こころ野便り~農業について思う。チャレンジ編 その4

比較的せまい機械類等の一切ない助産院の診察室は、今から思えば、洞穴の様なあるいは、母のおなかの中を思わせる様な穏やかに時間の流れる空間だった。そこでは、診察と言うより対話が行われる。木製のラッパの様な筒を膨らんだお腹に当て、もう一方を助産婦さんの耳に当て微かな音を聞かれている。お腹に当てた手は、胎児の手足や頭の大きさその様を感じ取り、その成長を確かめられる。そして、ここ最近の妻の体調を言い当てれたられる時には、まるでお腹の赤ん坊から聞き取られたかの様に感じた。出産予定日が近付いてきた頃、海外からの助産師の研修生が数名助産院で研修を受けられていた。そして日本での自然出産の現場を今か今かと待っていた。しかし、家の子は、一向に出てこようとしない。とうとう2週間の研修期間は、過ぎてしまった。その翌々日妻は、産気づいた。どうやら恥ずかしがり屋の赤ん坊は、家族だけに見守られてこの世に出て来ることを待っていたらしい。早朝助産院に到着し2時間程経った頃、お産が始まった。妻が息むと子供が産道を少し進む、一息ついてまた妻が息むと少し進む、まるで妻と子供が息を合わせる様に。それを繰り返すうち頭が見えてきた。それまで妻が息み苦しそうな声を出すと一緒に泣いていた年子の息子が、姉と一緒に手を叩いて応援を始めた。病院で息子の出産に立ち会った時とまるで違う光景がドラマチックに進んでゆくが、とても穏やかな時間だった。家族だけの穏やかな時間。予定日から16日お腹の子は、これを待っていたのかな。

京滋有機農業研究会 会長の田中真弥さんが無減農薬野菜などの宅配サービスの会員向けに連載しているコラム「こころ野便り」を当サイトにも掲載させて頂いています。前回はこちら


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