カフェで本を読むのが好きです。最近はコロナで以前の様に頻繁に行けなくなって、公園のベンチで読むことが増えましたが、寒くなってそれもあまり出来なくなりそうです。代わりにカフェを訪れた様な気持ちになるのが、近藤史恵の「ときどき旅に出るカフェ」。食堂を舞台にした小説をいくつか読み、その度にコレジャナイ感があったんですが、これはものすごくハマりました。30代で読んでたら、バイブル的に愛したんじゃないだろうかと思います。
「この世でいちばん好きな場所は自宅のソファ」という瑛子は、37歳の独身で一人住まい。読書や映画は好きだけどマニアと言えるほどでなく、部署では一番上の年齢になり、代わり映えのしない仕事で残業し、この先、映画のような恋が降りて来たり、隠された才能が目覚めることもなさそう。自由気ままだけど未来は見えない。そんな彼女が自宅近くの白い一軒家の「カフェ・ルース」に入ると、店主は6年前に会社を辞めた円。自分の店がやりたいという後輩に、「そんな簡単なものじゃないよ、新規開業した飲食店の7割以上が2年以内につぶれるって雑誌で見たよ、考え直した方がいいよ」とアドバイスし、あんなこと言わなきゃよかったと思うけど、それきりだった相手は、ホントに店をやっていた。北欧の苺のスープやハンガリーのドボシュトルタなどの珍しいメニューは毎月1~8日を定休日にして各地を旅した円が現地で出会ったもので、そのカフェに行くと世界を旅したり、現地の暮らしとつながった様な感じがするのが表題の意味。月の前半が定休日なんていうカフェの営業の仕方、働き方があっても良いなと読みながら思いました。
後半、そっくりのメニューを揃えた資金力のある店が近所に出来、メディアで紹介されたそっちにお客さんが多数押し寄せます。味は円の方が断然美味しくても、円のお菓子を食べたものを知らなければ、このお菓子はそういうものだと思って客は満足してしまう。小説は明らかに円の店を潰そうと意図してる設定ですが、商品のクオリティ以外で人気店が作られていくことってありますよね。全国にある「カフェ・ルース」の様な個人経営の魅力的なカフェが、コロナや大手資本に負けることなく、居心地の良い店であり続けますように。(モモ母)