「カナリア俳壇」75

暦の上ではとっくに冬ですが、まだまだ紅葉の見ごろが続いています。俳人にとって11月はなかなか手ごわい時期かもしれませんね。秋なのか、それとも冬なのか、あまり杓子定規に考えず、実感に即して句作してくだされば結構と思います。

〇秋晴れや鍬打つ腰も軽くなり     作好
【評】日頃、畑作業をしておられるのですね。すなおに詠まれた句でけっこうです。

△久しぶり舞茸重し急ぎ足     作好
【評】句意がとりにくいのですが、久しぶりにたくさんの舞茸を買い、気持ちが高揚しているのでしょうか。とりあえず「舞茸を籠にどつさり急ぎ足」。

△鴨一羽仲間探して池の端     美春
【評】なぜ仲間を探していると思ったのでしょう。池の端でさびしそうにしていたのでしょうか。そのへんが写生できるといいですね。「鴨一羽来て池の辺に声もらす」など。

◎古箪笥母の香のこす黒ショール     美春
【評】しみじみとした情感が伝わってきます。「のこる」とどちらがいいでしょう。

△~〇月蝕や戦禍の色を煌々と     白き花
【評】「煌々と」は明るく輝く様を表す言葉ですので、月蝕とは合わないように思います。うまい添削例が浮かびませんが、とりあえず「月蝕や戦禍の色はいかばかり」。

〇とぅるとぅるの甘い渋柿母想う     白き花
【評】甘くなれば、もう渋柿ではない気もしますが、とろけるほどになった柿は母の思い出とつながるのですね。歴史的仮名遣いですと「とうるとうるの甘い渋柿母想ふ」となりますが、それではうまく伝わらないので、原句のまま残したいと思います。

〇寒禽の声こぼれをりラヂオ塔     妙好
【評】「こぼれをり」が今一つでしょうか。この句は「ラヂオ塔」に面白みがあるわけです。寒禽もアナウンサー気取りで一声放ったな、と読者に読み取らせる工夫をすると俳諧味が出ます。「寒禽の放つ一声ラヂオ塔」「ラヂオ塔より寒禽が声放つ」など。

〇秋澄めり所作美しき若き僧     妙好
【評】おおむね結構ですが、さらに句境を深めるなら「所作美しき」と言わず、美しいと感じたその所作そのものを描いてほしいと思います。「秋澄めり背筋すつくと若き僧」「秋澄めり十指を揃へ若き僧」等々。

△~〇新築に引つ越しの人今朝の冬     織美
【評】家が完成すれば、人が引っ越してくるのは当たり前ですので、どんな方が越してこられたのか描写してほしいと思います。「新築の主はコック今朝の秋」など。

△~〇ドレスの児帰路スヤスヤと七五三     織美
【評】「スヤスヤと」は平仮名にした方が穏やかな眠りになりそうです。「七五三終へ父の背ですやすやと」。ドレスは消えてしまいましたが……。

△~〇ここよりは修験者の道ゆきばんば     音羽
【評】「ここよりは」で始まる俳句をしばしば見ますが(一つのパターンですね)、読者としては、その場にいないので、「ここと言われてもなあ」と困ってしまいます。「修験者の小暗き古道ゆきばんば」など、もう一工夫できそうです。

〇落葉踏む後ろより音追ひかけ来     音羽
【評】落葉道を歩いていると、その音が反射するのか、後ろから誰かがついてくるような感覚にとらわれますね。その不気味さを詠んだ句でしょう。ただ、この句の形ですと、本当に誰かが追いかけてきたように読み取れてしまいます。「落葉踏む音後ろでもしたやうな」など、もう少し推敲できるかもしれません。

〇杉戸絵に鍵の傷あと暮の秋     多喜
【評】藩主や将軍の間に通じるところには鍵付きの杉戸があったのでしょうね。「鍵の傷あと」だけではガイドブックの説明どまりで、やや物足りませんが、句形はしっかりできています。季語もけっこうでしょう。

△~〇冬うらら檜皮の屋根の曲線美     多喜
【評】「曲線美」と言ってしまったら、これもガイドブックの言葉どおりで、俳句としては面白みがありません。以前わたしは「霜降りて刀の反りの大鳥居」という句を作ったことがありますが、鳥居の曲線美を自分なりに表現したつもりです。多喜さんもがんばって、独創的な表現を見つけてください。

〇卵割る音を楽しむ今朝の冬      徒歩
【評】類例のない「音」に注目したユニークな句です。ただ、「楽しむ」で済ませてしまうのはもったいない気がします。「音立てず割りたる卵今朝の冬」、、、なんてことは不可能でしょうね。

〇冬めくや弾けぬギターを持てあまし     徒歩
【評】作者の鬱屈した感じをおもしろく読みました。どう「持てあまし」たのか、具体的に写生できるとさらに情景がくっきりするように思います。「冬めくや弾けぬギターを壁に立て」など。

◎老け顔のディージェイポリス秋祭     万亀子
【評】とても斬新な句材です。「老け顔のDJポリス秋祭」という表記でけっこうです。

〇せせらぎの小さききらめき野紺菊     万亀子
【評】「せせらぎの」「きらめき」といえば、小さいことは想像できますので、たとえば「煌めける谷のせせらぎ野紺菊」としてみました。

△~〇奥々とライト眩き紅葉山     ゆき
【評】「奥々と」いう言葉を初めてみましたが、辞書にありますでしょうか。とりあえず「奥深きライトアップや紅葉山」としておきます。

〇山城に柏黄葉の尾根明かし     ゆき
【評】「山城」と「尾根」という二つの地理的な言葉が句をややくどくしています。「尾根をゆく柏紅葉の明るさに」とするか、「山城」のほうを生かして推敲してみてください。

◎新麹まぜて白粥よき匂ひ     紅子 
【評】「新麹」が晩秋の季語。甘酒を作っているのですね。無理のないゆったりとした調べで、美味しい仕上がりを予感させる句です。

△解剖の女性教授の鮫に乗る     紅子
【評】非常にシュールな情景が思い浮かびますが、たぶん言葉の整理ができていないせいでしょう。「女教師が鮫にまたがり解剖す」ということでしょうか。

〇をなもみを付けて堂々秋田犬          永河
【評】物に動じないところが秋田犬らしい貫禄ですね。どこにオナモミを付けていたのか描けるとさらにリアリティーが増します。「をなもみを眉のあたりに秋田犬」など。秋田犬ですから、「堂々」は言わなくても読者が察してくれるでしょう。

◎風に乗り母なる山へ雪蛍     永河
【評】大いなるもの(母なる山)と微細なもの(雪蛍)のコントラストが見事で、爽快な気持ちにしてくれる一句です。母恋の気持ちも秘めていそうですね。一茶の「かたつぶりそろそろ登れ富士の山」に引けを取らない作です。

〇雁瘡や孫の手さがす夫の声     智代
【評】「雁瘡」(がんがさ)という珍しい季語を使っただけでも残す価値のある句です。このままでも十分に結構ですが、妻の立場から詠むなら「雁瘡の夫へ洋酒と孫の手と」といった仕立て方もおもしろそうです。

〇温もりに手足を伸ばす干布団     智代
【評】すなおに詠まれた句でけっこうです。もっと大袈裟に言うなら、「両手足伸ばせば浄土干し布団」となるでしょうか。

〇晩秋の真っ青な空小鳥飛ぶ
【評】晩秋の晴れ渡った空はまさに真っ青ですね。このままでもけっこうですが、もうすこし句にメリハリを付けるなら、「晩秋の空は真つ青小鳥とぶ」。

△常滑の土管の路や枯尾花
【評】「常滑の土管の路」はあまりに有名ですので、よほど新しい詠み方をしないと句材になりません。目の付け所を変えて、再挑戦してください。「常滑」「土管」を使ったら、まず類句になると思ったほうがいいでしょう。

◎冬めくや砥石の水のはや硬き     ひろ
【評】冬になると水が硬くなる科学的な根拠はないのかもしれませんが、俳句は科学ではありません。この実感に大納得です。季語も動かず、言葉の引き締まった佳句です。

△~〇枯れ葉踏む失くせしものの音したり     ひろ
【評】「失くせしものの音」が観念的で、やや独りよがりに陥っている気がします。イブモンタンの歌を思い出しつつ「枯葉踏む失くせし恋を捜すかに」と考えてみました。

次回は12月13日(火)の掲載となります。前日12日(月)の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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