今年はいつになく桜が美しく感じられます。わたし自身の心境がそう思わせるのでしょうか。早速ながら皆さんの句をみてゆきましょう。
◎金縷梅や里のはづれの一軒家 作好
【評】「金縷梅」は「まんさく」と読み、春の到来を告げる花です。長閑な村里の景が見えてきました。上五を「や」で切った場合、この句のように下五を名詞止めにするとすっきりとした形になります。
◎胸に抱く友の形見の春ショール 作好
【評】「胸に抱く」から亡き友への熱い思いが切々と伝わってきます。
○故郷の姉の案内木の根開く ゆき
【評】「木の根開く」とは、木の回りの雪が解け、土が覗くこと。春先の季語です。久しぶりに里帰りしたのですね。「案内」の代わりに「出迎へ」もよさそうです。
○木の根開く連山すべて輝けり ゆき
【評】スケールの大きな句です。上五と下五が両方とも述語の終止形になっていますが、どちらかを連用形にすると安定した句形になります。「木の根開き連山すべて輝けり」または「木の根開く連山すべて耀きて」という具合に。できれば上五を名詞にすると、よりすっきりします。たとえば「雪解風連山すべて輝けり」など。
○しなやかに初蝶の翅閉じ開き 白き花
【評】繊細な句ですね。一句に切れが入るとより俳句らしくなります。「初蝶来翅しなやかに閉ぢ開き」など。「来」は「く」と読み、「やって来る」の意です。
○ぽぽぽんと膨らむ桜ぽぽぽんと 白き花
【評】冒険句ですね。「ぽぽぽんと桜膨らむぽぽぽんと」のほうが語調がいいかもしれません。「ぽぽぽんと」は一つだけにし、たとえば「信楽の桜膨らむぽぽぽんと」などとする手もありそうです。
○麗らかやまどろむ妻は猫になり 美春
【評】俳諧味たっぷりの句ですね。「猫となり」で気持ちよさがよく伝わってきます。このままでもけっこうですが、「妻は」の「は」がやや強い感じもしますので、それを消すとすれば、「まどろみて猫となる妻麗らけし」とするのも一法です。
△~○春興や「ぶな」の二椀をあがなひぬ 美春
【評】「あがなひぬ」の「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形で、けっこう強い切れ字となります。上五を「や」で強く切った場合、下五は名詞止めにするか、活用語の連用形または連体形を用いて流すのが基本です。この句を生かすとすれば、「春興や橅の二碗をあがなへる」としましょう。「あがなへる」の「る」は、完了の助動詞「り」の連体形です。
○潮仏拝み岩場の浅利掻く マユミ
【評】海の幸をいただくことへの感謝の気持ちを込めて拝んだのでしょうね。動詞を二つ入れると「ああして、こうした」と説明的な句になるので(つまり散文的になるので)、できれば避けたいのですが、素直な句ということでひとまずOKとしましょう。
○母の味真似て土筆の卵とぢ マユミ
【評】「真似て」が語感として微妙なところですが、とりあえず素直な句でけっこうです。「母の味守り」くらいでどうでしょう。
△~○教科書に折り目を付くる四月かな 妙好
【評】よくわかる句ですが、やや当たり前な感じで詩情不足でしょうか。たとえば「教科書にまづは折り目を花の昼」など、季語を含め、もう一工夫してみてください。
○水切りに興ずる二人風光る 妙好
【評】水切りは遊びの一種ですので「興ずる」は言わなくてもいいでしょう。もうすこし具体的な動作を入れ「水切りの石拾ふ子ら風光る」等とすることもできそうです。
△昨夜のあめ木々の芽吹きを促せり 音羽
【評】植物の芽吹きを促す雨のことを「木の芽起こし」あるいは単に「芽起こし」と言いますが、掲句はこの季語の説明になっています。作者の発見がほしいところです。
○~◎逃げ水に自転車の列ゆらめき来 音羽
【評】「列」ですから何台か来るのですね。「逃げ水」の「逃げ」に対し、自転車の「来」という対比も表現の工夫として面白く感じました。
△~○目刺焼く香にそそらるる昼餉どき 智代
【評】俳句は「そそらるる」まで言ってしまうとつまらなくなります。そこは読者の想像力に委ねましょう。場所を具体化し、「垣越しに目刺焼く香や昼餉どき」とするなど、さらに推敲してください。
○へたに咲く大根の花凛として 智代
【評】このままですと、読者はうっかり「下手に咲く」と読んでしまいそうです。少々語順を入れ替え、「大根のへたより凜と花咲けり」でいかがでしょう。
○~◎CDの曲はワルツよ風光る ひろ
【評】「風光る」は戸外で使う季語ですので、どこでCDを聞いているのか多少迷うところはありますが、春らしい軽快な作品です。
○菜の花を活けて交番巡回中 ひろ
【評】きっと平和な町なのでしょう。心のなごむほのぼのとした景です。
○大阪のネオンの映ゆる春の水 徒歩
【評】句としては完成されていますが、夜に「春の水」が合うのかどうか難しいところです。別の句になってしまいますが、「大阪のネオン川面に西行忌」など、季語でもうすこし冒険できそうな気もします。
○プロペラの端を碑とし遅日かな 徒歩
【評】戦争に関連のある記念碑なのでしょうか。とすると、のどかな季語との対比に凄味を感じさせます。中七はどう読めばいいのでしょう。「はしをひとし」では字足らず、「はをいしぶみとし」では字余りですが。
△~○花冷え朔日参り平和願う ちえ
【評】ウクライナの平和を願って詠まれた句かもしれませんね。まず、俳句では「花冷え」の「え」は一般に省略します。下五が字余りのせいで、音読したとき調べがよくありません。「花冷の朔日参り平和来よ」としてみました。「来よ」は「来る」の文語「来(く)」の命令形で「こよ」と読みます。
○こうべ下げ宮司の祝詞風光る ちえ
【評】宮司の様子をきちんと描写した句です。戸外で祝詞を奏上しているのですね。季語もよく合っていると思いました。
◎春の日や老舗旗屋の床タイル 多喜
【評】床タイルに春の日が差し込んでいるのでしょう。「旗屋」という句材が新鮮ですし、「床タイル」がレトロな感じでしみじみとした味わいがあります。
◎手のひらに鳥落したる桜受く 多喜
【評】なかなかこのようなチャンスはありません。貴重な一瞬をよく俳句にしました。句の調べもゆったりとして上々の出来栄えです。
△~○声ひとつてふてふを追う小さき指 ゆみ
【評】「声」も「指」も身体にかかわる言葉ですが、どちらか一方に焦点を絞ったほうがすっきりします。「声ひとつあげて幼子てふ追へり」あるいは「てふてふを追ふや小さき手をひろげ」など。
△~○腰かがめ土手行く人や土筆とり ゆみ
【評】「腰かがめ」というのは土筆をとっているからなのですね。最後まで読まないとそのことがわかりません。語順を入れ替え、「腰かがめ土筆とりつつ土手行けり」としたほうが読者に親切でしょう。
◎鶯の声ついて来る山の道 万亀子
【評】鶯の姿はなかなか見えませんが、声は明らか。作者の浮き立つ心が伝わってきて、読者も楽しい気分になります。
◎さし足の子猫見つむる雀どち 万亀子
【評】俳諧味があり、愉快な句です。本来なら雀は猫に怯えるところですが、相手が子猫だと、雀のほうが余裕がありそうですね。
△きいちょうや待ち人なきし停留所 ちづ
【評】「きいちょう」は「紋黄蝶」または単に「黄蝶」としましょう。また、「なきし」は語法上、無理があります。「黄蝶来る待ち人のなき停留所」としてみました。
○~◎たんぽぽや孫に教える三輪車 ちづ
【評】素直に作られた句で大変けっこうです。「教へる」とすれば完璧です。幸福な気持ちにさせてくれる作品です。
○~◎花冷えや走り根の割くアスファルト 織美
【評】季語から察するに、「走り根」は桜の木なのでしょうね。この木の執念のようなものが伝わってきました。これは好みの問題でもあるのですが、送り仮名は省いたほうが句が引き締まります(「花冷」のように)。歳時記の例句をご覧ください。
△~○荷の中に越後の友へ花の枝 織美
【評】言わんとすることはわかりますが、全体に言葉足らずの感があります。うまく添削できませんが、「越後」を省き、「初花の一枝友への荷に加ふ」としておきます。
○目を合わせ手話の親子や花の下 恵子
【評】上五の写生によって情景がよく見えてきました。あたたかみのある句です。「合はせ」と表記しましょう。
△~○峡の里北の山肌雪残る 恵子
【評】「峡」「里」「北」「山」と地理的な言葉が多すぎるように感じます。もうすこし省略してもよいのでないでしょうか。一例として「山里の北面に雪残りをり」。
○酸模の葉かぶせて掴む大蚯蚓 さくら
【評】「酸模」は「すかんぽ」と読み、春の季語。大蚯蚓をのけようと、とっさにとった行動なのでしょうね。臨場感があります。中七の字余りは避けましょう。とりあえず「酸模の葉もて掴めり大蚯蚓」としておきます。
○大寺に乳垂れ銀杏日の永き さくら
【評】地母神という言葉を連想させるようなどっしりとした句です。「乳垂れ」は「ちだれ」と読むのでは?とすると字足らずになりますが、一度ご確認ください。「大寺」を消して、「垂乳根の銀杏見上ぐる日永かな」とするのも一法でしょうか。
○桜蝦色よく揚がる夕厨 千代
【評】「桜蝦」は「さくらえび」と読み、春の季語。かき揚げにしたのでしょうか。上五と下五の両方が名詞になる形は極力避けましょう。俳句の原則です。「暮れどきの色よく揚がる桜蝦」など一工夫してみてください。
◎初午や五目稲荷を家苞に 千代
【評】句形もぴたりと決まり、生活感も伝わってくる佳句で、申し分ありません。
○川眺め体操してゐる花万朶 永河
【評】情景はよくわかりますが、中七の字余りが気になります。とりあえず「川眺め身をほぐしをり花万朶」としておきます。
○砂時計落つる静けさ花の昼 永河
【評】詩情のある句です。「静けさ」をもうすこし具体化するならば、「砂時計かそけき音を花の昼」でしょうか。
○春ぬくし玉子句会に戻る友 久美
【評】「玉子句会」とはチャーミングな句会名ですね。「冬ぬくし」とは言いますが、春は暖かな季節ですので「春ぬくし」だと重複感があります。上五を「暖かや」とすれば、句形もよく、素直な作品になります。
○春場所に四股踏むまねの二歳の孫(こ) 久美
【評】二歳の孫との幸福な時間が凝縮された句です。「孫」に「こ」とルビを振らず、「児」とすれば十分でしょう。読者はきっと孫のことだと察してくれるはずです。
△~○あをぞらとミモザの色の旗揚ぐる あみか
【評】ウクライナの人々への連帯感が伝わってきます。あの黄色はミモザを表しているわけではないので、やや無理がありますが……。しかしこのようなエールの句(挨拶句)は、理屈を言わずそのまま受け入れたいと思います。
◎春光や白き網干す舟屋口 あみか
【評】句形もよく、写生も行き届き、即物具象のお手本としたい作品です。
△軽鴨の川の辺によちよちと 慶喜
【評】「川の辺」は普通「かわのべ」と読みますが、そうするとこの句は「五・五・五」ですね。一応「軽鴨の親子川の辺よちよちと」としておきますが、推敲してください。
○晴天の空より枝垂れ桜かな 慶喜
【評】立派な枝垂れ桜はまさに空から垂れ下がっているように見えますね。けっこうでしょう。
次回は4月26日(火)に掲載します。前日の午後6時までにご投句頂けると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。