2021年11月19日付『日経新聞』によれば、「特定技能」対象者となる外国人労働者に対し、無期限の就労を認める方向で政府内の調整が行われているとか。要するに外国人労働者に幅広く永住への道を開く方針で、来春の正式決定をめざしているようです。これはわが国の外国人受入れ政策の大きな転換点になるともいわれていますが、どのような意味で「転換点」となるのでしょう?
まず「特定技能」という制度ですが、一定水準の経験や能力を有する外国人が、わが国で人材不足の深刻な14業種に従事できるようにする制度です。2019年4月に設けられました。即戦力となる外国人労働者を募るという点で、日本に技術を学びに来る「技能実習」制度とは異なります。
14業種といいましたが、それらは①介護業、②ビルクリーニング業、③素形材産業、④産業機械製造業、⑤電気・電子情報関連産業、⑥建設業、⑦造船・舶用工業、⑧自動車整備業、⑨航空業、⑩宿泊業、⑪農業、⑫漁業、⑬飲食料品製造業、⑭外食業、を指します。つまりわが国のかなりの業種をカバーしています。
ところで「特定技能」は1号と2号に分類され、1号は業務を行うのに必要な経験・能力を有すること、2号は熟練していることが要件とされます。1号に分類されると、最長でも5年で帰国せねばなりませんが、2号に分類されると、日本に永住権を申請でき、家族の帯同も認められます。今までは「建設業」と「造船・舶用工業」の2業種のみが2号の対象とされてきましたが、新方針が成立すると、これが一気に他の業種に拡大されます。単純化していえば、日本で働く外国人は誰でも(申請に必要な要件を満たせば)家族を連れて永住する権利を得ることができるわけです。
大幅に移民を緩和する政策といっていいでしょうか?
移民をどう定義するかにもよりますが、OECDなどの基準によれば、日本はすでに世界第4位の「移民大国」になっているともいわれます。
しかし従来政府は「移民」受入れに慎重で、できるだけこの「移民」という言葉を避け、外国人労働者として彼らを遇してきました。つまり一定期間滞在したあと、母国に帰ってもらうことを前提としていたのです。彼らの永住は欲してこなかったということです。その点で岸田政権は新生面を切り開こうとしているようにも見えます。これについては次の「デイリー新潮」(2021年11月28日)の記事をご覧下さい。
実は岸田氏は自民党政調会長だった3年前、テレビに出演し、外国人受入れ積極策に関する持論を述べています。ですから今回の新方針は場当たり的なものではなく、満を持しての政策だと考えていいでしょう。
しかし外国籍の永住者が増えることは、日本社会にとっていろいろな課題を突き付けることになりませんか?
言いたいことはわかります。社会の分断とか、治安の悪化とか、日本の伝統にそぐわない生活様式の浸透とか、参政権の要求とか、彼らの生活保障問題とか、国家や地域社会が取り組むべき課題は多々ありそうです。そのなかでも私が一番危惧するのは、外国人永住者を安価な労働力とみなすことです。これは日本社会の格差を拡大させるだけでなく、日本の勤労者の首をしめることにもなりかねません。
なぜ各業種で労働力が不足するのか。むろん少子高齢化の影響が大でしょう。しかし、その業種の賃金が安すぎることも原因の一つです。賃金が高ければ、日本人も就労するはずです。政府が外国人永住者を拡大させようとするのは、結局のところ、「特定技能」14業種の賃金を安くとどめておきたいからだ、と見ることもできます。ですから、安くても働いてくれる途上国の労働者を積極的に受入れることにしたのです。これでは日本国民の所得も上がりません。国民所得は「下方修正」されてしまうからです。
わたしは外国人永住者を「労働者」としてばかりみるのでなく、「生活者」「消費者」という観点から見直すことが必要だと考えます。
それはどういう意味でしょうか?
外国人永住者も日本国家を支える成員であり、日本の豊かさの一翼を担う人々です。その消費は日本の市場を拡大させ、日本経済を向上させてくれるでしょう。
それに、先進国を始めとして世界各国では人口減少が進んでいます。若者人口の先細りを補うべく、各国は外国人の受入れに積極的になっています。世界で「移民」争奪戦が起こる日も遠くないでしょう(『日経新聞』「新常識の足音(1)」2021年21月6日)。劣悪な労働環境では、外国人が日本を見限り、永住先として選んでくれなくなります。外国人永住者の増大が、日本全体の豊かさをもたらす体制を作り上げていくことが肝心だと思います。
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