東京のはじっこ、JR小岩駅から総武線で西へ向う。御茶ノ水を過ぎ新宿を過ぎ、中野の次の高円寺。そこで下車。
今回立石の話を一旦お休みにして、この若者の街にある一軒の古いお店の話をしたい。
高円寺グッドマン。かつて荻窪にあり17年ほど前に高円寺に移転したライブハウスだ。いつ行ってもたいていすいていて、チャージは安い。これでやってけるのかと心配になってしまう感じのお店だけど、それがこの移り変わりの激しい都心部で、今年50周年を迎えるそうだ。
店主は鎌田雄一さん。ジャズ好きが高じ、バイトしていた名古屋のジャズ喫茶ののれん分けで、東京・荻窪のおんぼろビルの2階に、ジャズ喫茶としてこの店を開いた。
ところが客が来ない。実はそのときすでに音楽の流れは他に移り、フリージャズの時代は終わっていた。
一方「演奏したい」という人はいるものだから、最初はジャズ、その後弾き語りの人も演奏するライブハウスとなり、今に至る。
グッドマンは、演奏したい人を断る、てことをしない。すると他所でできない、断られる、そんなことやらないで、って言われるような人たちが、自然に残る。類は友を呼び、売れ線でない人たちがグッドマンに集まり、自分勝手な演奏をする。
うまいだけのコピーと全く違う、本人がやりたいことをやる演奏。そのライブを見る楽しさが鎌田さんにお店を続けさせた。
「いろんな価値観があっていろんなアレがある、面白いことやってる人がいたらその方が価値が高いと思うのに、お金が儲かってる人が偉いとか、勝ち組負け組とか、年収がどうのこうの、それがいやなのよ」
家賃滞納、苦渋の決断でノルマ制導入、朝新宿のホテルでバイトしてからお店を開けてた時期もあったし、2才の子どもを残し奥さんが亡くなったときは、子育てのためさすがにアルバイトを入れながら、お店を続けた。
そんな苦労も「楽しいから苦にはならなかった」と言い切る鎌田さん。
私は思わず「楽しそう、私もグッドマンをやりたかった!」と言ってしまった。
さてそんなグッドマンで、私のミニコミ「車掌」の次号27号の展示会をすることになった。
車掌27号は書き手の日常を綴った手書きかるたのセット(読札50、絵札50)で、全て異なる内容の札を5000対(50組セット×100部)作ることを目指している。今3000対ほどできたところで途中なので、先日グッドマンで出演者にかるたを書いてくれないか頼んでいたら、それを聞いてた鎌田さんが「生産性がなさそう」と言いながら嬉しそうに近づいてきた。最高の誉め言葉! しかもこれを「うちで展示してくれ」と言うではないか!
7月いっぱい、グッドマンは約3000対のかるたまみれのなかで、いろんな人が好き勝手な演奏をする場となる。関心のある方、年収がどうのこうのとかいやな方、是非、ご来場ください!
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塔島ひろみ<詩人・ミニコミ誌「車掌」編集長>『ユリイカ』1984年度新鋭詩人。1987年ミニコミ「車掌」創刊。編集長として現在も発行を続ける。著書に『楽しい〔つづり方〕教室』(出版研)『鈴木の人』(洋泉社)など。東京大学大学院経済学研究科にて非常勤で事務職を務める。