いっきに寒くなりましたが、皆さんお変わりないでしょうか。気持ちもつい内向きになりがちですが、歳時記をみれば冬の季語はたくさんあります。俳句を通して冬ならではのよさを満喫しましょう。
〇雲一朶寄せぬ月蝕冬ぬくし 恵子
【評】上五・中七までは気合がこもっていていい感じなのですが、「冬ぬくし」がどうでしょう。これはぽかぽか陽気をさす語で、例句をみればほとんどが昼間に用いているはずです。とりあえず「冬初め」くらいにしておきましょうか。
△~〇枝振りを愛でる冬木の桜道 恵子
【評】「愛でる」は人が主語ですから、そのへんをすっきりさせましょう。「枝ぶりを愛で冬木立ゆく二人」など。
△~〇落つてなほ浅瀬彩なす寒椿 美春
【評】「落つて」よりも「落ちて」のほうが落ち着きます。「浅瀬彩なす」ですと複数の花が想像されますが、一つの花に焦点を当てたほうが印象鮮明になります。「落ちてなほ浅瀬に凛と寒椿」でどうでしょう。
〇真っ白の山茶花咲けり畜魂碑 美春
【評】「畜魂碑」が句材としてユニークですね。けっこうです。「真っ白の」は「っ」を大きく書き、「真つ白の」としましょう。
〇悴める手に刷りたてのコピー束 マユミ
【評】コピー用紙の温かさが想像されます。句意は十分に通じますが、「コピー束」がやや窮屈な気がします。「悴める手にコピー紙の温き束」と考えてみました。
〇発光の縄跳する子夕まぐれ マユミ
【評】たしかに光を発する縄跳の縄がありますね。それを知らない人には意味が通じないかもしれませんが、ある程度割り切りが肝心。このままでけっこうでしょう。
〇やうやくに柿をば剥きて夕日影 白き花
【評】干し柿にするための柿をたくさん剥いたのですね。剥き終えたとはっきり言ってしまいましょう。「一山の(あるいは「一笊の」など)柿剥き終へて夕日影」。
◎パンに塗るバター頑固な寒き朝 白き花
【評】久保田万太郎に「パンにバタたつぷりつけて春惜む」という句がありますが、これは春らしい従順なバター。これに対し、白き花さんのバターは冬らしく固い、「頑固な」バターなのですね。とても面白い句です。
〇秒針の動かぬ時計忍冬忌 徒歩
【評】「忍冬忌」とは11月21日、石田波郷の忌日なのですね。ネットで調べて初めて知りました。この季語と秒針への注目がどうかかわるのか、正直なところわかりません。ただ雰囲気のある句ですね。
△~〇沓脱ぎに大きな靴の冬館 徒歩
【評】「沓脱ぎ」は和のイメージ、「冬館」は洋のイメージがありますので、少しアンバランスな気がします。「沓脱に大足の靴木守柿」など季語次第で面白い句になりそうです。
〇散紅葉京の土産に阿闍梨餅 織美
【評】大体よく出来ています。上五・下五がともに名詞ですと、調べが単調になりますので、下五を名詞にするなら、上五は別の形をとりたいところです。また、阿闍梨餅は京都と決まっていますので、「京」も略しましょう。「紅葉ちる旅の土産の阿闍梨餅」。「の」を重ねると紅葉の散る感じが出るでしょう。
△残り菊余生に学ぶ俳句かな 織美
【評】俳句のなかで俳句を詠むのは、落語で言うところの「楽屋落ち」です。俳句を学んでいるのであれば、その学んだ成果を作品にしてほしいと思います。
〇背に伊吹脇往還にしぐれ虹 音羽
【評】格調の高い句ですが、裃(かみしも)を着た句という感じで、もうすこし俗にくずしてはいかがか、と思いました。
〇一尺の不動尊守る竜の玉 音羽
【評】気合の入った句ですが、はたして竜の玉に「守る」という語がふさわしいのかどうか。竜の玉とずっと向き合ったすえに「守る」という気持が心に満ちてきたのなら、もちろんそれでけっこうです。
△~〇耳鳴りの騒めくあした開戦日 妙好
【評】「耳鳴り」といえば「騒めく」は要りません。耳のなかで騒めくのが耳鳴りですから。「耳鳴りのきいんきいんと開戦日」など、いろいろ冒険してみてください。
△風そよぐ枯蓮そそとピアニシモ 妙好
【評】「風そよぐ」と言わずに、枯蓮の動きだけで風があることを示したいものです。「ピアニシモ」も浮いた感じで、季語と合っていません。言葉に寄りかからず、じっくりと対象を観察しましょう。
〇日を溜めて色深めたる冬紅葉 万亀子
【評】日が当たると紅葉の色が増すことは常識の範囲内ですので、あまりオリジナリティーがあるは言えませんが、「日を溜めて」がすこし面白いですね。
△日向ぼこ猫の居座る特等席 万亀子
【評】作者はこの情景を見ていますので、「特等席」ですぐにイメージが浮かびます。しかし読者には、これが戸外なのか、室内なのか、特等席とは一体どこなのか、見当がつきません。もうすこし読み手に親切に作ってほしいと思います。ついでながら、下五の字余りもいけません。
△~〇大文字草持ちてすぐ来し蜂二匹 ゆき
【評】素直に詠まれた句でけっこうですが、7・7・5がやはり気になります。「大文字草持てば来し蜂二匹」(だいもんじ・そうもてばきし・はちにひき)とすれば、5・7・5に収まります。
〇古橋の袂の廃家蔦紅葉 ゆき
【評】「古橋」も「廃家」も古びて色を失い、寂れた感じですが、下五の「蔦紅葉」で一気に華やぎがでましたね。
△小さき手の人参早も驢馬の口 あん子
【評】子供が差し出した人参をロバがぱくっと食べてしまったのですね。「小さき手」は子供とは限りませんので、もし子供のことが言いたいのであれば、この表現はあまり推奨しません。「早も」も消したいところ。「口」で終わるのもなんだか語法としてへんです。まだ句帳のメモ段階。一ヶ月くらい時を置いて見直すと、思わぬ表現が見つかるかもしれません。わたしもよくそうしています。
△散紅葉ふんはり囲む十字墓 あん子
【評】「ふんはり囲む」が間延びした感じです。「降りしきる紅葉に埋もる十字墓」くらいのほうがシャープな句になりそうです。
〇利酒にほんのり赤き妻の顔 智代
【評】利酒は日常の言葉と思いがちですが、実は秋の季語です。ほんのりと頬を染めた妻があでやかですね。利酒に頬を染める句は割とよく見かけますが、とりあえず素直な詠みでけっこうです。
◎ねんねこや寝息微かな子の重み 智代
【評】郷愁をさそう句です。これは子供をおぶった母の立場から詠んだ句ですね。「子の重み」に実感がこもっています。
△~〇冬空の果てに突つ込む飛行機雲 永河
【評】飛行機であれば「突つ込む」で問題ないのですが、飛行機雲が「突つ込む」でよいのかどうか。下五の字余りも気になります。とりあえず、「冬空の果に飛行機雲刺さる」としてみました。
〇人眠り水は清らに木の実降る 永河
【評】これは写生句というよりも、作者の澄み切った境地を詠んだ作品だと受け止めました。写生派のわたしであれば、「人去りしあとの清流木の実降る」となりそうです。
〇猫カフェの出窓に猫と聖樹かな あみか
【評】お洒落な街なかのスケッチですね。猫カフェに猫がいるのは自明ですので、もうひとひねりほしいところです。たとえば「猫カフェの出窓に猫の尾と聖樹」など。
〇~◎冬凪の瀬戸へ石段下りけり あみか
【評】自注に尾道の景とありましたが、その雰囲気がよく出ていますね。季語から「瀬戸」が海をさすことは明らかですので、ややくどくなるかもしれませんが、「冬凪や石段下りし瀬戸の海」という別案も考えてみました。
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1冊1500円です。
次回は12月21日の掲載となります。前日20日(月)午後6時までにご投句いただけると幸いです。河原地英武
「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスは efude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。