ロシアでは9月17日から19日に下院選が行われ、同月24日、最終結果が発表されました。大方の予想どおり、与党「統一ロシア」が3分の2を越える議席を獲得しましたが、政権は安泰とみてよいでしょうか?
これが本当に民意を反映しているのか、疑問を感じざるを得ないのですが、これ以外の結果が出ようのない選挙でした。形ばかりの選挙だったと言うべきでしょうか。
しかし「統一ロシア」も前回より票を減らし、その分、野党が議席数を増やしました。変化はあったのではありませんか?
ロシア中央選管が発表した結果をまとめると以下のとおりです。
第1位「統一ロシア」・・・324議席(前回より10議席減)
第2位「ロシア共産党」・・・57議席(前回より14議席増)
第3位「公正ロシア」・・・27議席(前回より7議席増)
第4位「自由民主党」・・・21議席(前回より19議席減)
第5位「新しい人々」・・・13議席(今回、初参加)
その他、3つの小政党が各1議席、無所属候補が5議席。
計450議席となりますが、その内225議席は比例代表、225議席は小選挙区で選ばれます。今回、たしかに126議席は野党など非「統一ロシア」系候補者から選出されました。しかし彼らを反政権側と見ることはできません。そもそもロシアでは、政党や個人は事前に厳しく審査され、プーチン政権を脅かす存在は立候補すらできないのです。たとえば反体制派指導者のナワリヌイ氏は収監され、彼を支持する陣営は「過激派」指定を受け、関連サイトは国内で接続もできなくなっています。
しかし、他の野党はどうなのですか?
言葉は悪いのですが、政権与党と「同じ穴のむじな」なのだと思います。それぞれの党を率いるリーダーを見ればわかります。「ロシア共産党」のジュガーノフ氏はすでに約28年党を率いていますし、「公正ロシア」のミロノフ氏も前身の「生活党」党首から数えれば党首歴18年、そして極右政党「自由民主党」のジリノフスキー氏は1990年以来、なんと31年間も党首を務めています。つまりこれら野党はずっとロシア政府と共存し、もっといえば、政府批判のガス抜きをする機能を果たしつつ、プーチン長期政権を支えてきた「体制内野党」なのです。今度の選挙のために新党「新しい人々」が結成されましたが、化粧品メーカーの創業者であるネチャーエフ党首は、大統領側近に近しい人物とも言われており、政権批判の受け皿として用意された「官製野党」のふしがあります。実際、結党からわずか3ヶ月で選挙への参加が認められたのは異例です。
ということは、政府与党にとってこの下院選は楽勝だったということでしょうか?
けっして緊張感がなかったわけではありません。ロシアの世論調査によれば、8月22日の段階で「統一ロシア」の支持率は26.4%と過去15年間で最低でした。そこで同月24日の党大会で、プーチン大統領はすべての年金受給者に1万ルーブリの一時金を支給すると表明し、テコ入れを図りました。
投票日も平日を含む3日間に増やしましたが、これは公務員や国営企業従業員を選挙に動員するための措置だと取り沙汰されました。モスクワなどでは電子投票も導入されましたが、モスクワの小選挙区では、電子投票の集計票を上積みしたところ、「統一ロシア」の候補者が共産党の候補者を一気に上回る結果になりました。不正があったのではないかとの疑惑を招くことになりましたが、真相はわかりません。ただ、この投票方法が与党に有利に働いたことはたしかです。
それから、今回の選挙ではウクライナ東部のロシア系住民も投票権を得ました。プーチン政権は2019年以来、彼らにパスポートを支給し、事実上のロシア国民化を図っていますが、その数は52万人強に達するそうです。彼らの多くも与党に一票を投じたものと推測されます。
この選挙結果を踏まえ、これからプーチン政権はどのような政治運営をしていくのでしょう?
下院の任期は5年ですから、その間はひとまず安定するでしょう。憲法改正に必要な3分の2を越える議席も得ましたから、立法もコントロールできます。ロシアでは昨年憲法が改正され、2024年の大統領選挙にプーチン氏が出馬できることとなりました。実は今度の下院選は、この大統領選挙の前哨戦とも位置づけられているのです。このままの体制でゆけば、プーチン大統領が続投を望む場合、最長2036年まで在任することが可能です。そのときプーチン氏は83歳となります。後進に大統領職を譲り、自らは「院政」を敷くという選択肢もあります。ただ、いずれにせよ、プーチン氏の影響力が衰える兆候は見当たりません。国民の間には生活への不満や長期政権への飽きなどが蓄積され、閉塞感が強まっていますが、プーチン政権は野党との「なれ合い」政治を続けながら、新しいビジョンを示すこともなく、長期政権の記録を塗り替える、という道を歩んでゆく気配です。
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