認知症村の住まい

ちょうど1年前、オランダの高齢者住宅を視察してきました。その中のひとつ「Hogewey」（ホグウェイ）は、日本のメディアでも取り上げられたらしくご存知の人がいるかもしれませんね。アムステルダムに隣接するWeesp市の工業団地近くにあります。開設は2009年、12,000㎡とかなり広い敷地を2階建ての建物でぐるりと囲み、その中にひとつの街（村）を再現しています。言葉は適さないかもしれませんが、一種のテーマパークのような造りと言えるかも。この中で152人の認知症高齢者が暮らし、約250人の職員が生活を支えています。メイン玄関は24時間職員が厳重に管理し、残念ながら（？）出入りは自由にはできません。とはいえ、敷地内の街は自由に徘徊でき、再現された商店街やスーパーマーケット、レストランやバーなどで買い物もでき、映画館や美容院などもあります。お財布を忘れてもお金の計算ができなくても、入居者に過剰な負担がない仕組みはおもしろい！と感じました。

 

生活習慣や環境に合わせたユニット

152人の住居は全て個室で、日本のグループホームと異なり各戸はしっかり生活空間となっています。全部で23ユニットに分かれ、1ユニットは6～7戸で構成、それぞれに共有のキッチン、リビング、ホール等もあります。また、ユニークなのは移民の多い国ゆえか、ユニットにそれぞれコンセプトがあり、「文化的」、「伝統的な家庭」、「格調高い」、「都会的」など部屋や共有スペースの造りに意匠を凝らしており、入居希望者は自分の生活習慣や好みのユニットを選ぶことができます。ユニットの配置もアパート形式、戸建て長屋風などそれぞれ異なり、大通りに面していたり、池や木々の向こうにあったりとまさしく「街・村」となっているのです。

 

拘束なのか自由なのか？

敷地内はまったく自由なので、何人かの高齢者がシルバーカーで散歩（徘徊）していました。のびのびとした雰囲気が伝わってきたものの、気になる場面もありました。数名の高齢者がメイン玄関のところでおそらく「外に出たい」と訴えている姿を見かけたのです。いくら街を再現しても、何らかの違和感は人間の本能としてわかるのだろう、と少し切なくなったものです。街の中心広場には、外出ツアー（訪問時はクリスマスの買い物など）も掲示されていたので、スタッフ付添での「街から外に出る」企画はあるようです。福祉が比較的充実している欧州では「拘束」を固く禁じているところがほとんどです。だからこそ「自由」を創出した工夫ですが、ではその外枠は「拘束」にならないのか？なんとも複雑な気持ちになりました。とはいえ、よくできたシステムです。諸外国の高齢者住宅や施設をたくさん見てきましたが、認知症の人の暮らしやすさでは「すごいな～」と素直に感じました。

 

 

 

 

 

 

 

オランダは介護保険を世界で初めて創設（1968年）した国です。ドイツがその制度を真似て、日本はそのドイツを真似て今の介護保険をつくりました。しかし、そのオランダは介護保険を廃止しました。そして、医療（重度介護）と自治体等による生活支援に移行しています。ある意味、今の日本の改正もそれに近づいているかもしれません。もともとの制度や文化・社会が異なるで一概に比較できませんが、福祉先進国の欧州（北欧）も高齢者政策で苦心しています。また別の機会にレポートしてみたいと思います。

 

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山中由美＜エイジング・デザイン研究所＞
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。2016年独立。