「カナリア俳壇」84

若葉が青葉となり、昨日今日は雨がちの天気です。わが国特有のむっとする季節になりますが、皆さんどうかご自愛のうえお過ごしください。

〇~◎妻のいぬ時間の長さ春の雨     作好

【評】季語から推して、そう深刻な場面ではなかろうと思います。奥様がいなくて、何か手持ちぶさたのような気分なのでしょうね。「ゐぬ」と表記します。

△~〇空青く城跡飾る山桜     作好

【評】切れを入れましょう。また「飾る」と言わずに写生したいところです。「空青し城址を囲む山桜」など。

〇若夏の兄に叶わぬ腕相撲     翠

【評】夏の活気が感じられる句です。「若夏や兄に敵はぬ腕相撲」。

〇若い日のとんこつの味夏の夜     翠

【評】いい感じです。上五「若き日の」、あるいは「青春の」でどうでしょう。

△~〇ムスカリが草押し分けて頭出す     チヅ

【評】ムスカリの花を擬人化した面白い句ですが、この「草」はひょっとして自分の葉なのではとの疑問も抱きました。

〇雨蛙のど膨らませて丸くなる     チヅ

【評】字余りですので「脹らませて」の「て」は省きましょう。「丸くなる」が面白い。

〇根は地へと鉢を抜けたる百日紅     美春

【評】しっかりと観察しましたね。「鉢の底抜けて根を張る百日紅」とするともう少し調べがよくなるかもしれません。

〇~◎あめんぼう水面へこます重さかな     美春

【評】ほとんど体重というものを感じさせないアメンボウですが、水の凹みが確かな重さを伝えているのですね。

〇なつかしき微分積分夏の海     徒歩

【評】「微分積分」を入れた意欲作です。「なつかしき」を何とかしたいところ。「恋知りし日の微積分夏の海」では甘すぎるでしょうか。

△~〇立像の薄き胸張る避暑地かな     徒歩

【評】立像にポイントを持ってきたほうがいいかもしれません。「避暑の地の立像薄き胸張れり」。

△~〇眼帯の片目に映る街薄暑     妙好

【評】眼帯をしていないほうの目でしょうか。「眼帯に片目塞がれ街薄暑」。

〇父の忌の夜半に声沁む青葉木菟     妙好

【評】「声沁む」を客観描写できるとさらに良くなりそうです。「父の忌の夜空震はせ青葉木菟」など。

〇新品の合羽ザックに走り梅雨     万亀子

【評】ザックに入れたということは登山か何かに出かけようとしているのですね。素直な生活句です。

〇万緑を映して静か山の湖     万亀子

【評】よく整った句ですが、「静か」は当たり前な感じもします。「騒めける万緑映し山の湖」などとする手もありそうです。

△~〇新緑や大河眼下に九十九折     織美

【評】先に眼下の景をもってきたほうが素直な気もします。「眼下には大河緑の九十九折」など。

〇ひなげしや久に逢ふ娘は児のママに     織美

【評】「友の娘さん」と前書があります。前書なしで「ひなげしや友の娘は児のママに」でいかがでしょう。

〇肉厚の鯖の歯応え御食国     恵子

【評】御食国は「みけつくに」と読むのですね。若狭あたりでしょうか。挨拶句ないしは国褒めの句として読ませていただきました。「応へ」と表記しましょう。

△~〇緑さす訴状差し出す義民の像     恵子 

【評】動詞を一つ減らし、下五の字余りを解消しましょう。「新緑や訴状差し出す義民像」でどうでしょうか。

△~〇蝿二匹障子振るわす音眠し     白き花

【評】「音眠し」と言わずにその感じが出せるとさらに俳句らしくなります。「密やかに障子震はす蠅二匹」など。

〇薔薇熟れて花弁(はなびら)皿によそひけり     白き花

【評】果実ではないので「熟れて」がどうでしょう。とりあえず「白薔薇の花びら皿によそひけり」としておきます。

〇濡れたくて川原に下りる薄暑かな     永河

【評】この気持ちわかります。京都の鴨川では大人も子供に交じって川に浸かっています。「濡れたくて川へと下りる薄暑かな」とどちらがいいでしょう。

△~〇ほとぼりの側に居たくて新茶汲む        永河

【評】「ほとぼり」とは余熱のことだと思いますが、「ほとぼりの側」がよくわかりませんでした。「ほとぼりの冷めたるころの新茶かな」と考えてみました。

△~〇メロン狩り至福ひと時バスの旅     千代

【評】やや言葉を詰め込み過ぎでしょうか。「メロン狩り行のバス旅合唱し」としてみました。参考にしてください。

〇路地の日に中山道を孫と行く     千代

【評】「路地の日」初めて知りました。6月2日なのですね。「路地の日の中山道へ孫連れて」としてみました。

△~〇舟遊び松江城下に夏の風     久美

【評】「舟遊び」も「夏の風」も夏の季語ですので、どちらか1つにしましょう。「舟遊び松江城下を風わたる」など。

〇花の山勇み登るや孫娘     久美

【評】たのもしい孫娘ですね。作者も元気いっぱい登ったことと想像します。

◎緑さす花の御寺の登廊     多喜

【評】「花の御寺」は奈良の長谷寺の別名ですね。しっかりとした写生句です。

◎ご縁乞ふ御足参りや額の花     多喜

【評】こちらも素朴な感じが良く出ていて結構です。季語も効いています。

◎絽を纏ふ貴婦人めくや黒揚羽     智代

【評】卓抜なたとえです。華やぎのある作品です。

〇ガリバーか蚰蜒の骸に蟻の這ふ     智代

【評】面白いたとえですが、ガリバーは少し言い過ぎかも。「蟻の群れ蚰蜒の骸を曳きに曳く」くらいでどうでしょう。

△~〇ごつそりとお捻り飛ばす夏芝居     曜子

【評】「ごつそりと」は「根こそぎ」と同義で、「盗まれる」や「持っていかれる」等と接続します。「重さうな」「たつぷりと」など上五をもう一工夫してください。

△~〇朝鳶の丸太伐りだす簗用意     曜子

【評】「朝鳶」がどうでしょう。たとえば「二人して丸太伐りだし簗用意」など、ご再考ください。

〇~◎墳丘の煙る卯の花腐しかな     あみか

【評】スケールの大きな句です。「墳丘墓けぶる卯の花腐しかな」としてもいいかもしれません。

〇賀茂祭待つ間の歌舞伎談議かな     あみか

【評】歌舞伎界の例の事件を話しているのかもしれませんね。「賀茂祭待つ間梨園の噂など」とする手もありそうです。

〇花数の増えて芍薬夫告ぐる     ゆき

【評】語順を少し入れ替え「芍薬の花数夫が告げくれし」とするのも一法でしょうか。

◎摘むほどに渦巻く香り蓬原     ゆき

【評】感覚的でユニークな句です。結構です。

〇山寺の畳の湿り皐月雨     ひろ

【評】しっかりとした写生句ですが、「湿り」と「雨」は近すぎますので、たとえば「山寺の畳の匂ひ皐月雨」としてもいいかもしれませんね。

〇卯の花や水の匂ひの千枚田     ひろ

【評】きちんとできている句ですが、千枚田は稲という植物を連想させますので、「卯の花」という植物との取り合わせがやや気になるところです。「郭公や水の匂ひの千枚田」のように植物以外の季語と取り合せるといいかもしれません。

次回は6月20日(火)の掲載となります。前日(19日)の午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。

 


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