全国紙やテレビなどでは報道されていないようですが、福井農林高校演劇部の生徒の演劇「明日のハナコ」が、当初予定されていたケーブルテレビでの放映が中止にされ、さらには記録映像の閲覧不可(DVD作成も無し)になり脚本集の回収が行われた、つまり「なかったことにされる」という事態が発生しました。福井新聞が記事を書いています。
作中に差別用語…高校演劇巡り広がる波紋 主催者が映像化を中止、創作者は表現抑圧と反発 https://t.co/b76GoY8jjJ
— 福井新聞メディア (@fukuinpmedia) November 16, 2021
「明日のハナコ」のあらすじは次のようなものです。こちらのページから引用します。
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舞台はある高校。「ハナコ」たちは今度上演する劇の稽古をしている。その劇は、1948年の福井震災から始まって現在までの歴史をたどるものだった。学校のこと、仕事のこと、戦争のこと、原発のこと、未来のこと・・・。彼女たちはさまざまなことを考え、そして成長していく。
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経緯をまとめると次のようになります。
9月に高校演劇祭が開かれたのですが、コロナ禍のために無観客での開催になりました。しかし福井ケーブルテレビが録画・放映してくれる予定だったので、生徒たちは演劇を見てもらえると喜んでいたのでした。しかし福井ケーブルテレビから高校演劇連盟に対して「個人を特定する点、原発という繊細な問題の扱い方、差別用語の使用などについて懸念している」との連絡があり、検討の結果「明日のハナコ」は、放映中止・DVD作成無・記録閲覧不可・脚本集回収ということになりました。
しかし、「個人を特定」というのは敦賀市の元市長のことで、差別用語の使用というのは、その元市長が実際に行った発言を引用して「こんなことを言った市長もいる」と説明している部分なのです。政治家の公の場での発言を引用してはいけないなんて、ありえない話です。
また、原発問題の扱い方が指摘されていますが、それを問題にすることこそ表現の自由の侵害でしょう。福井県の高校生が自分たちの未来を真剣に考えて学ぶときに、原発の問題を避けて通れるわけがありません。
「世界に類のない原発集中立地のこの県で、こうした表現の抑圧がまかりとおるようになれば、日本中の表現者にとって、重大な抑圧への一歩です…今これを看過したら、今後も権力者や学校当局などにとって不都合な表現は演劇部活動では抑圧・排除されることになるでしょう。」 https://t.co/sh4eYvo67d
— 鈴木 大裕 (@daiyusuzuki) November 17, 2021
キャンペーン · 福井の高校演劇から表現の自由を奪わないで!
高校演劇祭で反原発の意図を盛り込んだ演劇だけケーブルテレビの放映から外される。背後には原電から「支援」を受けるケーブルテレビ局や高等学校文化連盟の意向。
表現の自由を脅かす圧力に抗議の声を! https://t.co/yueTWWWfrm— Komagome Takeshi (@KomagomeT) November 14, 2021
なお、「明日のハナコ」の台本は、全文をこちらから読むことができます。
30ページほどの台本です。私も読みましたが、放映禁止を始めとして「なかったことにする」必要のある作品とは全く思えませんでした。
脚本関係者等も懸念を表明しているようです。
県高校文化連盟(県高文連)演劇部が9月に開催した県高校演劇祭の関係者向けインターネットサイトで福井農林高校(福井市)が上演した演劇作品だけ公開されていないことが分かりました。
県高文連「せりふに差別用語」
脚本関係者「表現の自由への制約」https://t.co/Xjlvh6GGO7— 日刊県民福井 (@kenminfukui) November 17, 2021
台本を書いた元顧問の方などによるブログもできていました。
福井の演劇の件。
ブログができたそうです。 https://t.co/jdyWcDNJyl— M.och (@Mdon78) November 16, 2021
「なかったこと」にはさせないという思いを感じました。
<追記>
「デモクラシータイムズ」で取り上げられていました。こちらから見ることができます。
上記動画によると、今回のような社会問題を取り上げた作品や、公人の氏名が入った作品は今までにもあったそうで、問題にされなかったそうです。それが今回になって問題にされるというところに、強い懸念を感じます。
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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。