「開放的技術」と「閉鎖的技術」

本を読んでいたら「開放的技術」と「閉鎖的技術」という言葉が出てきた。
「開放的技術」は、コミュニケーション、協業、他者との交流を促進する。とあり、
「閉鎖的技術」は、人々を分断し、利用者を奴隷化し、生産物並びにサービスの供給を独占する。
と書いてあった。
読んでいて、今日の会議を思い出した。

大津市障害者自立支援協議会でアドバイザーの仕事をしている。4年目になる。

ホームページでは、自立支援協議会を以下のように説明している。
「これまでは障害を持つ人の課題は個人の課題と考えられることが多くありました。
しかし障害を持つ人の地域生活を充実させるためには、地域の課題を解決する必要があります。
障害のあるなしにかかわらず、だれもが生活しやすい地域を作るために、誰かの個人的な問題とするのではなく、そこに生活する私たち一人ひとりが自分自身の問題として捉えていく必要があります。その足がかりとして、大津市障害者自立支援協議会を障害福祉にとどまらない、地域協働の場としてみんなが主体的に協議を重ねていける場にしていきたいと考えています。」

つまり、「ひとりの悩みを、みんなの課題に。」という協議の場である。
そのためにたくさんの部会やプロジェクトがあり、わっせわっせと毎日のように話をしている。

先日、オンラインで「放課後等事業所連絡会」という集まりがあった。
大津市内で、障害のある子どもの放課後支援をしている事業者の人たちが集まって話し合う。
30か所近い事業所が参加している。一般的な会社で言えば、同じ業種で同じエリアで事業をしているライバルというとらえ方になるかもしれない。でも、この部会では、自分たちの持っている情報や支援技術を隠したりしない。惜しげもなく出し合い、共有し合う。まさに「開放的技術」

「長い夏休みに、どんな活動をして子どもたちに楽しく過ごしてもらおうか?」というテーマで話し合った時は、みんながそれぞれに「うちはお化け屋敷ごっこしたよ!」「あそこの公園は人が少なくて使いやすいよ!」と自分たちの取り組みを紹介し、「それいいですね!」「うちもやってみよう!」となる。

今日は、来年4月から義務化される「虐待防止のさらなる促進」について、どんな準備をしていけばいいのかなどを情報共有する。事務局をしてくれる事業所さん3か所の方は、誰かからお金をもらえるわけでもないのに、虐待防止センターの方と打合せして、資料を作ったり、「こういう規程を作ったらいいですよ。」というひな型まで提示してくれた。参加者はみんなとても参考になるし、4月に向けて何を準備していけばいいか道筋が見えた。

なぜか。
他の事業所のことなんか、ほっておけばいいじゃないか。それぞれ自分で調べて、自分ですればいいじゃないか。コンサル会社にお金を払って書類作ってもらえばいいじゃないか。できていない事業所が監査で引っ掛かって処分されても知ったこっちゃない。なんならそういう事業所が淘汰されて、自分たちが生き残ればいい。
…そんなことは考えない。

まず、大前提に「子どもたちに楽しい夏休みを過ごしてほしい」「虐待を受けるような辛い思いをする子どもいてほしくない」という思いがある。そして、同じ大津でやっている事業所どうし、お互いに切磋琢磨し合って、地域全体の障害児支援の質の底上げをしていきたい、という思いがある。

部会は他にもいろいろある。先日、グループホーム部会では、8月の大雨で入居者とともに避難することになった事業所の方が、その時の「避難計画」「今回の避難の経過」「準備物」を資料にして提供してくださった。参加者はみんな、リアルなその内容に「もう一回気を引き締めて、ハザードマップを確認しよう。台風シーズンだしね。」と話し合った。お互いの経験を共有することで、大津で避難が遅れて被災してしまう障害のある人を減らすことにつながる。

「開放的技術」-コミュニケーション、協業、他者との交流を促進する。

そうすることで、地域はより住みやすく、豊かになっていく。
虐待や、被災も防いでいくことができる。

本来、私たちは、それをのぞんでいるはずだ。
「閉鎖的技術」で、人々を分断し、利用者を奴隷化し、生産物並びにサービスの供給を独占したいわけじゃないはずだ。自分だけがお金持ちになって、あとはどうなってもいいとは思ってないはずだ。

「開放的技術」でつながれる土壌が私たちにはある。
福祉の世界では、昔からずっと「実践報告会」や「研究集会」で自分たちの実践を共有し合い、意見を言い合い、切磋琢磨して高め合ってきたし、他事業所とも協力しあう土壌がある。
歴史的経過の中では、思想信条の違いとかで相いれないという人たちがいた時期もあるけれど、それも、いま、「それはそれとして」一緒にできるようになっていると思う。

これは、次の目指す社会の姿なんじゃないかとすら思えて来た。

そう言えば、昔、弟と話をしたことを思い出した。私の弟はレストランをしている。
弟は料理の技術とか、道具とか、まったく隠さず、惜しげもなく後輩に教えているという。
ある時、後輩から「なんで、そんなこと教えてくれるんですか?!僕なら絶対に人に教えない。自分だけの秘密にする。」と言われたそうです。
弟は、「自分だけの秘密にしたら、そこで終わってしまう。技術を伝えたら、その人がまた工夫して新たに広がっていく。お客さんも喜ぶし、飲食業界全体があがっていく」と答えたという。

自分の中に閉じ込めておいたら、それは、自分の中だけで終わる。
相手に伝えたら、それは、相手の中にも存在するようになる。
そして、そこに、その人ならではの新たなものも加わって、変化し、広がる。
自分の中にしかなかったものが、たくさんの人の中に伝わって、広がって、変化する。

そうやって、文化や、社会ってできていく。

そんなことを考えた。

ヨコヨコとひろがろう。


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About 坂本彩 41 Articles
坂本彩(彩社会福祉士事務所) 大学卒業後、20年間、知的障害のある人とかかわる仕事をする。2017年に、独立型社会福祉士事務所を開業。福祉施設のアドバイザーや研修講師、成年後見人の受任、大学の非常勤講師などをしている。障害のある人もない人も一緒に「学び合いの空間づくり」をしていきたい。社会福祉士、介護福祉士、障害者相談支援専門員、そのほか、漢方養生士指導士、漢方スタイリスト、薬膳アドバイザーの資格も持つ。