米国のバイデン大統領が5月22日、来日しました。大統領就任後、初めての日本訪問となります。その目的は何なのでしょうか？
バイデン氏は昨年3月25日、就任後初の記者会見を行い、世界が民主主義と専制主義の闘いの場であると規定し、専制主義の筆頭として中国を名指ししました。バイデン政権の対外政策の焦点が中国にあることは当初から明確でした。昨年夏、米軍をアフガニスタンから撤収させたのも、軍事力をインド太平洋に振り向け、対中包囲網を形成するためでした。昨年、初の首脳会談が開かれたクワッド（日米豪印4ヶ国戦略対話）も、昨秋発足したAUKUS（米英豪3ヵ国軍事同盟）も、中国を念頭に置いてのものです。
今年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻により、一気に欧州の緊張が高まりましたが、米政府としては改めて政策の基軸を中国に据え直そうとしているのでしょう。
具体的にはどのような話し合いが行われたのでしょうか？
政治、経済、安全保障などあらゆる方面における対中対抗策が構想されています。バイデン大統領は5月20日～22日、まず韓国を訪問し、大統領に就任したばかりの尹錫悦氏と会談しました。23日には日米首脳会談などが行われ、24日には首相官邸でクワッド首脳会談も開催されます（首相に就任したばかりの豪州のアルバニージー氏や、インドのモディ首相も来日します）。
日米2国間における主要テーマは何ですか？
まず防衛面では、中国、ロシア、北朝鮮の軍事的脅威を見据えての同盟強化のあり方が論じられました。日本側からは、敵基地攻撃能力（反撃能力）の保有問題、防衛費増額案などが示され、米国側からは核・通常戦力による日本への「拡大抑止」の確認がなされたようです。台湾有事の際に米軍が出動すること、日本防衛に米国が全面関与することなどが申し合わされました。
さらに経済面では、米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み（IPEF）」の設立が宣言されました。米国が離脱し中国が加盟申請しているTPPや、中国が参加しながら米国は未加盟のRCEPに対し、米国が中心となり、中国を排除する形で経済協力を推し進めようというのがIPEFの趣旨のようですが、関税引き下げなどは協議事項に入っておらず対米輸出の促進につながらないため、米国以外にはあまりメリットがない経済圏構想とも言われますが、日本はこの構想の推進に協力する立場をとっています。
これから行われるクワッド会合に関しては、日米豪印4ヶ国が対中包囲策でどこまで結束できるかが焦点となるでしょう。オーストラリアのアルバニージー新首相は労働党の党首ですが、伝統的に労働党は親中国的と言われています。同首相は対中政策に関するかぎり前政権の立場を継承すると表明していますが、中国側も懐柔策をとることでしょうから、豪州と中国の今後の関係次第で、クワッドが揺らぎかねないとの見方もあります。また独自路線を堅持するインドも、日米の思惑通りに動くとはかぎりません。
バイデン大統領の来日は、冷戦の再来を強く印象付けるものと評していいでしょうか？
そうですね。軍事色が前面に出されたのが特徴でしょう。日米首脳は中国を念頭に、東アジアで「力による一方的な現状変更の試みを許さない」との認識で一致しましたが、そうした「試み」に対しては力で対抗するという姿勢を鮮明にしました。これから軍事的緊張は益々高まることになるでしょう。
冷戦時代には1950年代から60年代にかけての「雪解け期」や、60年代から70年代にかけての「デタント（緊張緩和）」がありましたが、今日の「新冷戦」にはその気運が生じる兆しすら見出せません。本来であれば自由貿易構想とは、ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に行き来する「開かれた世界」を意味するはずですが、米国の「IPEF」は経済と安全保障をリンクさせた一種のブロック経済政策であり、世界の分断を促すことになるでしょう。
世界を「民主主義」と「専制主義」、敵と味方に二分し、その間に壁を設け、軍事的な緊張を高めていくのがバイデン大統領の政策ですが、中国、ロシア、北朝鮮といった専制主義国の存在を目の当たりしては、米国の軍事力のもとに結束する以外の選択肢はあり得ない、というのが日本の置かれた状況です。その先には防衛費の増大、軍備増強、憲法改正、さらには核兵器の「共有」（日本への核配備）というレールが敷かれています。フィンランドやスウェーデンのような中立国のNATO加盟もその流れを後押ししています。日本のみならず、世界全体の「歯車」が一様に軍事化に向け回り出した感があります。
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