学校教員への「奨学金(教育ローン)」の返還免除について

カナリア倶楽部でも教員不足問題は何度か取り上げましたが、昨今は状況の著しい悪化により、大手メディアでも報道されるようになってきたので、こちらでは特に言及してきませんでした。そしてそのような中、自民党や政府が「教員になったら奨学金(教育ローン)の返還免除」に向けて、動き始めたという報道が出てきています(自民党については2019年にも同様の提言を出したという報道もあります)。


自治体によっては実際に、奨学金返済の補助をしたところ、教員採用試験の志願者が増えたというところもあるようで、これらが引き金になったのかもしれません。


これらの動きに対しては、「不十分だがとりあえずは賛成」という声と、「効果が見込めないのではないか」という疑問の声、さらには反対の声も見られます。反対の理由は、「本来、奨学金とは給付型であるものであり、教員になる人だけでなく誰でも、無償の大学教育を受けられるようにするべきだから」というもので、中には「経済的徴兵制みたいだ」という指摘もありました。個人的には、これら3種類の意見のすべてに、それぞれ納得させられるものがあります。

その理由は次回記事に回すとして、事実関係をいくつか押さえておきたいと思います。
「教員になれば奨学金(教育ローン)の返還免除」という制度は新しいものではなく、かつて存在していました。厳密には、「教員になれば」ではなく「大学・大学院卒業後1年以内に、学校教育法で定める国内の学校で教員としてフルタイムで15年以上勤務すれば返還免除」で(就職浪人すれば免除無、15年未満で退職すれば一部免除、ただし育児休業法の産休育休は勤務しているとみなす)という制度でした。詳細は時期によって異なるのですが、私自身、この制度を利用して大学院まで進むことができましたし、返還免除の恩恵も受けています。並んだ教師のイラスト
ネット上にも「新しくない」、「かつてあったのを自民党が廃止したのではないか」という指摘は多くみられます。
また、一番上に引用した文科省の動きですが、「概算要求をすることにした」とあります。つまり、かつての制度を復活させるとか、新しい制度を作るということではないと思われます。これは私の推測ですが、岐阜県のような取り組みを他の自治体も実施できるように、国から補助金を出すことを考えているのではないかと思います。もしそうだとすると、あくまで緊急事態対応の措置であるということになるかと思います。
ただそうは言っても、その措置を毎年継続させた上で、しかるべきタイミングで制度化するというやり方もあり得ると思います。そういう意味で、「かつてあった制度の復活」の可能性もゼロではないのでしょう。
最終的にどういう制度や体制になるのか、それとも概算要求が却下されるなどして結局何も変わらないのか、今後の動きに注目ではあります。

————————————-
西垣順子<大阪公立大学 高等教育研究開発センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 21

Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/canaria-club/www/wp-content/themes/mh-magazine-lite/content-single.php on line 30