし、先程見たようなロシアの反応からすれば、武器を介しての日本と欧米の関係の緊密化は、かえって敵対国の反発を強める結果にもなりかねません。
今回の改定によって武器輸出の拡大、さらに武器の国際共同開発が一段と進むことになれば、日本の防衛産業の育成にもつながるものと予想されます。
しかし、それが日本にとって本当にメリットとなるのですか?
日本が掲げてきた「平和国家」という理念が問われているのだと思います。この理念を手放すことは戦後日本の総否定となるでしょう。それをメリットと考える国民はいないはずです。
防衛装備移転3原則の改定に関して『讀賣新聞』の「社説」(12月24日)は「防衛装備品の輸出拡大を通じて、国際秩序の維持に貢献していく意義は大きい。平和国家の理念と矛盾しない形で移転を進めていきたい」と述べています。同日の『朝日新聞』「社説」は、「平和国家の根幹として維持してきた武器輸出への厳しい自制を、国民的議論もないまま、なし崩しに転換することは許されない。……武器輸出の緩和は、国の大方針の見直しであるにもかかわらず、与党の少人数の実務者による『密室』協議で事実上決められている。国会をはじめ、開かれた場での議論はないままだ。これでは幅広い国民の合意は得られない」と記しています。
いま武器輸出緩和の是非以上に問われているのは、日本の民主主義国家としてのあり方そのものなのかもしれません。
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