かわらじ先生の国際講座~「宇宙作戦」に乗り出す自衛隊

No Picture北朝鮮は11月21日夜、軍事偵察衛星の打ち上げに成功しました。このときはわが国政府がJアラートを発出し、沖縄県民への避難を呼びかけましたが、テレビ各局が全国を対象として一斉にこのJアラートを流したため、何か騒然たる雰囲気を醸したと記憶しています。
すると今度は韓国が、12月2日、同国初となる軍事偵察衛星を打ち上げて成功させたと報じられました。しかしこのときは、わが国における報道も淡々としたものだったように思います。この報道の違いは一体何なのでしょうか?

北朝鮮の場合は第一に、同国に対し弾道ミサイル技術の使用を禁ずるという国連安保理決議に違反したこと、第二に、打ち上げられた衛星が沖縄上空を通過し危険物が落下する可能性もあったこと、第三に、衛星打ち上げの成功は、北朝鮮が中露の情報に頼らずに単独で正確に核ミサイルを標的へ撃ち込めるようになったことを意味し、日本への脅威が一段と高まったと見なせるためです。他方、韓国の場合は、米国カリフォルニア州の宇宙基地から、米宇宙企業スペースX社のファルコン9ロケットに載せて打ち上げられましたので、日本への影響はありませんでした。また、そもそも韓国は核保有国ではありませんので、わが国に対する脅威とはなり得ません。

No Pictureですが、韓国が自らの軍事偵察衛星をもつに至ったということは、韓国独自の軍事戦略を模索している表れだとは言えませんか?

韓国は今まで北朝鮮に関する軍事情報の多くを米国に頼ってきました。それゆえ、隣国北朝鮮に対する自国の監視体制を強め、情報収集能力を高めることは一貫した念願だったのです。そして韓国が自助に力を入れることは、米国にとっても負担軽減になりますし、情報共有という形で、より細やかな目配りができるようになるでしょう。今回、韓国が米国で衛星を打ち上げたことでも明らかなとおり、韓国と米国の協力体制がぐらつくわけではありません。むしろ米国としては韓国がより多くの負担を引き受けるようになったと見ているのではないでしょうか。

No Picture北朝鮮や韓国が自前の軍事偵察衛星をもったのに、わが国にそれがないというのは後れをとったことになりませんか?

日本にも、軍事偵察衛星とは謳っていませんが、事実上の偵察衛星はあります。開発の出発点は1998年に遡ります。同年8月、北朝鮮がテポドン・ミサイルを発射したことに危機感を強めた日本政府は、その年の12月、「情報収集衛星」の開発を閣議決定したのです。しかし日本は、「宇宙利用は平和目的に限る」とした1969年の衆議院決議によって、民間衛星を超える水準の衛星をもつことは禁じられていました。2008年8月、「宇宙基本法」が施行され、衛星の防衛利用が解禁されました。そして偵察精度を高めることが法的にも可能となったのです(『讀賣新聞』2013年1月28日)。
従来、宇宙開発は文部省の管轄下にありましたが、「宇宙基本法」によって、宇宙開発を統括するのは内閣内の宇宙開発戦略本部の役目となり、その部長は総理大臣が務めることになりました。宇宙開発戦略本部は「宇宙基本計画」を策定し、情報収集衛星の打ち上げプランもそこに盛り込まれています。
今年の6月13日、宇宙開発戦略本部会議が開かれ、冒頭に岸田首相が宇宙開発のプランを述べていますが、だいぶ安全保障面に傾斜していることが見て取れます。

わが国の情報収集衛星がどれほどの性能を有するのかについては、特定秘密保護法(2014年施行)に基づき、多くが明らかにされていません。それでも、次のNHKのサイトによって概要を知ることはできます。

ちなみに現在、わが国は情報収集衛星を5基運行させていますが、2029年度には9基体制にするとのことです(『日経新聞』2023年11月7日)。

No Picture日本も宇宙における軍事競争に参入せざるを得ないということでしょうか?

宇宙をめぐる覇権競争のなかで日本の防衛のあり方が見直されているのはたしかです。2020年5月、航空自衛隊に「宇宙作戦隊」が創設されました。2022年3月には、この「宇宙作戦隊」を配下に置く上部組織「宇宙作戦群」が発足しました。現在、この「宇宙作戦群」のもとで、「第1宇宙作戦隊」と「第2宇宙作戦隊」が活動している模様です(『朝日新聞』2023年6月8日)。

No Picture「宇宙作戦群」とは仰々しい名称ですが、どんな活動を行うのでしょう?

3月18日の発足式で、鬼木防衛副大臣は「陸海空に加え、宇宙を始めとする新たな領域での日本の優位性を確保することが重要だ」と訓示しました(『讀賣新聞』2022年3月19日)。まずは70人体制でスタートし、宇宙ゴミや他国の衛星の監視を主任務としますが、今後は地上配備型レーダーや人工衛星を運用して、「宇宙状況監視」を強化、要員も120名に拡充し、米軍やJAXAや民間企業などと連携していく方針のようです。詳しくは防衛省の宇宙作戦群のウェブサイトをご覧ください。

No Picture2023年12月17日付『京都新聞』によれば、政府は2024年度防衛予算案を過去最大の7.7兆円とすることで最終調整に入ったようですが、こうして宇宙領域へ防衛努力を傾けてゆけば、今後一体どれほどの予算が必要とされるのでしょう?

防衛費が一段と膨れ上がるのは必至でしょう。このままだとGDPの2%でも追いつかなくなりそうです。2023年12月5日の防衛省発表によれば、わが国は「米国を始めとする同志国で構成される多国間枠組みである連合宇宙作戦イニシアチブ(CSpO: Combined Space Operations Initiative)への参加に係る手続が完了し」、同イニシアチブの参加国となった由です。この「イニシアチブ」に加われば、単独で宇宙作戦を賄うよりは安上がりなのかもしれません(連合内で負担を分け合うわけですから)。しかしそのために自衛隊がいかなる任務を求められるのかは注視が必要です↓

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河原地英武<京都産業大学国際関係学部教授>
東京外国語大学ロシア語学科卒。同大学院修士課程修了。専門分野はロシア政治、安全保障問題、国際関係論。俳人協会会員でもあり、東海学園大学では俳句創作を担当。俳句誌「伊吹嶺」主宰。


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