二月も早半ば。梅も咲き始めました。なんとなく身も心も軽くなるような気がするこの頃です。
◎結界は扉一枚豆を撒く 妙好
【評】人の世と鬼の世の境が「扉」なのですね。この行事の起源を想起させる句です。
○揉合ひの裸男や春の虹 妙好
【評】尾張一円からサラシの褌に白タビ姿の数千人の裸男が集まるという「はだか祭」ですね。この「揉合ひ」が神事あることを示すには、時期がわかる季語のほうがいいように思います。「揉合へる裸をのこや寒の明」など。
○~◎かたことの曾孫(ひこ)の電話や寒緩む 作好
【評】寒が緩むように、曾孫の言葉もほぐれていくのでしょうね。うまい季語です。
△~○野獣等は庭の葉牡丹すべて食む 作好
【評】「野獣」が漠然としています。あと、切れもほしいところです。「葉牡丹をすべて食ひたり鼬らは」などもう一工夫してください。
△~○小魚にはしゃぐ幼子寒明くる 美春
【評】「はしやぐ」(「や」は大きく)といわずに、はしゃいでいる様子を写生したいところです。「小魚に声あぐる児や寒の明」など。なお、動詞を減らすと俳句が引き締まります。「はしやぐ」という動詞を1回使っていますので、下五は名詞にするといいでしょう。
○~◎春田打里の八隅に土匂ふ 美春
【評】仕立て方としては、まず「土匂ふ」を先に置き、読者に「どうして土が匂うのだろう?」と思わせて(つまり関心を引きつけて)、最後に「春田打」という答えを示したほうが一句の興趣は深まります。「土匂ふ里の八隅や春田打」。
△尾張まで飛ばして雪の伊吹山 ゆき
【評】「飛ばして」というのは、「車を飛ばして」ということでしょうか。一句のなかに地名が2つあるのはよくありません。「尾張」か「伊吹山」か、どちらかにしましょう。「ドライブや雪の伊吹を仰がんと」など。
△~○陶片に左馬の絵初散歩 ゆき
【評】さすがに「初散歩」という季語はありません。「陶片に左馬の絵草萌ゆる」など。
○添え木ある紅梅小さく綻びぬ 恵子
【評】上五をもうすこし梅古木に寄り添った(いたわりの気持を込めた)表現に変え、「添へ木され紅梅ちさく綻びぬ」くらいでいかがでしょう。
○一行詩一字を変へて魚は氷に 恵子
【評】季語を含め、なかなかの冒険句ですね。「一行詩」といわず、そのへんをぼかすと更に面白くなりそうです。たとえば「てにをはの一字改め魚は氷に」。
○歳歳や雛の褪せし緋毛氈 多喜
【評】唐詩でしたでしょうか、「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」を踏まえた句ですね。中七、「ひいなのあせし」より「ひなのあせたる」としたほうが調べがよくなる気がします。「歳歳や雛の褪せたる緋毛氈」としておきます。
○積読の一冊読みて寒明けぬ 多喜
【評】読んだとすれば、もう積ん読ではありませんね。「積読の一冊とれり寒の明」として、これから読むぞ、という句にするのも一法です。
○~◎春浅しモニターに指繋がれて 徒歩
【評】病室での光景ですね。実感がこもっています。「モニターに一指繋がれ春浅し」と語順を入れ替える手もありそうです。
○まなうらの明り春めく目覚めかな 徒歩
【評】「まなうらの明り」がどうでしょう。とりあえず「まなうらの明るき春の目覚めかな」としておきます。
◎雪踏んで女人高野の奥の院 万亀子
【評】固有名詞もよく効いており、ずしりと存在感のある句です。
◎文殊乗る獅子は垂れ目や春近し 万亀子
【評】こちらもしっかりと写生された佳句です。愛嬌のある「垂れ目」が、春近い雰囲気とよくマッチしていますね。
◎はこべらの光ついばむ放ち鶏 音羽
【評】ひらがなの多用が明るさをうまく出しています。季語もよく効いており、放たれた鷄の伸び伸びとした様子が目に浮びます。
○日溜りの光をひろげ恋雀 音羽
【評】「光をひろげ」の解釈がやや難しく思います。とりあえず「日溜りの光を弾き恋雀」としておきます。
○~◎寒晴や草津に湯宿犇めきて 茉奈
【評】「犇めきて」から草津の温泉街の様子が思い浮かびます。「草津の」でどうでしょう。
○~◎樅に雪万平ホテル尋ねゆく 茉奈
【評】軽井沢の万平ホテルですね。いい感じです。上五「雪の樅」でどうでしょう。
△~○今が旬魚屋(うおや)に並ぶ若布買ふ 織美
【評】俳句は旬を詠む文芸ですから、上五は要りません。「あをあをと魚屋に並ぶ若布買ふ」としてみました。
○春立つや乙女の爪はキラッキラ 織美
【評】軽みを追求したおもしろい作品です。もうすこし落ち着かせるならば「春日や乙女らは爪煌めかせ」でしょうか。
◎春風や骨董市の貝釦 ひろ
【評】のどかな骨董市の風景が見えてきます。即物具象のお手本のような作品です。
△~○友の訃を聴く二ン月や駆け抜ける ひろ
【評】この「駆け抜ける」は、時がすぐに過ぎ去るという意味でしょうか。「友の訃の届きし二月過ぎんとす」くらいでいかがでしょう。
△~○野辺の端(はた)仏の座す(おわす)蕗の薹 白き花
【評】句の構造がやや複雑で、景がすっと見えてきません。「野仏のほとりに一つ蕗の薹」としてみました。
△~○指ゆるみ木の芽もゆるむ春一番 白き花
【評】「木の芽」と「春一番」の季重なりはよくありません。「木々の芽もわれの十指もほぐれ初む」と考えてみました。
△~○汁椀にさんざめきたり寒蜆 智代
【評】椀の蜆がなぜさんざめく(騒がしく音を立てる)のか分かりかねました。盛るときの状況でしょうか。「汁椀に身のふつくらと寒蜆」くらいでいいかなとも思いました。
○見目ぞよき狸と見合ふ障子越し 智代
【評】ふつう障子といえば和紙なので、「障子越し」では見えないのではないでしょうか。「見目のよき狸と見合ふ硝子越し」でどうでしょう。
○如月や樹々ふくやかに艶めきて 永河
【評】常緑樹なのでしょうね。できれば具体的に木の名をあげたいところです。「如月の梛(なぎ)ふくよかに艶めけり」など。
○散髪の鼻筋にある余寒かな 永河
【評】なかなかおもしろい作品です。「散髪の鼻筋」に表現としてやや無理を感じますので、「鼻筋に残る寒さや髪切られ」と考えてみました。
○~◎粉雪舞ふ傘を寄せたるささめごと あみか
【評】趣のある作品です。上五をすっきりさせ「粉雪や傘寄せ合へるささめごと」でどうでしょう。
○~◎早春やメレンゲの角固く立て あみか
【評】感覚的な句でけっこうです。季語を下五に据えると安定感が増すかもしれません。「メレンゲの角固く立て寒の明」など。
○小松菜は春の陽を受け甘さます 千代
【評】「甘さます」だと説明調ですので、もう一工夫ほしいところです。「ほの甘き小松菜春の日を受けて」など。
○日差し受け黄色鮮やか福寿草 千代
【評】すなおな作りの句ですが、「黄色」は自明ですので省略できます。「日を受けてまばゆきほどの福寿草」としてみました。
○ダンス終え孫微笑みて霞草 久美
【評】幸福感の伝わる句です。切れを入れ、「ダンス終へ微笑む孫や霞草」でどうでしょう。
△~○四十五とせ春訪れて記念日や 久美
【評】何の記念日でしょう。たとえば「この春は四十五度目や夫と生き」であれば結婚記念日であることがわかります。
次回は3月7日の掲載となります。前日(6日)午後6時までにご投句をお願いします。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。