「カナリア俳壇」76

今年も残すところ半月余りとなりました。気ぜわしい時期ですが、俳句が心のゆとりをもたらしてくれそうですね。

〇落ち葉掃く箒の癖に手こずりぬ     白き花
【評】箒の曲がり癖に着目したところがユニークですね。「手こずりぬ」と言わず、箒そのものを具体的に写生したほうが印象鮮明になります。「曲がり癖強き箒や落葉掃く」等。

〇~◎冬の芽の合唱団の歌聞こゆ     白き花
【評】新鮮な取り合わせの句です。「冬木の芽合唱団の歌聞こゆ」。

〇冬もみじ悔いなく生きる峡(かい)の家     作好
【評】境涯俳句ですね。語順を変え「悔いのなき峡の暮しや冬もみぢ」としてみました。

△~〇掘りたての焼芋香る昼餉かな     作好
【評】「掘りたての芋」ならわかりますが、「掘りたての焼芋」だと、焼芋自体が土の中に埋まっていたみたいです。「掘りたての芋焼くだけの昼餉かな」等。

△~〇カールより空に浮く富士冬日和     恵子
【評】ネットで調べたら、カールとは「氷河地形」のことだそうで、要するにかつて氷河があった、ゆるやかなU字型の谷のことなのですね。カールと富士の関係がよくわからないのですが、ともかく「冬日和」を先にもってくると、雪化粧した富士であることが読者に伝わると思います。「冬日和カールの向う富士浮けり」等。

△~〇冬紅葉映ゆる山路のカーブミラー     恵子
【評】まず下五の字余りが調べを悪くしています。「映ゆる」も不要でしょう。「冬紅葉カーブミラーの奥にまで」とすれば、山深いところだと読者が察してくれそうです。

△山裾の墓の門覆ふ枯芒     美春
【評】「墓の門」がよくわかりませんでした。墓地の入り口の門でしょうか。中七も字余りになっていませんか。「枯芒墓地の入口覆ひけり」くらいでどうでしょう。

△~〇街風にチラシ剥さる年の市     美春
【評】「年の市」だけで「街」はわかりますので、カットできます。とりあえず「年の市剥がれしチラシ風に舞ふ」としておきます。

△~〇草サッカー蹴る音腹に伝わりぬ     ゆき
【評】ネットではサッカーを冬の季語としているサイトもありますが、先日刊行されたばかりの『角川俳句大歳時記 冬』には登録されていません。季語としないほうが無難でしょう。もはや添削にもなりませんが「蹴上げしサッカーボール冬の雷」と考えてみました。上五に「草サッカー」を置くと字余りになりますので、たとえば「地に置きし草サッカーのボール冴ゆ」のように中七にもってくるのも手です。

△~〇広大な畑に豊かやざぼんの実     ゆき
【評】「広大な」と「豊か」という具合に形容語が二つあると少々うるさい句になります。「朱欒の実畑一面にかがやけり」など、もう一工夫してください。

△~〇夫送る喪主の挨拶冬ざくら     妙好
【評】いきなり「夫送る」で始めると、作者のご主人のことかと読者は勘違いします。たとえば「友が抱く遺影の夫や冬ざくら」だと、もうすこし通じやすくなるでしょう。

△~〇クレーン車で枝伐り落す十二月     妙好
【評】安易な上五の字余りは避けたいものです。「極月や枝切り落すクレーン車」。

△~〇木漏れ日に落葉輝く樫の森     万亀子
【評】上五中七までは視線は落葉に向けられているのに、下五を「樫の森」とするといきなり大きな景に切り替わってしまいます。視線は落葉に固定して作り直しましょう。「木洩れ日に樫の落葉の輝ける」。

〇清正の寺を綿虫うすみどり     万亀子
【評】だいたい良いと思いますが「を」がやや気になります。「清正の寺や綿虫うすみどり」でどうでしょう。

〇コンドルは翼広げず冬日影     徒歩
【評】動物園での吟でしょうか。コンドルの魅力はあの大きな翼なのに、それを広げてくれなかったのは興ざめでしたね。コンドルだけの一物仕立てにして、(上五をあえて字余りにしますが)「凍コンドルつひに翼を広げざる」とするのも一興かもしれません。「凍コンドル」は「凍鶴」や「凍蝶」の応用です。

◎山眠る地底深くへ廃棄物     徒歩
【評】「地底深くへ」には詩情がありますが、「廃棄物」にぎょっとします。上々の社会性俳句になっていると思いました。

〇コアラの死献花する児は菊の束     織美
【評】「東山動物園」と前書があります。「献花」と「菊の束」に重複感がありますので、少々手を加え「コアラの死児の献げたる菊の束」あるいは「コアラ逝く児の両腕に菊の束」と考えてみました。

〇~◎塀に吊る板木の凹み落葉寺     織美
【評】結構です。別案として「凹みたる塀の板木や落葉寺」とする手もありそうです。

〇~◎保護犬のビラ歳晩の街角に     あみか
【評】しっかり出来ている句ですが「街角に」が少々曖昧な気がしました。「保護犬のビラ歳晩の街路樹に」または「保護犬のビラ電柱に年の暮」等とするのも一法でしょうか。

〇パーカーの肩すぼめをりレノンの忌     あみか
【評】「パーカー」も冬の季語であることはご確認ください。そのうえでの季重なりなら結構です。個人的には「パーカーのフードは外せレノンの忌」と言ってみたくなりました。

〇染み付きしノート片手に年用意     智代
【評】何年も使っているノートなのでしょう。そこに年用意の段取りがメモされているのですね。生活感のある句です。

〇つり革に一糸垂らすや冬の蜘蛛     智代
【評】おもしろい句ですが、「一糸垂らす」が的確な写生なのかどうか、、、。「つり革の上へ上へと冬の蜘蛛」のほうがリアリティがありそうです。

△親鸞忌門前市はナチユラル派     多喜
【評】「ナチュラル派」がよくわかりません。ちなみにカタカナ語(外来語)の場合は、詰る音の文字(この場合は「ュ」)は小さく書きます。有機栽培などの野菜を売っているということでしょうか。

△冬萌や恩師と参る御坊さん     多喜
【評】「御坊さん」の解釈がむずかしい。「冬萌や恩師と参る善光寺」など、下五を具体化するとよいと思います。

△~〇一茶忌や庭の枯花切り落とし     ユミ
【評】句形はしっかり出来ていますが、果してこの季語が効いているのかどうか。一茶忌と関連付けてこの句を鑑賞することができませんでした。

△落葉踏む赤の深さや帰路近し     ユミ
【評】このままですと三段切れです。また、深い赤色の落葉を踏むこととと「帰路近し」との関連性がわかりませんでした。とりあえず「家までの小径真つ赤な落葉踏み」としておきます。

△~〇老いてゆく人の無邪気さ枯尾花        永河
【評】この「人」は誰のことなのでしょう。「無邪気さ」にこめた思いも今一つ汲み取れませんでした。また、「老い」と「枯尾花」は近すぎるように感じます。「われもまた邪気なき齢花すすき」などもう一工夫してみてください。

〇青空と珈琲の香や十二月     永河
【評】ユニークな仕立て方の句です。年末らしいし伸びやかな感じをさらに強めるなら、「コーヒーの香と青き空十二月」とするのも一案でしょう。

〇~◎児のパンに紅玉のジャム甘く煮て     紅子
【評】美味しそうですね。パン「に」ならば、「紅玉のジャム厚く塗る」のほうが落ち着くように思います。

〇~◎汽車通の友にマフラー長く編む     紅子
【評】汽車で通学しているクラスの好きな男の子のために、長いマフラーを編んであげているのでしょうか。まさに青春俳句ですね。

△火祭りの寺のマルシェに集ふ人     久美
【評】マルシェとはフランス語で市場の意味。地元の人はこの寺の市場をそう呼んでいるのでしょう。しかしこれは「火祭」の句ですから、一句の雰囲気をマルシェという語がこわしている気がします。「火祭や人押し合へる寺の市」など、フランス語を用いずに和風で仕立てたほうが素直な句になります。

△晩秋にインパルス飛ぶ空見上ぐ     久美
【評】たどたどしい句になっていますので、すっきりさせましょう。「晩秋の空をブルーインパルス」。なお、「インパルス」だけでは意味をなしません。

次回は1月3日(火)の掲載となります。2日の午後6時までにご投句いただけると幸いです。では皆さん、よいお年をお迎えください。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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